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異世界に家ごと転生した話  作者: なずく
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深紅の少女

「届いた・・・」


圭人の手には小ぶりの段ボール、側面にはamaz〇nと書かれている。それは圭人が昨日ネットでポチったものだ。なぜ異世界なのにamaz〇nが届くかって?気にしちゃいけない。圭人の家には宅配ボックスがついている。不在の時に入れるものだ。宅配ボックスは家の中から開けることが出来、家の中に居ながらネットショッピングが可能なのである。


圭人がゲットしたのはusb扇風機。ポータブルバッテリーと繋げば外出先で扇風機を回すことが出来る。初夏の今にはもってこいのアイテムだ。圭人がこれを買ったのには理由があった。もちろんとりあえずamaz〇nが出来るのかの検証も兼ねていたが、とにかく暑いのだ。冷却魔法とかないだろうか、と図書室に行って読めもしない魔術書を調べてしまったくらいに暑い。クーラーという文明の利器に親しんだ圭人にとっては耐えがたい問題だった。皆よく平気だな、と感心する。

圭人はこれで完全勝利だと言わんばかりの満足げな顔で、意気揚々と家を出た。扇風機を持って。小脇に抱えた小さな機械は異世界では強烈な存在感を発する。自然物ではないような光沢のプラスチック製、電気コードのついたそれはおよそ異世界人が見たことがない見た目をしている。街を歩けば、皆が圭人の抱えているものに違和感を抱き、じっくりと観察されていた。人の視線に鈍感な圭人はそれに気づかないが、誰もが圭人を振り返って見ている、注目の的だった。


「お主、その服、城の者じゃな?」


声がかかったのは街中でのことだった。子供のような幼い声が下の方から響いてくる。声のする方を見ると明らかに子供が圭人を見ていた。


「ん?どうしたんだ?迷子か?」


その子供は、赤いドレスを見に纏い、銀色の髪をくるくるとツインテールに巻き上げている。大きな瞳は赤く愛らしいが、その表情は子供らしからぬふてぶてしさがあった。


「我は迷子ではない。お付きの者が我とはぐれたのだ。」


不遜な態度でふんぞり返る少女はどうやら迷子らしく、圭人はその愛らしい姿に心が穏やかになるのを感じた。子供は可愛いなぁ、多少生意気でも全然可愛い。お付きの者って言っているし、見た目からしていいとこのお嬢様だろうか。ここはひとつ俺が助けてあげなくちゃいけないな、という意思にかられる。


「お付きの人がどこに行ったかわかるか?それとも目的地まで連れていけばいい?」

「我は城に用がある。城まで連れていけ」


銀髪の少女は胸を張って堂々と、どこから出したのかわからない椅子に座る。道の真ん中で椅子に座り、城まで連れていけとはどういう要件か。困った圭人はとりあえず椅子ごと少女を持ち上げる。


「もっと穏やかに運べんのか使用人」

「わかったわかった。ゆっくり運ぶから」


細部にまで口うるさい少女はまるでお姫様だ。まぁ、見た目もお姫様みたいだけど、と赤いフワフワのドレスを着た少女を見て思う。


「どっから来たんだー?親御さんはいないのか?」

「ディーネ王国からじゃ。親などとうにおらんわ」

「それは失礼しました」


まだ小さいのに親がとっくにいないなんて可哀想だな、と圭人は憐憫の目を向ける。そんな視線も物ともしない様子の少女は小さく鼻を鳴らしただけだった。ディーネ王国からはるばる来たらしいが、今までどうやってここまで来たんだ?よっぽど頼りになるお付きの者がいたんだろうな。でなきゃこんな少女一人国を渡ることなんて出来ないはずだ。まぁそれもはぐれて迷子になってしまっていたみたいだけど。


「名前はなんて言うんだ?」

「我はヨルネじゃ。好きに呼ぶがよい」

「ヨルネか、可愛い名前だな」

「ふん」


どうやら鼻を鳴らすのが彼女の癖らしい。相槌の代わりに鼻を鳴らした少女の態度に戸惑いつつも圭人はその愛らしい見た目で許してしまう。


「じゃあ何しにこの国に来たんだ?」

「質問の多い童じゃな。その答えは使用人ならばじきに分かる」


腕を組み、椅子の上で足を組んだヨルネ。その椅子ごと運んでる俺の身にもなってくれと圭人は思うが。


「ほら、着いたぞ」


城に着き、椅子を下してやる。するとさっとハンカチを一振りしたヨルネだったが、その瞬間マジックのようにヨルネが座っていた椅子が跡形もなく消えた。なんだ今の!と圭人は驚き目を見開く。しかし種明かしはしてくれない様子のヨルネは、小さい足で玄関へと入っていった。


「ヨルネ様~!よかった~!やっといらしたんですね!」


弱弱しい声と共にヨルネに駆け寄っていく影。濃紺の服を身に纏った細い男は、今にも泣きそうな顔をしながらヨルネに縋りつき、よかった~と連呼した。


「お主が我を置いて消えたのが悪い」

「はぁ~申し訳ございませんヨルネ様~」

「クッキー1枚で許そう」

「あんまり食べるとお体によくないですよ~」

「知ったような口をきくな。ほら、我に献上せよ」

「仕方ないですね~どうぞ~」


ふんぞり返った少女に跪いてクッキー缶を差し出す青年。とてもシュールな光景に圭人はただぽかんと見ているばかりだ。


「ああ~あなたがヨルネ様をここまで連れてきてくださったのですね~」


青年が圭人のほうに向き直り、目に涙を浮かべながら近寄ってくる。

「お、おう。迷子になってたからな」

「ありがとうございます~なんと心優しきお方なのでしょう~」


圭人に無理やり握手を求めてきた彼は、ぶんぶんと何度も握手をするとぺこぺことお辞儀を繰り返した。思っていたお付きの者とは全く予想が外れた姿に圭人は返す言葉もない。ただされるがままに、青年と少女を交互に見て、なんだこれ、と思っていた。

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