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みんな仲間になってく系学園生活!

こんにちは、初投稿のクロノと申します。

小学校の時から書きたい書きたいと思っていた自己満足小説を投稿したものです。何度も言いますが、自己満足です。不定期更新になると思いますが、よろしくお願いします。

ちなみに舞台は現代社会と同じくらい文明の発達した剣と魔法の異世界です。よろしくお願いします。

我らストリートバトラーズ!

作者:96NO−KURONO

1.我ら南十字学園1年生!


混沌。


それは、オレの暮らす世界「派生系中心世界・第132界」を一言で表したとも言える言葉である。


現世・・・つまり生者がすまう世には、星の数以上にたくさんの世界がある。


もともと、現世には原初の世界と呼ばれる世界―通称チキュウと、神々が住まう世界・神界、そして妖怪たちの住まう世界・妖幻界しかなかったという。

しかし、人間が(こうだったらなぁ)とか(こんな世界があったらいいなぁ)とか考えると生まれる【原点玉】という想像の欠片が集まりだし、それが一定量に達し、現実味を帯びた世界像になったとき、妖幻界の王・閻魔王のもとへ昇っていった。そして、閻魔王の了承と少しの訂正を経て、新しい世界が生まれたのである。


こうして、次々と数を増やしていった世界たち。

これだけ世界が増えると、当然トラブルも発生するわけで。


あるとき、ある野心家の神をもつ世界が、「神の御神託に従おう」といいだし、他の世界に干渉し始めた。最初、干渉された側の世界は、「異世界との交流ぐらい他の世界ともやっているし、気にしなくてもいい」と思っていた。

しかし、あまりにも度が過ぎた干渉や、無茶な要求、こちらに対する横暴な態度が目立ち始め、その干渉された世界は、次第に野心家の世界を拒んでいった。

それが気にくわなかった野心家の世界は、ついにその世界たちに宣戦布告し、たくさんの後ろ楯同士の戦争へ発展した。これを、人々は第一次異世界大戦とよんだ。

数千年以上にもわたる戦争は、ある一人の存在によって終焉を迎えた。

その一人とは、神により創造されし神々の血をひく勇者、ルロイ・フェルメールだった。

ルロイは、圧倒的な武力と策で瞬く間に戦争の根源をたたいて回った。そして、新たな世界を作りだし、神々と話し合った結果、異世界間で守らねばならぬ規則を決め、その世界の平和の象徴・天皇になり、様々な世界を一瞬で統一させたのである。


それがここ、ルロイ・フェルメールが作り出し、代々フェルメール家が統治してきた世界……『第132界・通称神々に愛された世界』だった。


人族、亜人族、獣族、竜族、魔族……。ありとあらゆる「智」と「力」が集まったこの世界は、いつしか他の世界から「理想郷」と呼ばれるようになっていた。

その理由は簡単。先進的な法制度に高度な文明、異世界からの移民への対応のよさなど、それだけでも他世界で右に出るものはないのだ。

それに加え、スポーツ。

今、この第132界には熱狂の渦に巻かれた1つの遊戯があった。

「ストリートバトル」。それが、人々を魅了し離そうとしない格闘技型スポーツの名称だった。



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…!!!」

オレは、みっともなくポカンと開いた口から漏れる感嘆のため息を抑えることが出来なかった。

目の前にそびえ立つ大きな影。

山の谷あいから天を突くように伸びるその建物は、緑に溢れた自然景観に全くもって不釣り合いな無機質に光る肌を持っている。白銀色の地色をベースに、所々サイバーチックな青色に光るラインが走っているそれは、校舎だ。近未来的な曲線を意識したようなデザインは、やはり最先端の技術や知識を学ぶにふさわしいと納得せざるを得ない。

今日から入園する予定の新入生を今か今かと待ち受けているようなスライド型の門は、人族が20人並んでも余裕で通れそうな幅だ。

高さ15メートル以上はあるそれの前に広がる、薄い色の艶々した四角いタイルが敷き詰められた門前広場には、大きさも見た目も様々な生徒たちがわいわいとおしゃべりをしているから、視覚的にも相当賑やかである。

何人かの上級生と見られる生徒たちは、彼らより一回り小さい生徒たちに次々に声をかけ、部活などの勧誘をしている。

広場にいる約8割の生徒は、やたらと膨らんだ鞄や大きなキャリーバッグを抱え、それと同じように膨らむ期待と不安が入り交じった表情を変えることなく、キョロキョロと視線を巡らせていた。それは、オレと同じこの「サザンクロス学園」の新入生である証拠であった。

その周りの様子を見て、少し安心した。態度や口にこそ出さないものの、どちらかと言うと今は不安が大きかったのだ。

ついつい頬がゆるむ。オレも、こんな感情を持ち合わせていたのか。


オレ、カズマは、物心ついたときから、親や周囲の者たちに心配をさせるようなことしかしてこなかった。毎回反省はするのだが、元来考えるより先に体が動いてしまう性格だったためか、同じことを何度も繰り返しては呆れられたもんだ。

それでもオレを見放さなかった家族に感謝しなければいけないと思ったのが、中学2年生の冬。もうこれ以上、家族に胃の痛い日々を続けさせるわけにはいかなかった。


しかし、そんな決心もすぐ揺らいだ。進路指導の際に知ってしまったのだ、この学園のことを。


サザンクロス学園はこの世界はおろか、異世界でも超有名な、ストリートバトルの選手の育成校だ。性別、種族、身分、出身地などは一切関係なく、その人の成績や人格で評価してくれる、とてもいい制度の学校だ。

広い敷地に、先進的な教育制度、寮や食堂もついており、私営の交通手段も直結している。それに加え、この世界の一大都市も近くにあると、まさにいいことづくめ。

当然、目指す人は多かった。

オレは、もともとストリートバトルの観戦をするのが好きだったのもあり、一瞬でこの学校に魅了されてしまったのだ。


もう抑えは効かなかった。考えまいと目をそらしても、向こうの方から思考の隅でちらっちらと自己主張を繰り返してくるもんだからたまらない。

無理だ。オレじゃあ入れない。名門の難関校だぞ。他の頭の良いやつでも何百人も落ちているのに、オレみたいなやつが入れるわけがない。

そう言い聞かせていた。


そしてその考えにとりつかれたような日々を送っていたある日の朝、ふと我に返ると、自分の席につき呆然としてる自分と、「サザンクロス学園」と記入された進路希望調査票を難しい顔で握りしめた担任教師がいたのだった。


