扇風機
「ヨルネ様!」
凛と城内に響く涼しい声が圭人の鼓膜を震わせた。声のする方を振り向くと、そこにはクラロワが立っていた。公務からの帰りなのか、濃紺の衣装に身を包んでいる。呼ばれたヨルネはなんじゃ、と緩慢に振り向くと、クラロワを見て、ふんと鼻を鳴らした。
「クラロワか。出迎えにしては遅かったのう」
「ごめんなさい、公務が長引いちゃって」
「まぁよい、長い付き合いになるのだからな、少しの不敬は許そう」
「ありがとう、ヨルネ様」
クラロワが微笑み、ヨルネがつんと上を向く。美少女と美少女が対面している様はとても目の保養になったが、圭人はその異様な立場関係につい疑問を口にした。
「なんで様付けなんだクララ。クララのほうが年上だろ?」
「ケイ!違うの、ヨルネ様は見た目は子供みたいだけどほんとはディーネ王国の長老なの」
圭人はクラロワが言った意味がよく理解できずにいた。長老ってことは一番年上ってことだよな。でも見た目は子供。つまり中身は大人・・・?
「名探偵ヨルネ?」
「なんの話じゃ」
「いや、なんでもない」
圭人のボケも見逃さないヨルネは、立ち話に疲れたのか再び椅子を取り出して座りだした。ほんとに一体どうなってるんだそのマジック。
「ヨルネが長老ってことは一番年上ってことだよな?」
「そう、ヨルネ様はすっごく年上の偉いお方なのよ」
「聞いておれば人を年増のように言いおって失礼なやつめ。お主も我を敬ってみろ、のう?」
ヨルネの探るような視線が圭人に向けられる。赤く夕日のような色をした瞳はしっかりと圭人を捉えたままだ。
「よ、ヨルネ様?あーだめだ、無理!俺そんなちっちゃくて可愛い女の子を様付けとかできねぇよ」
「なっかわっ」
ヨルネが頬を赤くして眉を吊り上げる。典型的な照れ方をするヨルネについ笑みが零れてしまった。城内の玄関ホールで立ち話をしていた、一人は座りだしたが、ところで、お付きの青年の一言がかかる。
「あの~、ここで立ち話というのもヨルネ様のお体に触りますし、中へ案内していただけませんか~」
「あら、ごめんなさい私ったら。ケイ、二人を応接間に案内してあげて。私はすぐに着替えてくるわね」
そう言ってクラロワは足早に廊下を駆けていく。その後ろ姿を見ながら圭人は使用人らしく客人二人に向き直った。
「じゃあ案内するよ、ヨルネとー」
「ドルヒと申します~」
「ドルヒさん、ついてきて」
城内の地理は異世界1日目に頭に叩き込んだ圭人は、慣れた風に城内を案内する。応接間は廊下をまっすぐ行った右の部屋だ。ドルヒは圭人がやったように椅子ごとヨルネを持ち上げて圭人についてくる。その様子を傍から見るとずいぶん滑稽なものだった。俺こんなことしてたんだな、ちょっと恥ずかしくなっていた。っていうかヨルネはあれで恥ずかしくないのか?年の功ってやつか。
重厚感のある応接間のドアをゆっくりと押し開くと、そこには煌びやかな装飾の施された美しい部屋が広がっていた。赤を基調にした部屋は、派手すぎない装飾品と大きな暖炉がよく目につく。広く開放感のある部屋には異世界でやっとお目にかかれたソファーとテーブルが並べられていた。
ヨルネは自分の椅子からぴょんと降りると、ソファへと移り、満足げに沈み込んでいた。その後ろにドルヒが立ち、従者らしく姿勢を正している。
「ところでのうお主」
「俺は圭人っていうんだ、よろしく頼む」
「ケイト、ずっと気になっておったんだが、その脇に抱えているものはなんじゃ?」
「あ、これ?扇風機」
「せんぷうき?」
ディーネ王国の長老でも首を傾げるということはやはりこの世界には電化製品は存在しないらしい。圭人は簡単に扇風機のことを説明すると、実際に付けてみせた。
「おお!風を感じるぞ」
「どうだ、涼しいか?」
「よいよい、これはよいものじゃ」
嬉しそうにはしゃぐ様子は子供そのもの。無邪気なその笑顔は見る者の心を浄化するようだった。
「このような利器を持つとは、お主何者ぞ?」
「いやぁ、俺はなんというか、ちょっとツテがあって」
amaz〇nという名の。というところはぐっと飲み込んだ。圭人の様子に不思議そうに首を傾げるヨルネは、ふむ、と考え込む。
「このような珍品、パノルト王国の発掘品の類か?いや、しかし、それをケイトがなぜ持っている?一介の使用人風情が手に入れられる代物とは思えぬ。ケイよ、お主本当は何者なのじゃ」
ヨルネの圭人を見る瞳は真剣だった。奥まで見透かそうとする鋭い視線に圭人はいたたまれなく、へらへらと笑ってごまかした。異世界から来たことを言ってもいいのだろうが、それで信じる人がいるかどうか判別がつかない。魔法がありな世界だから、異世界転移もあり、なのかもしれないが、自信が持てるまではあまり開示したくない情報だ。頭のおかしいやつと思われたら困る。
「お待たせしました、ヨルネ様」
ちょうどいいタイミングでクラロワが入ってくる。良かった、これで追及されずに済む。ほっとした圭人はクラロワに感謝の意を込めて笑顔を向けた。が彼女はその笑顔に、頭に?マークを浮かべるしかできない。
「クラロワよ、こたびの使用人、ケイトに決めたぞ」




