彼女の真骨頂
「俺たちをどうするつもりだ!」
圭人は声をふり絞って盗賊たちを警戒するが、盗賊たちは下品な笑いをするのみだ。床に座らされた圭人とクラロワは体を拘束されてこそいないが、周囲と取り囲む男たちに身動きがとれないでいた。その中に一人、一人だけ衣服の装飾が違う男が圭人の前に進み出る。そして懐から注射器のようなものを取り出した。
「これからお前らの魔力を吸い取らせてもらう。魔力っていっても、魔力だけを体から取り出すことはできないから、代わりに血ごと吸いだすけどな」
注射器の針先が暗闇にきらりと光る。圭人は焦燥を感じていた。何かしないとこのままではだめだ。クララのためにも何か行動を起こさないと守れない。何かないのか。圭人は夢中で懐を探る。この状況を打開できるだけのアイテムがないだろうか。
ふと圭人の指先に何かが触れる。それが何か確かめるよりも早く、圭人はそれを夢中で取り出し掲げていた。
「ああ?なんだそれ」
盗賊が首を傾げる。圭人が掲げたものはスマホだった。これなら隙を作れるかもしれない。圭人は縋るようにスマホを操作し。
カシャカシャカシャカシャ
自然界ではおよそ聞かないだろう不思議な音と共に激しく明滅する光。そう、圭人はフラッシュをたいてスマホで盗賊たちを連射した。単なる威嚇攻撃にしかならない行動。しかし、未知のものを向けられた盗賊たちは驚き狼狽え、隙を作るには十分だった。
「クララ!」
クラロワの腕を掴み、出口へと立ち上がる。出口を塞いでいた男にフラッシュを思いっきり浴びせる。男は思わず目を覆い、なんだこれは!と叫ぶ。その隙に男を素早く避けて出口へ足をかけた圭人。いける。このまま外へ抜ければなんとかなる。圭人は全力で足を踏み出し、出口を出ようとした。
「そうはさせないぜ」
次の瞬間、手を引いていたクラロワに重みがかかる。重みの原因を見やると、目を覆いながらをクラロワの腕を掴む男の姿がいた。
「光の魔法か、変な法具使いやがって。逃がさないぜ」
男が口元を歪める。ぐん、と引き寄せられてクラロワの体は出口から一歩遠ざかった。
そうか、法具だ。圭人が思ったのは魔法の存在だった。あまりの危機に存在を忘れていたが、この世界では魔法が使えるんだった。他にも手があるじゃないか。
圭人はクラロワを引いている手とは逆の手、腕輪状の法具をつけた左手を男にむける。
「はなせ。はなさないと魔法をうつぞ」
スマホを持ったままの左手に男の視線が移る。やはり未知の存在であるスマホに警戒しているのか一瞬息を飲んだ男が、クラロワの腕をぎりりと握った。
「はっ、やれるもんならやってみろ。もうさっきの光魔法は通用しないぜ」
空気が緊張する。圭人の視線と男の視線が絡み合い、ぴりりと空気を震わせた。どうする。圭人が出来る魔法と言ったら炎を手から出す魔法と水を手から出す魔法だけだ。圭人は背中に冷や汗が流れるのを感じた。このままでは元に戻ってしまう。どうにかしないと。
その時だった。
クラロワが俯いていた顔を上げ、緩慢に男のほうを振り向く。碧の瞳に宿した煌めきが底のほうでゆらりと揺らめいた。と同時に男が後方へ吹き飛ばされる。
「なんだ!」
どよめいた盗賊たち。クラロワがその視線を一気に集める。そして彼女は言い放った。
「そこまでよ。これ以上の狼藉は許されないわ」
クラロワの周囲に9つの青い炎が現れる。そのどれもが凍えるような熱さで炎影を揺らめかせていた。刹那、炎たちが四方へ飛び散り、建物を燃やした。めらめらと大きくなる炎が木造の建物を飲み込もうとするように確実に燃やしていく。
「な、なにするんだこの女!」
「こんな魔法でたらめだ!」
明らかに怯えた声。さっきまでげらげらと笑っていた男たちは炎から逃げるように部屋の中央に縮こまった。
「あなた達の行いを見ました。人を攫って血を抜いて売り飛ばすなんて信じられない。私が粛清してあげるわ」
クラロワの声にいつもの優しさはない。強い意志で宣言する彼女の声は冷たく、さらに周囲に炎を浮かせ盗賊達を穿たんと構えていた。
「や、やめてくれ!」
「俺たちが悪かった!頼むからその炎をやめてくれ!」
態度をすっかり変える男たち。しかしクラロワは頷かない。パチパチと木の燃える音を背後にクラロワが手を構える。炎が意思を持って、盗賊達へ迫り。
「うわああああああ!!!」
とっさに逃げる男たちに炎が当たる。否、当たったように見えた。しかし男たちは燃えることなくどさりと皆崩れ落ちる。
「え・・・、何が起こったんだ?」
唖然とする圭人にクラロワが振り返る。
「もう大丈夫よケイ。よくがんばったわね」
燃え盛る炎をバックに笑う彼女の笑顔は輝いていた。
そのあと。
クラロワの指示で、気絶した男たちを燃える小屋から引き摺りだし、近くにあった木に全員をくくりつける。
「クララってすごいんだな」
圭人は心からの言葉を口にした。あんな魔法ロシェは見せてくれなかった。自在に炎を扱うクラロワがどれだけ魔法に長けているかがわかる。
「でもケイも頑張ってくれたわよ。出口まで連れ出してくれたから思う存分暴れられたの」
すごいわね、ケイ。と微笑む彼女にさっきまでの鋭い視線はない。いつも通りのクラロワだ。
「でもそのケイが持ってるのって何?魔法鉱石を加工したものなの?」
クラロワがスマホを除き込む。確かに加工された鉱石に見えなくもないその黒いつるつるとした物体に圭人はただへらへらと笑ってごまかすしかなかった。
「ケイって光の魔法がつかえたのね」
あれ以外と難しいのに。と言うクラロワに圭人はびくっとする。違うんです、魔法じゃないんです。さすがに誤魔化しきれないと圭人は腹をくくり、クラロワになら話してもいいだろうと思うのだった。