結局、オレは負けてしまったのだ。


数日後のホームルームで、進路の話になった。そのなかでサザンクロス学園の話題が出ると、クラスメイトたちは口々に「俺は推薦入学枠に入ったんだ」とか「私の兄がサザンクロス学園の生徒会長候補でー」などと喋りだす。すると先生が独り言のように呟いた。

「そういえば、成山はサザンクロス校志望だったなぁ…」


教室が沈黙に支配される。痛いほどの視線を浴びて、顔がピクピクとひきつった。


一瞬の間の後、弾けるような爆笑の渦。

「成山が?無理に決まってるでしょw」

「今までもバカな奴だとは思ってたけど、まさかここまでとはなぁ」

「たしか成山って、この前の中間テスト後ろから数えた方が早いんじゃなかったっけ?」

「立場をわきまえろよな~w」

好き勝手に蔑むような声を投げ掛け続けるまわりのやつらに、オレは耐えるしかなかった。あいつらがいってることは、全て事実だし、自覚していることだったからだ。

拳を握りしめ、周りを睨み付けそうになる眼を明後日の方へ向ける。

それを見たクラスメートたちはよりいっそう盛り上がった。

先生がさすがに、と割って入ろうとしたときだった。


「うるさい!!!お前らはいつもそういうことしか言えないのか!!!」


鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をして、クラスメイトがある一点を凝視した。

そこには、オレの悪友であり、幼馴染みのあいつが立ち上がって周囲を鋭い眼光で睨み付けていた。勢い良く立ち上がったためか、座っていたはずの彼の椅子は後ろへ倒れてしまっていた。

一瞬、何が起こったのか分からなかった。

そして、ようやくその意味に気づいたとき、彼は言い放った。

「夢を見て、希望を持つことの何が悪い!あいつはたしかにアホだ。それは俺が一番よく分かってるつもりだ。だがな、あいつは愚かではない!生きていく上で正しい選択などありゃしない。それでもあいつは、自分の能力を見極め、自分と話し合った結果にこの選択をしたんだ!それは誰がどう言おうとあいつの勝手だ!俺は知っている。あいつは一度決めたことを簡単に曲げるような男ではないって!」


彼は普段、あまり感情をもろに表へ出すような質じゃない。

それを、オレのために、あんなに本気になって怒ってくれている。

「まぁまぁ、落ち着けよ。あいつらは他人を蔑むことでしか自尊心を維持できねぇ哀れな奴らだ。これでナルが合格した時のあいつらの顔が見ものだぜ!なぁナル、お前受かるしかねえじゃん?そんなしかめっ面よりいつものアホ面の方がよっぽど似合ってるぞ」

もう一人の幼馴染も派手にドンッと音を立てて机に足を置き、周りを鼻で笑いながら言い放った。鋭い三白眼にガタイの良い体をもつ彼に睨みつけられたら、周りの奴らは口をつぐむしかなかった。

あいつは口こそ悪いが、本当に心から応援してくれていることがオレにはよくわかった。


嬉しい。


自然と視界が歪んでいった。それを隠すようにうつむいたオレは、改めて思った。

(オレの幼馴染みたちは、やっぱり本当にいいやつらだ。何で俺は、こんな大切なことに気付かな

かったんだろう。)

再びヒソヒソと話し始めたクラスメートを尻目に、彼らはじっとオレを見つめていた。

オレは、口パクでありがとうと言い、ぎこちなく微笑んだ。

それを見た彼らは、ちょっと困ったように眉を下げながら、もしくは不敵な感じでニヤリと、笑い返した。


(たしか、あいつらもサザンクロス校志望だって言ってたはず。あいつらと一緒に、絶対入学して、あのクソ野郎共の鼻をあかしてやる!)


そしてオレは、自分の選択した道を一歩一歩踏みしめ、進み始めた。



(なつかすぃ…。あいつらもオレもガキの頃から変わってないってことだな)

結局、オレのことをバカにしたやつの大半は一次試験の段階で落ちていった。

そう考えると、オレ結構頑張ったんじゃね?

幼馴染たちの言うとおり、『合格』と書かれた通知表を握りしめて教室に転がり込んで来たオレを見た時のクラスメートの顔は傑作だった。これでもかというほど目や口を開けて、「え?」「………えぇぇ?」「えぇぇぇぇぇぇええ!?」しか言ってなかった。マジで面白かった。

ちなみに、謝罪はなかった。くそがァ……

でもそのあとの下校途中、同じように合格通知表を手にした幼馴染3人で大笑いしながらもみくちゃ状態で転げ回ったもんだから、家に帰ったあと3人して「こんなに服を泥だらけにして!!」と叱られた。みんなで正座して聞いていたけど、終始ニヤニヤしっぱなしだったからいつもより説教が長引いたとだけ言っておこう。

