麺類
「なぁなぁ、麺類ってないか!?」
朝っぱらから開口一番にでてきた言葉。圭人にそう言わしめたのには理由がある。そう、麺類が食べたくてしかたがないのだ。この世界に来てから、肉とパンという生活を送ってきた。肉は普通に鶏肉だったり牛肉だったりして、パンはふわふわでとてもおいしい。だが、圭人には麺類が足りない。圭人は無類の麺好きなのだ。週4でラーメン食べる程度だ。麺類が恋しくなるのも仕方ない。
麺類が欲しいと朝一で叫んだ圭人にびっくりした様子でクラロワが首を傾げた。
「麺類?シュペッツレのことかしら?」
「しゅぺ?なんだそれ」
「シュペッツレ、ディーネ王国の伝統料理よ。食べたいならディーネ王国に行くのが早いわね」
クラロワは顎に手をあててふむ、と考え込んだ。しゅぺなんだかしらないが、麺類ならきっとおいしいはず。まだ見ぬ料理を思い浮かべて、圭人は頬を緩ませた。
「今日、私ディーネ王国に行くんだけど、ケイもついてくる?」
「いいの?行きます行きます!」
圭人は食い気味でそう答えるとガッツポーズを作った。麺類が食べられる。それだけで圭人にとっては最高のご褒美だった。ヤサイマシマシしちゃうぞ!
かくして、圭人はクラロワの出張についていくことになったのだった。
ディーネ王国まではドラゴン馬車を全力で走らせる。北の街道をずっと抜けていくとディーネ王国に繋がる。道は一本道だが着くまでにはそれなりの時間がかかる。圭人は小さな4人乗りの馬車の中でクラロワと二人座っていた。多少ガタガタは揺れるが乗り心地は案外悪くない。何よりもドラゴンが引いているというのが新鮮でワクワクした。
「今日は何しに行くんだ?」
「今日は魔法の術式を勉強しに行くのよ」
「術式?」
圭人は頭にはてなマークを浮かべた。魔法はわかるが術式は聞いたことがない。そんな圭人に答えるようにクラロワは言った。
「魔法は魔法鉱石によって作り出されるけど、複雑で大きな魔法には術式が必要になることがあるの。その術式がディーネ王国にしかないから写させてもらいにいくのよ」
クラロワがふわりと藤色の髪を揺らしながら笑う。どうやらクラロワは魔法が好きなようで、魔法について話すとき、いつも目を輝かせて話すのだった。美しい蒼の瞳が楽し気に細められる表情が、圭人は好きだった。
それから二人で魔法について沢山の話をした。魔法をつかう感覚について、魔法鉱石の採掘場の話、色々な種類の魔法の効果、様々な話を聞かせてもらった。どれも新鮮で圭人にとってはおとぎ話の世界だった。
いいほど馬車に揺られたころ、気づけば周囲の景色はみたことのないさまになっていた。色鮮やかな旗がはためく道。道の両脇には店が整然と並び、ショールームのような美しさを見せている。どの店も小洒落た造りをしていて、ガラス張りのウィンドウに上品に並べられた品達が圭人たちに挨拶をしていた。フラウ王国が中世ヨーロッパならディーネ王国は現代ヨーロッパといった感じか。
大きな門をくぐり抜けた先で、ディーネ王国の城を見ることが出来た。大きくて荘厳な城だ。クラロワの城の3倍以上はありそうな大きさだった。あまりの大きさに圧倒されて、おお、と声を漏らす。クラロワは、すごいでしょ、と笑って城を見上げる圭人に語り掛けた。
「じゃあ私は術式を習ってくるから、ケイはこの辺りで待ってて」
「俺はついていけないのか?」
「重要機密事項だからね、部外者には見せられないの」
「そうかーわかった。テキトーに暇潰してるよ」
笑ってクラロワと別れる。街へと放り出された圭人だったが、周囲を見ているだけでも充分面白かった。整然とととのえられた石畳の道は美しく、目の前の広間には噴水まであった。なんとも贅沢な街づくりである。ふと、いい臭いがして釣られて歩いていくと、そこには小さな人だかりができていた。そのほとんどが獣耳を持つ者だったが。
「おいしいシュペッツレのお店だよーほーら寄った寄った」
恰幅のいい男性が客寄せをしていた。その横で店の外から見えるように料理をする女性がいた。最近のお洒落な飲食店にありがちな店造りだが、圭人は思わず吸い寄せられていった。
シュペッツレ!クララが言っていたやつだ。と圭人は舌なめずりする。さてどんなものか味わってやろうじゃないか。意気揚々と店内に入るとすぐに注文をとりにやってきたので、おすすめのシュペッツレを注文する。まだかまだかとそわそわする圭人はあたりを見回してぐぅと鳴るおなかを押さえた。あたりはやはりディーネ王国なので獣耳の人がほとんどだ。ティアマンと言ったか、その種族にもいろいろあるようで、犬耳、猫耳、熊のような丸い耳の者もいて、なかなか面白い。店内にいる人たちの耳見物をしていると、料理がやってきた。
「はい、シュペッツレだよー」
そうして出されたのは。黄金色に輝くスープ。熱い湯気を立てて深皿でゆれるスープに浮かぶ小麦色の麺。ベーコンと野菜の盛り付けられたその皿は、見ただけで美味しいとわかるものだった。一口フォークを使って口に運ぶ。美味しい。味はスープパスタに近いものだった。麺類ならなんでもオーケーな圭人にはラーメンじゃなくても嬉しい料理だ。あっという間に食べてしまった圭人が腹を撫でて満足そうにしていると声がかかった。
「おいしそうに食べるなぁあんた」
声の方を振り向くとそこには狐耳。向日葵色の毛並が美しい獣人が座っていた。にこやかなたれ目がじっと圭人を見つめる。
「お、ああ美味かったぜ」
キメ顔で返す圭人に彼女はくすくすと笑って楽しそうに肩を揺らした。
「あんたフラウ王国の人やろ? ここは良いとこさかい、楽しんで行ってなぁ」
そうとても楽しそうに話した彼女はひらりと黒いレースの衣服を翻して席をたっていった。とても神秘的な人だ。圭人は彼女の後姿をぼんやりと見ながら、ここはいい所だなぁとしみじみ感じていた。




