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異世界に家ごと転生した話  作者: なずく
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儀式

薄暗い闇に怪しくぎらつく2つの光。それは巨大な狼の眼光で、鋭い野生むき出しの視線が、敵意を露わにした色をしていた。鋭く曲がった恐ろしい爪、大きな口からはみ出すように生えた凶悪な牙。隙間から漏れるうめき声はグルルと地の底を這うような恐ろしい音だった。険しく皺を寄せた顔は明らかに怒りを持った表情をしている。地面を抉るように爪を立てながらじりじりとにじり寄ってくるその獣は、4人を前にして威嚇をしている。


「こいつはヤバいな・・・」


どうしよう変な音出したら変なもん呼び寄せちゃった!内心大焦りの圭人は縋るように左右にいるクラロワやヨルネを見る。だめだ、こんなか弱い女の子を前に立たせてはいけない。俺が盾になってあげなくちゃ。圭人は緊迫した空気の中、なんとか足を前に出して彼女らをかばうように前に出ることにした。


「お、俺のことはいいから先に逃げろ」


喉から出る声が詰まる。緊張で背筋が釣りそうだった。

そんな圭人に、思いもよらない声がかかる。


「退いていろ、ケイト」


それは優雅に佇んだヨルネだった。腕を組み、ふむ、と品定めするように見やる目は恐れを微塵も感じさせない。ヨルネと同じくらいの体長の狼だぞ?いくら何でも恐ろしくないのか、圭人は驚きに目を見開いた。


ヨルネがすっと右手を狼に向ける。その手がぼんやりと光り出し。


「巣に帰るが良い、迷い狼よ」


瞬間、ヨルネの右手が青く明滅し、森全体の空気がビリっと震える。それに反応した狼が途端にキュウンと怯えた声を出し、萎縮して踵を返していく。一瞬の出来事にしばらく理解できなかった圭人は、何秒も固まってから、すげーーーーーーーーー!と声を上げた。


「すごいなヨルネ!!こんなこともできるのか!」

「ふん、造作もないことよ」


腕を組んでふんぞり返るヨルネは何事もなかったかのように平然としている。魔力もさることながら、その肝の据わった所もすごい。さすが140年も生きているだけある、とヨルネが見た目のままの少女ではないことを改めて感じさせられた。


「今のは何をやったんだ?狼が逃げていったけど」

「あれはガルフじゃ、あれの苦手な光魔法の片鱗を嗅がせてやっただけのことよ」

「さすがはヨルネ様だわ。でもケイも私たちを庇ってくれてちょっとかっこよかったわよ」


クラロワがにっこりと優しく微笑むのが見えた。それは幼子に良く出来ましたと褒めているときのような笑顔で、圭人は照れ臭くなり頭をかいた。


「女の子を守るのが男の役目だからなっ!」

「我に守りなどいらん。クラロワもお主よりは強かろう」

「なっ、男のメンツってものがあるだろ」

「そのような無意味なもの知らぬな」

「なにー!」


さっきまでの緊迫が嘘のように笑いあって森の中を抜けていく。クラロワが持ってきたランタンに魔法で火をつけたので懐中電灯とあいまってある程度明るくなった森に今まで感じられてきた不気味さはかき消された。ランタンには魔物除けの効果もあるらしく、頼もしい限りだ。

森の最奥までたどり着くにはさほど時間はかからなかった。木々が群生する中で一部だけぽっかりと穴が開いたところがあった。周囲の自然物とは明らかに違う、石で出来た洞窟。入口は石レンガで固められており、複雑な文様が刻まれていた。苔むした岩の入り口から奥は暗くて良く見えない。何度も人が訪れているからなのか、一部の苔が踏み固められ道が出来ていた。ぴちゃんぴちゃんと奥から水の滴る音がする。


「この中に入るのか?」

「ええ、そうよ。中に祭壇があるの、着いてきて」


圭人の懐中電灯は洞窟の中で大いに役立った。ランタンの光ではぼんやりしか照らせない壁も、懐中電灯ならばくっきりと見ることができる。洞窟の壁には、古代の絵が刻まれており、とても神秘的に見えた。人々が並び神に祈るような絵や、作物を収穫しているような絵が描かれている。本当に古代遺跡、という感じがした。


奥の祭壇は一段と風格があった。いつつけられたものかもわからない蝋燭が短くなって炎を揺らめかせている。祭壇の周囲には花びらが散っていて、鮮やかな色彩を与えていた。そして祭壇の中央には銀で出来た大きな水盆が置かれていた。古代文字の刻まれた水盆には天井から滴り落ちる水滴が、ぴちゃんと音を立てていた。

ヨルネはクラロワに促されて祭壇の前に立つ。


「汝力を示せん。光を与え給え」


ヨルネのその呪文と共に彼女の手に光があつまり、風のように渦巻いた魔力の結晶が水盆へと流れ込んでいく。水盆はそれと同時にきらきらと光を発し、美しい光景を描いていた。


「今のは何をしてるんだ?」

儀式の凄さに圧倒され思わず小声になる圭人は隣にいたクラロワに尋ねた。

「魔力を提供しているの。祭壇に魔力を捧げることで祭壇は力を持ち続け、街を守ってくれるのよ」

「神様への供物みたいなものか」

「そうなるわね、供物よりももっと高度なことだけど、魔力の受け渡しって」


台に置かれた水盆にやっと背が届くくらいの身長の少女、その手から魔力がこんこんと注がれていく。その光景はとても奇妙で美しい。圭人は儀式にすっかり見惚れて自我を忘れてしまったいたのだった。

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