一人門前で回想に浸っていると、誰かが肩に手を置いた感覚がした。

……いや、別に驚いてねぇし?イキナリ過ぎて思わずビクッとしてなんか無いし?え?嘘言うな?殴るぞこの野郎。

「よう、ナル。なに呆けてんだ?せっかく入学できたのに、もうホームシックか?」

後ろを振りかえると、かれこれ14年以上の付き合いの幼馴染みの一人、アキラが立っていた。

こいつは黒髪に金色の瞳、黒い羽毛に覆われたやや大きめな双翼を持っている、黒天空族らしい姿をした少年だ。

灰色のパーカーのフードをかぶり、ジーパンをはき、赤い×印が描かれた黒い眼帯を右目につけている。

はっきり言って厨二くさいとおもっただろ、お前ら。一応、眼帯をつけてる理由はあるんだが、それはまた今度の機会に話すとして。

高校生なんだから少年じゃないだろっていう声がきこえてきたが。

まあたしかに普通だったら青年とかって呼ぶだろうが………その、ほら。そういうのはさ、本人を前にして考えちゃいけないことって言うか。

別に身長150センチ弱しかないオレと同じくらいの背しかないとかそんなんじゃ………。

「ナぁルぅ?お前、今何か大変失礼なことを考えてるんじゃないだろうな」

アキラに疑い深い視線を向けられてしまった。

こ、こいつ………ッ………

「まさかエスパー!?」

「図星なのかよ。心の声がもろに口から出ちゃってるよ。てゆうか隠す素振りくらい見せろよ」

流れるような突っ込みをきめられてしまったぜ。むう、こいつ前より背が高くなって男前になってきたから余計腹立つな。

もともと天空族は長寿の種族のため、見た目の劣化がかなり遅い。少年体から青年体に変わるときのみ、一夜で急激な成長を遂げるのもこれが原因だ。

それに加え、この世界の成人男性の平均身長は175センチ前後。高校生でも、せめて170は行くところであるため、オレたちの背の低さが際立って見えるのだ。

この前なんか小学生に間違えられたし。………泣いてねぇよ?

まあそれはそうとして。しばらく黙っていたのがいけなかったのか、アキラに訝しげな視線を頂戴してしまった。

オレはアキラの肩にそっと手を乗せる。

「さすがだぜ。」

「何がだよ。意味がわからない。挨拶しただけなのに反応にどんだけ時間かけるつもりだよ。ヤバイなお前。」

「いや、しばらく話すどころか顔すら見てなかったからな。ツッコミの精度が鈍ってないか試したまでよ。」

オレが感慨深そうな顔をしてうんうんと頷くと、アキラは苦笑した。

「顔すら見てないって…。お前なぁ、俺は何度もお前を見たぞ。まぁ、お前は受験勉強に必死だったから見えてなかったのかもな。」

最後の方はくっくっくと笑いを噛み殺しながら言った彼の言葉に、俺はついムッとしてアキラを睨み、砕かんばかりの勢いで奴の足の甲を踏みつけた。

「ふふっ。そんな顔すんなよ。最終的には受かって、こうして入学できてるんだからさ。それより、ジュンのやつを知らないか?あいつも今日入学のはずだったんだが。」

くっそ、涼しい顔でスルーしやがったコイツ!オレの渾身のフットブレイクアタック(仮)だったのに!てか、穏やかな微笑みを浮かべて「ん?」とか言うんじゃねぇ!腹立つわ!!


それはそうと。

ジュン。それは、オレたちのもう一人の幼馴染みのあだ名だ。

本名、。翼魔人族。銀色の短髪に、血のように赤い瞳、コウモリのような皮翼に淡い紫色の肌を持つ彼は、鋭い三白眼も相まってかなりの強面だ。身長も高く筋肉質である。

しかし、彼は言葉遣いこそ悪いものの、内面には魔族には珍しいほどの優しさを持っている。彼もまた、このサザンクロス学園に入学する予定なのだ。

………え?流した?人間、落ち着きが肝心ですよ、ええ。あ、オレ白天空族だった。

えへ。


…………そこ、キモいとか言うな。泣くぞ。


白天空族の特徴としては、白い肌、金髪に、蒼い瞳には漫画でいうところの『キラーン』といった感じの模様がはいっている。

ふわふわとした白い羽毛に覆われた双翼は、黒天空族に比べて小さめである。

オレの見た目も、そんなものだ。男にしては少し髪が長めで、少年体にしても小柄な体躯くらいしか基本的な違いはない。あ、今自分で言っておいて心に刺さった。自虐の季節かな?・・・・いや、そんな季節があってたまるかっ!

あと、幼顔で女顔ってよく言われる。

……………そうかなぁ?

服装は、青と白のツートンキャップを後ろ向きにかぶり、「塩」というロゴが入った白いTシャツのうえに黄色いつなぎを着て、蒼いラインの入った靴下とスニーカーを履いている。

ちなみに、この塩Tはオレの自作だ。他にも色々作品がある。


しばらく二人でキョロキョロしていると、門の内側…校舎側の中庭に、淡い紫色の影を見つけた。向こうもこちらに気づいたようだ…と思った瞬間、

『よう、久しぶりだな。ナル、アキラ』

「こ、こいつ……っ。直接脳内に………。」

ジュンだ。ジュンはスキル【念話】を行使して俺たちの脳内に直接語りかけているのだ。こいつ、イキナリ過ぎるだろ!毎度毎度マジで驚くわ。

で、今こうして思考したことも…。

『ハハハ、ナルはビビりだな。クソダセェwww』

羽毟り取りてぇ!!!

くっそ、あいつにはやっぱり筒抜けじゃねぇか!!百回死んでこいや!!!

『とりあえずナルのクソ失礼な暴言はこの際スルーしよう』

「オレ今何も言ってないよな!?」

『うるせぇ、死ね』

「ひどくない!?」

「で、どうした、ジュン」

「アキラ!?流さないでいただける!?」

オレの扱いが酷いことは気のせいじゃないよな!?お兄さん泣いちゃうよ!?

