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放課後、三人は職員室を訪れた。
「柚先、何か用ですか?」
「ああ、やっと来たか。ちょっと、奥に来い」
入り口に三人の姿を見留、柚木は職員室の奥にある部屋に行く。
「げっ。説教部屋かよ」
そこは、生徒たちに説教部屋と呼ばれていた。本当は、応接室と言うらしい。
「茶はないぞ。とにかく座れ」
柚木は三人を並んで座らせ、その正面に腰を下ろした。
「お前等、川で遊んでいるだろ。保護者抜きで、川や海で遊ぶことは禁止されている。それ以前に、あんな物を作って、どうするつもりだ。どんな事故があるとも知れない。もしかしたら、死んでしまうようなことになるかもしれない。船に乗りたいのなら、大人になって乗船員になればいい。頼むから、危ないことをしないでくれ」
柚木は寂しそうに言う。だが、大人の理屈は、子どもたちに通じなかった。
「先生、今じゃないとできないことってあります。俺たちにとっては、これがそれなんです」
恭平は柚木の目を見て言う。
「柚先。あれは船じゃない。いかだだ」
隣で陸が騒いでいるが、恭平は気にも止めなかった。それどころか、翔太郎も柚木も何も言わない。ため息の音が聞こえる。
「先生はお前らを思って言ってんだぞ。口で言うのは、簡単だ。だけど、大人になって後悔するのは、お前等なんだぞ」
「後悔なんかしません。僕らは……トム・ソーヤになりたいんです」
翔太郎が、きっぱり言った。何も知らない子どもだから、無邪気に夢を追いかけることができる。強い光を持った瞳に、柚木は言葉を失った。