ヨルネという少女
「こたびの使用人、ケイトに決めたぞ」
その声が広間を響き渡ったのはクラロワがやってきてからすぐのことだった。
「は?俺がなに?」
圭人は困惑気味で右往左往する。わちゃわちゃと手を動かす圭人に目を向けて、ヨルネは満足げな笑みを浮かべる。
「えっケイを?まぁケイなら仕事はリーチェの世話だけだし、いいけど」
「では決まりじゃな。よろしく頼むぞケイト」
「どゆこと!?」
「ヨルネ様はしばらくこの城に住むことになっているの。その世話役をケイに頼むわ」
「まじか、わかった」
はたしてこの高慢な少女(ほんとは年上らしいけど)をどう世話するものか考えあぐねた圭人だったが、彼女のにこやかな笑みをみればなんとかいける気がした。
「それと、クラロワよ、視察にもケイトを連れていくぞ」
「ええっ!でも圭人はまだ魔法師になりたてで、何にも魔法を使えないのよ?」
「ほう、魔法師だったか、それは都合が良い。いい勉強になるだろう」
圭人のわからないところでどんどん話が進んでいく。渦中の圭人はただ首を左右に振り、ヨルネとクラロワの話を聞いているしかできなかった。
「なんでそんなにケイトを?うちの使用人の人物を買ってくれるのは嬉しいことだけど」
「この者面白いものを持っておる。それが偶然であれ、持つことは才能に等しい」
「確かにケイトは面白いものを持ってるけど」
二人の視線が圭人に向けられる。正確には圭人の持っているポータブル扇風機にだ。
ウオーンと風を送っているその機械に感情はないが、もしあったならば美少女2人に見つめられてさぞ顔を赤らめていたことだろう。
そのあと、圭人はヨルネを客用の個室に案内したり、さまざまな調度品を運んだりした。ヨルネは相変わらずで椅子に座ったまま優雅、あれをやれだのこうしろだのを指図してくる。見た目子供の少女に命令されるのは納得がいかないものがあったが、わがままを聞いてあげているんだと思えば可愛くも思えた。
どうやらお付きの者のドルヒさんは別にやることがいろいろあるようで、ヨルネの世話は頼まれた通り、圭人にかかりっきりだった。そして夕食の刻。
食卓の長い机にはクラロワとヨルネ、そしてなぜかケイトも同席していた。
「同じ席に座ることを許すぞケイト。座るがよい」
「あ、はい」
優雅に命令されればさからう理由もなく、使用人という立場でありながら当主クラロワとその客人ヨルネと席を同じくすることはどれだけのことか、それくらいは圭人にも理解できていた。明らかな特別扱いだ。それもこれも、こいつのおかげだろうな、と圭人は扇風機を見る。
机に無造作に置かれたそれは、涼やかな風を流し、その風に当たったクラロワの藤色の髪がさらさらと揺れていた。大きな机に対面するようにして座る二人の少女。片方は藤色の長い絹のような髪を流し、陶磁のような肌を白いドレスで包んだ美しい少女。もう片方は眩しい銀の髪をふわりとツインテールにして揺らし、色白の肌とは真逆の赤いドレスを纏った幼い少女。どちらも絵画から出てきたかのように美しく、見ているだけでため息が出てきそうだった。
「あのさ、俺聞きたいことがあるんだけど」
食卓に並べられた豪華な食事を前に圭人は切り出す。何かの肉に美味しそうな匂いのするソースのかかったその料理はステーキのようで、付け合わせの黄色の野菜と一緒に良い匂いがしてくる。パンも存在するようで、ライ麦のような香りのするパンも並べられており、いますぐに頬張ってしまいたい気分だった。
「なんじゃ?」
「その、聞きにくいことかもしれないんだけど、ヨルネって見た目、その、子供じゃん?なんでその見た目なのに年上なんだ?っていうか何歳なんだ?」
その質問にヨルネはふっと笑う。そして隣にあったグラスの中の赤い液体を一口含んでからヨルネは話しだした。
「我はマジカとティアマンのハーフよ。マジカとは絶滅に瀕しておる種族、しかしその寿命な長く、老いることのない貴重な種族じゃ。それとティアマンとのハーフゆえ、我は年を取らぬ。正確には年を取るのがいたく遅いのじゃ。我はこの見た目じゃが、今年で齢140になるぞ」
「140!?」
圭人は素っ頓狂な声をあげた。140歳なんて長者番付があったら優勝できるレベルだ。それがまたこんな小さな子供に見えるなんて、寿命一体何年なんだ?と驚くと共に、ヨルネが長老として敬われていることにも納得がいった。これだけの寿命を持つのなら長く時代を見てきた人として造詣も深いだろう。
しかし見た目は完全に子供なのになぁ、としみじみとヨルネを眺めた。まだ頬の丸いその顔は愛らしさに満ちている。とても140年も生きてきた人間とは思えなかった。まぁ人間じゃないんだけど。
「私もケイに聞きたいことがあるわ」
「なんだ?」
「その、せんぷうき?とか、この前のてぃっしゅとか、一体どこからそんなものを持ってくるの?」
クラロワの目は真剣だった。圭人は答えに詰まるが、とりあえずは真実を話そうと決心する。
「家から持ってきたんだ。俺の家、いろいろ変なものあるんだよ。多分、この世界には他にないものばっかだと思う」
「ケイは骨董品屋とか発掘家とかなの?なぜそんなものを持っているの?」
「それはーもともと持ってるとしか言えないな。俺の家が財産なんだ」
本当のことを言っているだけだった。しかし、異世界から来たということを隠してこれを説明するのはなかなか難しいことだった。
「なんでもよい。持っているものが重要じゃ。その口ぶりだと他にも沢山面白いものを隠しておるのだろう?のう、ケイトよ」
「まぁ、いろいろありますけど」
なんならamaz〇nで取り寄せますけど、と圭人は頷く。
「その財産でフラウ家を助けるのがケイトにとって良い仕事になるのではないか?」
「確かにそうだけども、気になっちゃうわ」
「それはー、それは・・・いつか話す。今じゃ無理なんだ、それじゃダメか?」
圭人は手を合わせてクラロワにお願いする。いつか、異世界のことを話してもいいと判断できた時に話したい。
わかったわ、と少し口をとがらせながらも頷くクラロワに安堵する。ヨルネが気にしなくていいって言ってくれてよかった。
「では明日からケイト、そなたを連れて視察を行う。その際に仕えそうなものを一つ持って参れ」
「視察ってなにするんだ?」
「簡単に言えば街の周辺の安全確認よ。森の中とかを歩いて危険な生物が近くにいないか確認するの。ヨルネ様ならすっごい魔法使いだから何かあったときでも安心よ」
「まじかヨルネってすげーんだなほんと!」
「言われずともわかっておる」
こうして圭人は誇り高き視察団の一員となったのだった。何かもってこいって言われたけど何を持っていけばいいのだろう。そんな悩みが圭人の中で渦巻いていた。