『そろそろ講堂に向かわないと、入学式始まっちまうぜ?』

「あ!そうだった!!!」

「行くぞ、飛べ、二人とも。」

焦燥が俺たちの双翼をバッと広げた。そのまま白いふわふわとした翼と、漆黒のしゅっとした翼、ドラゴンのような皮膜の翼を力強くはばたかせ、大空へと飛び出した。



「第132界ジャポン国サザンフィールド街立サザンクロス高等学園、1学年A組。アルフォード・リカルス!」

「はい!!」


大講堂にて。今は入学式の真っ最中だ。

大講堂は、学校の敷地の東側に位置している。円形の塔のような形だ。

例のごとく、壁の色は艶やかな白である。ところどころに銀色の縁取りや、サイバーチックな青色に光るラインが入っていて、ざ・近未来って感じだ。

オレの住んでた白天空族の里は、どちらかと言うと基本世界・・・通称【チキュウ】の中世ヨーロッパみたいな町並みだったから、なんというか非常にたぎります。ええ、いろいろと。

内部構造としては、一階がフロント。トイレとか大階段、二階部分にある壇の舞台下楽屋?みたいなのがある。ちなみに、トイレは男女それぞれ五十以上の個室がある。

二階は大講堂。まず、四角い体育館を思い浮かべてみてほしい。大体の人は、一辺に一段高い舞台があって、他の大部分は運動のできるスペースがある、といったものを思い浮かべるであろう。

ここの大講堂の場合、そのスペースに固定された長椅子がいくつも並べてあって、それを円形に曲げた感じだ。オレの語彙力だとこの説明が限界です。はい。

全体的に白とか銀とかの色をしていて、長椅子の形も無駄に曲線的である。

壁にはまるっこいスピーカーや、小さめな液晶がついている。なんか、全体的に平べったい建物だ。

そして今、小太りのワイルドな副校長先生が壇上に立っている。背が低く、肌の色が濃いところからすると、彼はドワーフ族だろうか。何度も手に握りしめたハンカチで汗を拭いとっているのを見てるだけで暑苦しい。

ちなみに校長先生は火急の用事のため不在だそうだ。


てゆうかなんだよ、校長が入学式ほっぽり出すほどの火急の用事って。怖ぇよ。


あの後、結局猛スピードで講堂入り口に突っ込み、式開幕には間に会った。突っ込んでいった弾みで担任になる予定の教師にぶつかってしまったというアクシデントはあったものの、笑って許してくれた。やさすぃ。

担任の名前はルル・ガルシア先生。短く刈り揃えられた黒髪に、やや褐色の肌、どちらかと言うと細マッチョな感じの長躯。たぶん長人族。

長人族とは、人間族の亜種で、高身長で褐色肌、そして大多数の人が筋肉質な体躯を持っている種族だ。主にこの世界の南西に位置する大陸の大砂漠に里が密集しており、筋肉質なのは基本的に肉体労働系の生活をしているからだと言われている。

また、飢えや渇きに対する耐性が強く、勇猛果敢な性格の者が多いそうだ。

この種族の民族衣装は現在でも多くの長人族が普段着として着用しているが、他民族の間でも密かに注目を集めているらしい。

おおう、オレらしくもない解説なんかしてしまったぜ。

クソ親父、オレはまた一歩大人になったよ。

そんな下らない茶番を振りきって意識を式の方へと戻す。


…………………………………。


……………ん?なんかやけに静かだな?さっきまで点呼とかやってたはずなのに。それにみんなこっちを見ているような………。

「………1組、成山カズマくん。」

「!? はいいいいいいいいいいいッ!?」

見事なまでに裏返った声が響き渡った。


というか、オレだよ。


















2.我ら3バカつばさ組!


なあ、お前ら。第一印象ってすごく大事だと思わないか?

『ナルwwwwお前サイコーだなwwwwめっちゃ声裏返ってぶふぉwwwwwww』

【念話】によって脳内で笑いころげてやがるクソ野郎ジュンにあとで一発と言わず何発でも蹴りを入れてやるという衝動にかられながら、オレは羞恥に悶え苦しんでいた。

何を隠そう、先ほどオレは思考にとらわれすぎて自分を呼ぶガルシア先生の声に気づかなかったのだ。そして、驚いたのと羞恥によってびっくりするくらい裏返った高い声で返事をしながら立ち上がってしまったのだ。

オレってあんな声出るんだな。『その声どっから出してるんだよwww』とか言いながら笑い転げてる(ちなみに見た目はすまし顔だが、小刻みに震えている)ジュンを睨みつけるが、当然どうしようもない。今は入学式の真っ最中。殺意を覚えたとしても、吐き出し口がないのだ。

さらば、オレのハッピーなスクールライフ。

おう、あー ゆー えんじょいんぐ すくーるらいふ? そぉですかなぐるぞ。

うわぁぁぁぁん!オレのライフは0よ!

その間にも脳内で暴れまわるノイズをなんとか遮断しながら耐えること一時間半。やっと入学式が終わりました。うん。終わった。

上級生たちはみな寮に帰り、保護者はそこらへんで世間話に花を咲かせながら講堂を出ていく。残ったのは新一年生の担当教師と新入生のみ。

入学に当たっての心構えやらなんやらの説明はそわそわしっぱなしのオレたちの耳には届いていなかった。先生たちもそれに気づいているのか、苦笑いをしながら話を続けていた。

まあさきほどのアクシデントのせいで周りからの視線は若干痛いものの、オレはへこたれない!どうよこの男気溢れるオレの態度!見習え野郎共!………ごめんなさい。

まあ、そんな感じで新一年生は和やかなムードで迎え入れられ…………


「な、なんだ、この膨大な魔力は!?」


………なかった。

いきなり先生の纏う雰囲気が一転した。生徒たちもそれに気付き怪訝な表情を浮かべている。

刹那―――


突如鳴り響く轟音と驚いて泣き叫ぶ鳥たちの声、生徒たちの小さな悲鳴。

講堂内につけられた警告用の赤いランプが狂ったように点滅する。

不安げな顔を見合わせてざわつく新一年生に追い打ちをかけるように、校舎内アナウンスが焦ったように早口で告げる。

『校内に侵入者が現れました。先生方は至急校庭に生徒を集め、点呼を行い安全を確保してください。生徒たちは自分が正しいと思う最善の行動をするよう心がけてください。寮にいる上級生にも次のアナウンスで伝え――!?』

