魔法がつかえるんですか?
クラロワに連れられて魔法庭園にやってきた圭人は周囲の光景にただただ圧巻されていた。色とりどりの花が咲き、きらきらと光っている。花弁の一枚一枚がガラス細工のように美しい光を発し、滴り落ちる露は真珠のようだ。沢山の花が咲き乱れている庭園には見たこともないような色の鳥が飛び、蝶がひらひらと舞っていた。風に乗って香る花の匂いは甘く、爽やかな空気が頬を撫でるようだった。広く整備された空間には、テーブルと椅子が一対だけ用意されている。庭の中央、一番景色が良く見えるところだ。
「ほら、ここに座って、魔力をテストするわ」
クラロワに案内されるがままに椅子に座った圭人はどこか落ち着かない様子だ。なにせ初めて見る美しい庭園の中に初めて見るような美しい美少女に案内されているのだから。しかもその彼女は少し興奮気味で、頬が上気している。真雪の肌にうっすらと色づく紅が花のようだった。こんな絵本みたいな光景が他にあるだろうか。そのくらいに美しいものだった。
クラロワに手を取られ、テーブルに置いてあった水晶の塊に触れる。ひんやりとした感覚が体全身を目覚めさせるようだ。手を触れた瞬間、水晶は淡く光を発し、ぼうっとテーブルに光を落とした。
「あのーこれは?」
「これは魔法鉱石よ。自然に出来た魔法鉱石は魔力を調べるのにぴったりなの。集中して身体の力を鉱石に込めるようにしてみて」
「そんな無茶なこと言われてもわからないっすよ」
「大丈夫、簡単なことだから。ただ集中するだけでいいの。体が熱くなってくるはずよ」
圭人は疑問を口にするのをやめ、言われた通りに集中することにした。
こう、目の前の鉱石に力を注ぐ感覚。届け~俺の魔力。たっぷりどっぷり集まれ~。
圭人が集中を始めると、体が熱くなり血管を温かいものが巡る感覚がした。全身の肌が呼吸しようと震えているようだった。
「えっ、なんかヤバい。これほんとに魔力ってやつ?」
「そうよ、そのまま鉱石に注ぎ込むの」
クラロワの手が圭人の手に重なる。体を近づけた彼女の首筋が眼前に迫って、童貞高校生の圭人は一瞬にして顔が茹蛸になった。
途端、バリン、と音がした。
音のほうに目を向けると、なんと、鉱石が異様な模様を描くように広がり、隆起していた。
「ナニコレ!?!?」
圭人は叫ぶ。街でみた民族衣装のような服の刺繍にもよく似た複雑な模様が鉱石全体に浮き上がり、隆起してもとあった大きさの2倍くらいに伸びていた。まるで草木が一瞬にして成長したようだった。
「すごいわ。こんなにはっきり文様が出るのは珍しいタイプね。あなた、今すぐにでも魔法使いになれるわ!」
クラロワは興奮したように声を上げる。その愛らしい顔に笑みを浮かべて圭人の手を取る彼女はどこかうれしそうだった。
「私決めた! 直属の魔法師はケイト、あなたにする」
「なんかすごい重要そうな役回りだけど、俺で大丈夫?」
「いいの! あなたとは気が合いそうだから。小難しい顔した魔法師よりもあなたのほうが話しやすいし。」
「なんかすごく光栄なお言葉を頂いちゃったな、照れるぜ、へへっ」
クラロワは白く華奢な肩を揺らして笑みを浮かべた。どこか楽しそうな彼女に、圭人も自然と笑顔になる。なんだか知らないがすごい役割を担ってしまった。異世界に来てまだ2日目なのに。しかも、相手は一国の王女様だ。スケールの大きさに頭がついていけない。
正直、魔法が使えるだなんて夢みたいな話だ。でも実際に鉱石は反応を示していて、圭人に魔力があることを証明している。子供のころ誰もが夢見たであろう魔法。それが実在して力を示しているのだから、このうえない幸せに違いなかった。
すげー俺、魔法使えちゃったよ。どうしよう。格好いい。
「それで直属の魔法師って具体的にどんなことをすればいいんだ?」
お姫様を守る魔法使い、だなんてすごくロマンを感じる。わくわくして聞いた圭人にクラロワは答えた。
「基本は私と共に行動するパーティーを組むわ。別に戦うわけじゃないけど、私を守る役目もある。基本的には仕事の際に私と一緒に魔力を提供して魔法機械を動かしたりする感じね」
「おお、なんだか知らないがすごくかっこいい気がする」
「あなたは魔力が豊富にあるからきっとどんなものにも困らないはずよ。すっごく大変な仕事も楽にこなせちゃうなもね」
「そうなったら滅茶苦茶嬉しいよ!うわぁ、楽しみだなぁ」
目を輝かせる圭人に微笑みかけるクラロワ。その微笑みは女神のように美しく繊細な輝きを持っている。
「そうと決まったら報告ね!」
「報告?」
「そうよ、天空会議で方々に報告しなきゃ」
かくして、圭人の異世界生活は順風満帆に始動したのだった。