災害用便利グッズ
視察団は街のゲートの北、ディーネ王国との境にある深い森へと向かっていた。交通手段はドラゴン馬車だ。初めて乗るその乗り物は思ったよりも乗り心地が良く地を駆けるドラゴンは短く見える脚を高速で動かし、羽根を加速装置として使い、暴風のように走った。
森の方へ進むにつれて、家々の数も減っていき、柵で囲まれた一帯を抜けたあたりは完全に森だった。ドラゴン馬車を置いて、森に降り立った視察団はさらに森の奥へと歩みを進めていく。森の最奥にある洞窟の神殿の維持確認も行うらしい。神殿の維持には魔力を注ぐことが必要で、そのためにヨルネがわざわざ険しい森を往くのだった。
「しっかしこんな鬱蒼とした森、ほんとに何が出てきそうだなぁ」
「出ることもある」
「ええっ!?」
「案ずるな。我が相手をすれば造作もないことよ」
「例えば何が出たりするんですか・・・?」
「そうじゃの、野生のドラゴンやナーガなどが厄介じゃな」
「ドラゴン!ナーガ!やだこわい」
圭人が両肩を抱いて震えると、ヨルネはふんと鼻を鳴らし胸を張って、我なら大丈夫じゃと答えた。その様子を見ていたクラロワはアハハと曖昧に笑い歩みを進める。
一国の当主の子孫と大国の長老が徒歩で森を歩く姿はなかなかシュールに見えた。しかし、どうやら車みたいな素敵乗り物はないらしく、木の根が張った険しい道を行くには己の足を使うほかにないようだった。
ヨルネとドルヒとクラロワと圭人、この4人のほかにお付きのものはいない。ヨルネもドルヒもクラロワも相当腕の立つ魔法使いらしいが、そうは見えなく、圭人は物凄く心細かった。野犬に会っただけで悲鳴をあげて逃げ出したいレベルだ。野犬一匹だって相当強いんだぞ、嚙まれたらひとたまりもないんだからな!
足元の木の枝をパキと踏みながら頭上にかかる木の葉をかき分け奥へと進んでいく。あまりにも濃い緑は昼にもかかわらず太陽の光を幾重にも重なった枝が遮り、地上には僅かしか届かない。薄暗い木々の中をゆっくりと歩く一行は、クラロワを先導に静かに歩みを進めていた。遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声と木々のざわめきだけが鼓膜に届く。むせかえるような土と草の匂いが肺を満たしていた。
「してケイトよ、何か面白いものは持ってきたかの?」
ヨルネが小さい足を懸命に動かしながら訪ねる。その息は少し上がっていた。
「あー一応?洞窟行くって言ってたし、探検ならまずこれだろって思って」
「ほう、それがか。何という名なのじゃ?」
「懐中電灯ですっ!」
圭人が持ち出したのは懐中電灯だった。家にあって探検に仕えそうなものと言ったら懐中電灯くらいしかなかった。非常用に持っておいた便利グッズだ。まさかこんな使われ方をされるとは懐中電灯も思っていなかっただろう。
「それはどんな効果があるんですか~」
はぁはぁと息を切らしながらついてくる痩せた男、ドルヒは疲れた顔をしながらも圭人に尋ねた。皆興味はあるようだ。
「それはですね、なんと、光るんです!」
ボタンをぽちっと押して懐中電灯を光らせる。丸い光が薄暗い森の中ではっきりと輪郭を映した。
「おおっ!光った!」
「わぁすごい」
「光魔法は存在するが蝋燭の炎と似たようなものじゃ。これは随分と明るく先まで照らせるようじゃな」
圭人は予想以上のべた褒めに満足する。どうだどうだ、これが現実世界の科学力よ!と自分で作ったわけでもないのに自慢げだ。
「しかもだな、サイレン付きという代物だ!」
圭人が別のボタンを押すと、ピーッピーッとサイレンが鳴りだした。災害用のアイテムだったが、こうしてみると随分多機能で便利に思える。音を聞いた3人は顔色が一変し、険しい顔をする。
「そんな音だしたら!」
「ひぃぃ、知りませんよ~私」
「ケイト、今すぐ音をやめるのじゃ」
「え?わかったけど何?」
きっと驚いて褒めてくれるだろうと思っていた圭人は予想外の反応に首を傾げ、鳴らすのをやめた。その圭人の背後に大きな影が迫る。
ガルル、と音がした。振り返るとそこには。
大きな狼がいた。