ガゴッという鈍い音とアナウンサーの短い悲鳴の後、プツリとアナウンスが切れた。先生たちの顔から血の気が引いていく。次の瞬間、

「生徒たちは担任教師の後に慌てずついていき、校庭で身を守れ!自分で考えてしっかり行動しろ!!いいな!!!」

ベテランと見られる大柄な教師が大声で叫んだ。パニックに陥ってしまった生徒たちは、走って講堂を出ていく先生の後に続いて出入り口に殺到する。

そこに団結の二文字はない。必死になって近くにいる者を押し退け、我先にと出ていく。

この学校には身分の高い人もそれなりの数いるため、それを狙った侵入者が入ってきたのかもしれない。

「ナル!」

後方の窓の方を見たまま立ち止まっているオレに、幼馴染二人が走り寄ってくる。

「ジュン、アキラ!どうする!?」

「どうするもなにも、先生の言うことに従うしかないだろう!」

ジュンが低い声で怒鳴る。その迫力に思わずうっとうめくが、ここで言うのをやめるのは違うと、オレの危機本能が警報をならす。

もとよりオレら天空族の祖先は、未来察知能力があったとされている。オレたちの代になった今ではその能力もうすれ、今は第六感がやや鋭いといったところにとどまっているが、特に黒天空族のアキラはその傾向が顕著なため、オレのいうことに少し共感しているようだった。

「寮には学園全体に鳴るアナウンスが届かない!この事を上級生は知らないんじゃないのか!?さっきのでアナウンス用の機械は壊れちまったみたいだし、このままじゃ…!!」

先程の入学に当たっての注意事項にあった内容を思い出す。

学園全体に通信できる放送設備。放送室は本校舎にある。しかし、あまりにも広いこの学園敷地内に、唯一放送が届かない場所がある。それが生徒寮区画だ、と。

オレの言いたいことがわかったのか、二人が息を飲んだ。

「で、でも寮にも先生は居るんじゃねえのか!?」

「寮に先生がいたとしても侵入者に関する情報は届いていないはずだ。こちらにいる先生方は生徒を避難させるのに手一杯だと見受けられる。だが、別に俺たちが知らせに走る必要はないんじゃないか?」

焦ったジュンが早口で捲し立てると、冷静に状況を分析したアキラが口を挟む。こういうときにこいつは頼りになる。

「で、でも…」

まだ納得しきっていない様子のジュンに、思案顔のアキラ。

もう一押し必要だ。何か決定的な何かが。こいつらはオレと違って割と思慮深く、理論的に行動するタイプだ。だから…もう一押し!

オレの、どうしてこんな名門難関高校に受かったのか永遠の謎になりそうなくらい足りない脳みそをフル回転させる。

たしかに、オレたちが行く必要はないのかもしれない。この事を先生に伝えて、俺たちは避難すれば良いのかもしれない。

でも、でも、でも……!!!

「ジュン!」

「!?」

「先生のステータス調べられるか!?」

情報制御系スキルに特化したジュンは、スキル検定マニアだ。

所有スキルには2つある。

1つは、もともと自分の中に眠っていた個性としてのスキル、固有スキル。

もう1つは、検定に合格して、神の加護として授かるスキル。

彼がいままでさんざん受けてきたスキル検定に、たしかステータス鑑定というものがあったはずだ。

「!! おう、任せろ!スキル同時展開、【情報処理速度上昇】【ステータス鑑定】!」

スキル【情報処理速度上昇】と【ステータス鑑定】が同時発動した。

瞬間、ポワンという音と共に、ジュンの回りを取り囲むようにしてサイバーチックな青緑色に発光した情報盤が映し出される。

いちばん上の欄には、先生たちの名前。

なかば睨むかのように、オレはそのステータスに視線を走らせる。

15。

38。

23。

46。

それは、どれも速度…スピードの値。

オレたち一人一人とくらべても……低い。

この学校の敷地はただでさえ広い。しかも、大講堂と寮とは真反対に位置するのだ。

「ナル、一体……っ!!!」

ジュンの悲鳴のような怒鳴り声に答えるように、勢い良く白い双翼が広がった。

なにか言おうとした二人を制するように睨み付ける。


伝われ。

オレの言葉じゃ、これが限界だ。

今は、説明してる時間も惜しい。


最初、二人は怒りと困惑が入り混ざったような表情をしていたが、徐々に苦笑いへと崩れていった。


以心伝心。一心同体。

オレらを表すのにはちょうどいい言葉だと思う。

「オレらなりの正しい選択、してやろうぜ!」

不適な笑みを浮かべた幼馴染み組3人は、双翼を開き、いつもの''イタズラ心''を解放させていく。

「おい、君たち!いつまで喋っているんだ!早く、校庭に…!!」

必死の形相に汗を浮かべて駆けてきたガルシア先生の言葉が言い終わらぬうちに、翼をもつ3人組は窓の桟に足をかけ、一気に空へと飛び出した。

体にかかる重力を感じながら、オレは右手を天高く突きだした。


「先生ぇ!!オレら''正しい選択''したいと思いまぁぁぁぁす!!!!」






宙に消えた3バカを見送った先生の口元に怪しい笑みが浮かんだが、それを見た者はいない。






3.我らが正しい選択だ!


「おい!アキラ、寮はこっちであってんのか!?」

「知らないぞ!ジュンはわからないのか!?」

「あ”!?俺ばっかあてにすんじゃねぇよ!!」

「今はそんなつまらない意地を張ってる場合じゃないだろう!」

「ジュン、アキラ、うーっるっさい!ただでさえこの学園広いんだから、お前らも探す努力しろよ!」

「「してるし!!!」」

空中で言い争いをする幼馴染み二人に、俺はイライラしていた。

さっき言った通り、このサザンクロス学園は国内……いや、第132界内で一番広い学校だ。歩いて端から端までいこうとすれば、人の足で二時間半は余裕でかかるだろう。

それもそのはず、この学校の敷地内には校舎、寮を始め、だだっ広い校庭、ドームつきの屋内プール、体育館にコロシアム、極め付きには私有火山に森と湖と来たもんだからたまらない。校内でバスや自転車が走っているのも頷ける。

ふざけてるだろ。

敷地面積1億平方キロメートル以上って、どんだけだよ。

空から見ると、圧巻である。これを圧巻と呼ばすして何を圧巻と呼ぶのだって感じだ。

校庭へ向けて避難して行く生徒たちを眼下で見ながら、ひたすら視線を巡らす。


どこだ。

建物はたくさんあるが、そのなかでもやたら大きい建物を探す。


見えた。


でも、遠い。

くそ、もっと速度を上げられれば!

「アキラ!速度付与できるか!?」

「! ああ、まかせろ!」

アキラのスキル【付与術】が発動する。

すると、体の中からなにか暖かいものがじんわりと体に伝い始め、翼の付け根や足に纏わり付く。【移動速度上昇】付与術だ。

瞬間、ぐんと体にかかる圧力がます。

すでに、目標物は目の前であった。

…………って、え?

ドッカァァァァン!

突如、俺の目の前が真っ暗になり、お星様が飛んだ。

「うぼぁぁっ!!?」

文字通り目の前でしたよ!?クソ痛てぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

正面衝突!単純すぎるほどに痛い!!

「ぶっふぉwwwwwwwwwww」

「なるぅぅぅぅwwwwwwwwwwwww」

「おまえらぁぁ!!わらうなぁぁぁぁぁ!!ていうか、アキラぁ!お前俺だけ強化しすぎだボケェ!!一秒足らずで一キロ進むってどんだけだよ!!!!」

そう、強化する前は一キロ以上あったはずの建物に、俺は一秒後に激突したのだ。アキラとジュンはまだあと十メートルは後ろにいるのに。

「ナルwwwごめんwww加減間違えちったwww」

「ごめんに反省の色が見えねぇよ!!!どう考えても確信犯だよ!!」

「ナル、止まるなよ。今はそんなこと言ってる場合じゃwwないwwwだろぉwwwwww」

「ジュン!そこは笑うなよぉ!ああもう!覚えてろよお前らァ!」

そう言って、追いついてきた二人と共に学生寮の入り口前に降り立った俺を見つめる赤い瞳に、俺たちは気づかなかったのである。



「やっぱり……、なんかおかしい……………!」

学生寮に足を踏み入れたとたんにわかる、はっきりとした違和感。

たしか、中学生のときに体験入学で見たときには、こんな雰囲気じゃなかったはずだ。

鼻につくつんとした異臭。

妙にとがった空気。

そして、異常な生徒たちの声。

賑やかにばか騒ぎしている声ではない。

なにかに熱狂して大騒ぎしている声でもない。

これは、悲鳴だ。

困惑した不安の声だ。

不安から来る恐怖の声だ。

恐怖から来る、絶望の叫びだ。


建物の上層部から聞こえてくる、ものをひっくり返したような音、バタバタと走り回る音、怒鳴り声、悲鳴、爆発音……。

「おい!見てみろ!床に、血が………!」

ハッと見ると、白い艶やかな床に、ハッキリとわかる赤いシミ。

もしそれが血だとするなら、垂らされてまだいくらかもたっていないのか、まだ乾いておらず、踏んでみるとびーっと赤い線がのびた。

「………っ!どこかにつづいてるみたいだな………」

「いくぞ、お前ら!念のため、戦える準備はしておけよ!」

周りを警戒しながら赤いシミをおっていく。最初はやや点の感覚が広かったが、途中からだんだん狭くなっていき、最後には足をひきずりでもしたのか血痕がのびていた。

そして………。

「ここ、みたいだな………………。」

赤いシミが続いていった先には、一階の一番端にある放送室があった。

暗証番号をいれると開くタイプのスライドドアには、必死になってしがみついたような跡がついている。しかし、何かに強引にこじ開けられでもしたのか、硬い合金で出来ているはずのそれは酷く歪んでしまっていた。

ちらりと、俺は横を見る。


それは、最終確認のようなものだった。

正直言って、俺はかなり不安だった。

ここに入ったら、もう後戻りはできないと思う。

取り返しのつかないことになってしまうんじゃないか?

そもそも、俺は勝手に自分の提案を正しい選択といったが、もしそれが間違いだったとしたら?

俺についてきたことで、この二人が、傷ついてしまったら?

死んで、しまったら?


「なる、ナル。落ち着け。大丈夫だ。」

おれはどうやらかなりこわばった顔をしていたようで、ジュンになだめられるように肩を叩かれた。

「俺たちはお前を信じてるし、お前も俺たちを信じてる。ちがうか?………大丈夫だ、お前は、できる。俺たちなら、できる」

それは、なかば自分に言い聞かせるような口調だった。アキラは、笑ってこそいなかったが、いつものイタズラをして里中を駆け回ってた頃と同じ顔をしていた。

「……………ああ、できる。できるな。……今までだってやって来たんだ。やってやろうじゃん?」

おれは、大きく深呼吸をしたあと、やや無理矢理感はあったものの、にぃっと笑い、言った。

「おし、いくぞぉ!!!!」

「「おう!!!!!」」



中に入ったとたん、きつくなる異臭。そして次には、これが血の臭いなのだと気づく。

「う、うぐ………?だ、誰だ?」

何かが動く感覚があったので、鋭くそちらを向く。そこには、傷だらけで血まみれの、満身創痍な長身の男子生徒が壁にもたれるようにして座り込んでいた。

「!! 大丈夫ですか!?ひどい怪我じゃないですか!!」

「き、君たちは……」

「オレたちは、新一年生の成山と、神木、河合っす!一体、なにがあったんすか?」

「俺は、三年の鷹田、鷹田 塁……。この寮の、男子の監督を任されている。警報が鳴ったから、アナウンスを待っていたんだが、…うぐっ……はぁ、いつまでたっても流れないから、とりあえず放送で避難を誘導しようとしたんだが……着く前に…、“ヤツ”が現れたんだ。」

鷹田先輩は、みたところヒューマン……純粋な人間のようだった。金髪を短く切り揃えていて、肌は健康的に日焼けをしている。そして、やはりかなり重症のようだ。喋っているだけでも辛そうだったが、情報収集はしなければ。

おれがとっさに白天空族の使える光魔法で鷹田先輩に回復術をかけると、鷹田先輩は小さく「ありがとう」といった。

「・・・ヤツ?いったいだれなんです?」

アキラが聞き返す。

「ヤツは・・・赤い肌に、金色の巻き角、筋骨隆々とした巨躯に、溢れんばかりのどす黒い魔力・・・一瞬で分かった、あいつはデーモンだって」

思わず息を呑んだ。

デーモン。それは、この世界の知的生命体なら誰でも一度は聞いたことのあるほどに有名な種族だった。


いわく、破壊神。

いわく、生きる厄災。


高位魔族の一種であり、魔人族の上位互換である。

突出した腕力に、膨大な魔力。それらの力を持っているデーモンは、基本的に皆好戦的で、力至上主義を掲げる、絵にかいたようなバーサーカー。

おとぎ話や伝説に幾度も悪役として登場しており、いいイメージを持っている人は非常に少数だ。

「で、でも………。デーモンはもうこの大陸にはいないはずじゃなかったんですか!?」

ジュンがそう叫んでしまうのも無理はない。

この第132界には、五つの大陸がある。

そのうちの一つとして、中心に、ドーナツ形の大陸がある。これはサーコー大陸と呼ばれている。中心の湖・世界湖の回りに都市が集中した温帯気候の大陸で、山が少なく、平原が多く広がっている。世界湖の中心には、世界樹が天を突くように伸びている。

世界樹は世界最大にして最古の広葉樹で、大陸の端からそちらを眺めてみてもぼんやりと影が見えるほどの大きさをもつ。世界樹の周りの小さな島は聖域と呼ばれ、許可証のある者しか入れないようになっている。また、世界樹の排出する膨大な量の聖なるオーラとも呼べるそれのお陰で、湖周辺には一切の魔物が確認されていないそうだ。

なぜここまで大きな木が生えたか、真相は今だ解明されていないが、一番有力な説として、『遥か昔に召喚された異界の勇者たちによって力が授けられた木なのだ』というものがある。これは、世界樹のてっぺんに今も置かれている宝箱(今はつるや枝が絡まってしまっていて開けるのはなかなか難しい、というか世界遺産だから勝手に開けると罰則がある)にはいっていた古代の巻物にかかれていたことだ。

その勇者リーロ様が、太古の昔に魔王側についていたデーモン族を根絶やしにしたらしいのだ。

かなりの数いたはずのデーモン族が根絶やしにされたというのだから、勇者の規格外さがわかるだろう。

これは、中学の歴史で習ったことだったから、みんな知っている伝承である。

しかし、そのデーモンの生き残りがいたとなると、これはもう最悪である。

俺たちじゃ対処できない。

それに、このサザンクロス学園はサーコー大陸の世界湖にかなり近い位置に建っている。必然的に世界樹の力によって魔物は近寄れないはずなのだから、この話が本当なら十分異常事態である。

「俺も最初は目を疑ったさ。だが……あの圧倒的な力を目の当たりしたら、いやでも信じざるを得なくなる」

先輩の青い瞳が恐怖に染まっていた。そう聞くと、やはりそうなのかもしれない。

アキラはやはりいつもの無表情だ。しかし、俺と違って頭の回転が早いあいつは、必死になって現状打開の策を巡らせているに違いない。

「侵入者と聞いてテロかと思って来てみれば………思いっきり厄災級の大異変に出くわしちまったな」

ジュンが苦虫を大量に噛み潰したような顔をして唸った。

ジュンは翼魔人族だ。例え厳密には違うとしても、同じ魔族が校内で暴れ回っていると分かればいい気分はしないだろう。まして、ジュンは魔族には珍しいほどのお人好しで、平和主義者だ。彼自身、魔族という種族にコンプレックスを抱いているくらいだから、その心中はお察し状態だ。

「ジュン、お前機械技能系統のスキルは何を持っているんだ?」

ようやくアキラの考えがまとまったようで、ジュンに話を振る。

「ん、ちょっと待て…………ああ、機械機能修復、機械機能支配、機械記録抽出……とかがある」ジュンがステータスプレートを開いてスキルを確認する。

やっぱりすごい数のスキルを取得してるみたいだ。しかもそれでいて器用貧乏ではなく準一級までは必ず取っているのだからすごく努力家だと思う。俺はこの国…ジャポン国の隣にある先進国、チャイナル国の公用語検定もろくに合格できてないから、素直に尊敬してしまう。


生物には例外なくステータスと呼ばれるものがある。これはその個体の種族、名称、年齢に加え、レベルや各身体能力を示したもので、自分のステータスならいつでも見ることができる。

身体能力欄には、生命力、持久力、防御力、速度、瞬発力、筋力、魔力、術力、器用、知力がある。

先ほど俺が確認したのは、速度。これはその個体が出せる平均最高速度を数値化したものだ。

普通の人族だったら10〜20程度が限度。しかし俺ら天空族や翼魔人族ともなると、少年体であっても60以上は余裕で出せる。だから俺たちが寮に向かったほうがいいと踏んだのだ。

そしてそのステータスプレートには、もちろん取得済みスキルの表示もある。

先ほどジュンはこのスキル欄を確認していたのだ。


「そうか、ならこの放送機器は直せるか?この放送器具さえ直れば、寮全体に避難誘導のアナウンスが流せるはずだ。あとは、寮内の先生に任せればいい」

そう言ってアキラは、先輩が背を預けている機械を見やった。

その機械の操作盤はすごく強い力で殴られたのか、大穴を開けてひしゃげていた。

ジュンはすぐに立ち上がると機械の表面を撫でたり観察したりし始めた。

それを横目に見ながら、俺はさらに鷹田先輩に問いを重ねる。

「今って、どういう状況なのかわかるっすか?」

「俺がここにたどり着く前にやつに出くわしてな、急いで逃げ込んだんだが、ここで散々暴れ回った挙句に出て行った。多分今ヤツはこの寮の上層部にいると思う。悲鳴が聞こえるからな」

そう言って苦しそうに顔を歪める先輩は、寮長を任せられているのに務めを果たせていないという罪悪感や責任感のようなものが見て取れた。きっととても誠実な人なのだろうな、と思った。

しかし改めて話を聞いてみると少し疑問が生じる。

「………なんで、先輩にとどめを刺さなかったんだ?」

デーモンは狙った獲物は絶対に諦めない。だから、こうして先輩が満身創痍ではあるが生き残っているのは少しおかしい気もするが…………。

すると、少しの間俺の顔をじっと見つめていた先輩がおもむろに言った。

「……とりあえず、今は生徒たちの安全が優先だ。こんなボロボロになっている俺が言えた義理ではないが、この状況をなんとかできないか?………俺はもう少し回復に時間がかかりそうなんだ。頼む、この通りだ」

先輩が傷だらけの体を曲げて頭を下げようとするのを手で押し止め、俺ははっきりと言う。

「言われなくても、元からそのつもりっすよ、先輩! 任せてください、俺たちがきっとなんとかして見せます!」

我ながらなんでこんなに根拠のない自信を抱けるのか不思議でしょうがないが。

なぜか3人でいればなんでもできるような気がしてくるんだ。これはもう子供の頃からずっとそうだった。まあでも、今までだって結局全部やりきったわけだし、根拠がないわけではないのかもな。

「……そうか。恩に着る。よろしく頼む」

俺があまりにも見事なドヤ顔だったためか、少し頰をゆるめた先輩はそのまま瞑目し、気絶してしまった。あんなにボロボロだったんだから無理もない。

「…………くそっ、なんで直らねえんだ!!オラッ、これでどうだ!?…………またエラーだ、どうなってやがる!」

ジュンが焦りと緊張のせいかいつもより口調を荒げて叫んだのが聞こえ、意識をそちらに戻す。

「落ち着け、ジュン。スキルレベルが足りないんじゃないのか?今レベルはいくつなんだ?」

「最大だよ!!クソが!!!」

「いや別にけなしてるわけじゃないんだから落ち着けって………」

アキラが必死でジュンをなだめている。こういう非常時は落ち着きが肝心だって中学の先生が言っていたのを思い出した。

スキルにはレベルが存在する。これが高ければ高いほど正確性や発動スピードが早くなり、技能効率が良くなるのだ。基本的にスキルレベルを上げるには、より高度な検定に合格するか、ひたすらそのスキルを使い込んで地道に上げていくかの二通りがあるのだが、いずれにせよ最大というのはそのスキルを極めていることに他ならない。

しかし、そのスキルレベルが最大なのにもかかわらず直せないとなると………。

「……スキルレジストがかかってる?」

俺がぼそりと呟くと、二人がようやく納得したように目を見開いた。

スキルレジストは、文字通りスキルの発動をキャンセルさせる術式だ。どれだけ直そうとスキルを使っても直せないとなると、そういうことだろう。

「……チッ、なるほど。どうりで全然発動しないわけだ。一応俺もスキルレジスト解除のスキルは持ってるが、こっちはスキルレベルが最大じゃないから、わかんねぇな……」

そう言って渋い顔をするジュン。

「ナル、【鑑定】で調べられないか?」

アキラがやはり無表情で問う。

【鑑定】は、俺が唯一使える情報処理系のスキルだ。対象のものや人物のステータスや特性、状態異常を観ることができる。これは、俺が必死こいて受験勉強をしていた際に、受験に有利になるよう苦労して最上位まで取得したものだ。このスキルだけはジュンよりもレベルが高い。

「わかった、やってみる!スキル発動、【鑑定】!」

ピコンッという音がなり、情報盤が空中に映し出される。














「なっ、スキルレジストレベル15以上!?それもう賢者レベルじゃねぇか!!」

情報版を覗き込んだジュンが目を見開く。スキルレジストは、魔力を込めれば込めるほどレベルが上がる仕組みだ。スキルレジストレベル15以上となると、普通の人間の成人の20倍ほどの魔力量を必要とする。比較的魔力量の多い魔人族のジュンでさえ6倍程度なのだから、このスキルの術者は相当な魔力量を保持していると言うことだ。

「相殺するためにレベル15以上必要となると………術者は少なくともレベル13以上のスキルレジストを持っていることになるな。この状況からすると例のデーモンがかけたのだろうが、そうなると少し引っかかる」

「ああ、それは俺もそう思ったぜ。デーモンは魔力量こそ多いが、こんな器用に魔法やスキルは扱えないはずだしな」

アキラが言ったことに同意を示すジュン。

先ほども言ったように、デーモンは完全に武力特化の魔族だ。保有する魔力量こそ多いが、それらは全て身体強化に使われている。また、有り体に言ってしまえば脳筋のため、器用に魔法を使いこなす術を持たない。確かに初級の炎魔法などは使うと聞いたことがあるが、こんなに高位の、しかも戦いに直接作用しないタイプの魔術を扱うなんてありえないはずなのだ。

「とにかく、今は状況の打開を最優先に考えよう。放送器具が使えないとなると………」

アキラが場を取りまとめる。確かに今は余計な思案に時間を費やしている場合ではないだろう。

3人揃って下を向いて黙り込む。そしてしばらくして、俺の頭に突拍子も無い妙案が浮かんだ。

「ジュンは念話、アキラは空間魔法の転移、俺は天空族特性の聖域…………なぁ、もしかして、これ結構いけるかもしれないぞ」


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Another side : 鷹田先輩

俺は鷹田塁、三年生だ。この寮の管轄を任されている。

非常用ベルが鳴ったからなんだと思ったら、まさかあのデーモンが現れるなんて。

歴史的瞬間ではあるのだが、当事者にはなりたくなかった…………。

満身創痍になって、もうダメだと半ば本気で諦めていたから、助けが来た時は驚いた。

しかも、助けに来たのが新一年生の3人組ときた。

避難させようとしていた先生方を振り切ってきたのだろうか。

そうだとしたらすごい度胸だ。また、決断力にも優れている。

それに加え、スキルや魔法のレベルの高さ。特に、翼魔人族の少年はすごかった。

一体幾つのスキル検定に合格してきたのだろう?

ともかく、あの3人は是非とも俺のクランに入ってほしいものだ。

それに、あの子達なら、あるいは……………………………。

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