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異世界に家ごと転生した話  作者: なずく
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彼女の笑顔

毎朝ロシェとともにクラロワの部屋へ行ってリーチェを預かり、庭で世話をする、それが圭人の日課だった。相変わらず自宅はそのまま存在するし、夜寝るときには何不自由なく寝られたが、今までのことは夢だったんじゃないかと思い窓の外を見る夜明けは変わらず異世界の風景を映した。

緑の多い庭は季節に寄り添うように色とりどりの花が咲き、爽やかな香りのする風を運んでくれる。リーチェを遊ばせるには最適な空間だった。


「ほらリーチェ、今日も外で遊ぶぞー」


圭人の仕事はリーチェの世話だが、どちらかというと一緒に遊んでいることのほうが多かった。目下、芸を覚えさせようと企んでいる圭人は度々、お手とかおすわりとか言ってリーチェに命令してみせたが、リーチェは覚える様子はない。ただ楽しそうにキュウキュウと鳴くばかりだった。


「リーチェ、そろそろお手くらい覚えような」


圭人はリーチェにこんこんと言って聞かせる。背中を撫でてやれば嬉しそうに目を閉じた。その仕草はとても愛らしく、白い竜の荘厳なイメージというよりポメラニアン的な愛くるしさがあった。


「ほら、お手だお手。うまくできたら餌やるぞ」


餌のフルーツをちらちらと見せつけながら手を差し出す。リーチェの白い小さな手はその上に乗ることはなく、代わりに尻尾を曲げて手のひらに乗せてみたリーチェに、これは餌をあげていいものかと真剣に悩む圭人。圭人の表情を覗き込むようにじっと見つめてみせたリーチェのつぶらな瞳に負けて餌を差し出す圭人は、リーチェに遊ばれているようにも見えた。


「あら、ずいぶん楽しそうね」


凛とした声が圭人の耳に届く。振り返ればそこにはいつもの服とは違ったクラロワが立っていた。


「あれ、今日は服違うんだな」

「ええ、今日は公務があったの」


そう言うクラロワが身にまとっているのは濃紺のシックな衣装だ。縁どられた金のレースが煌びやかで、落ち着いた印象の中にも彼女らしい美しさを見せている。足首まである長いスカートは途中から透けていて少し妖艶な魅力さえあった。


「公務って何するんだ?」


リーチェにフルーツを与えながら聞く圭人にクラロワは笑顔を湛えて答えた。

「今日はお使い。ディーネ王国からの手紙を受け取って、それを魔法放送で発表したの。ケイトも聞こえなかった?放送」

「ああ、なんかお昼に流れてたやつか。あれクラロワだったのか」


驚くべきことにペンはインクペン、ティッシュなど存在しないこの世界にもラジオのようなものがあった。魔法放送と呼ばれ、その名の通り魔法を使って声を拡声器から発信するといったものだ。スピーカーは至る所に置いてあり、どこにいても放送が聞こえるように整備されていた。


「内容は大したものではなかったけど、やっぱり放送は緊張するわ」

「ディーネ王国と共同で漁業の魔法効率化を図る開発を始めるってやつだっけ」

「そうよ。漁業は今まで魔法に頼ってこなかったから、魔法を使って進歩できればと思って両国が始めたの」

「パノルト王国は参加しないのか?」

「あそこは独自で大量漁獲装置を作っているからあんまり必要ないみたい」

「海にある国はやっぱ違うんだなぁ」


パノルト王国は船の集合体の国、それだけ海に関することには長けているということだ。

ふと、圭人は気になってクラロワに向き直る。彼女の顔は美しく、リーチェを眺めている横顔は美術品のようだった。

「そういえばクラロワって第3王女だよな?なんでクラロワが公務やってるんだ?」

「姉たちはディーネ王国へ留学しているのよ。私はまだ年が浅いから、代わりに公務を請け負っているの」

「それって大変じゃないか?友達と遊ぶ時間もなかなかないだろうし」

「友達・・・?」


クラロワがふと顔を上げ、首を傾げた。

「どうしたんだ?」

圭人が怪訝に思ってクラロワに尋ねる。

「私友達ってあまりわからないかも。ロシェたちとは仲良くしているけど友達って思ってくれてないだろうし、リーチェくらいかしら」

「ええっ、それってめっちゃ寂しくないか?」


現実世界で友達が多い方ではなかった圭人にも仲良くしてくれる友達はいた。何かあったときに一番に話せる友達はとても心の助けになっていたはずだ。


「寂しいかしら、ね」

少し俯くクラロワの表情に哀愁が漂う。友達を知らないというのはあまりにも寂しい。そう思うのは押しつけがましいだろうか。


「俺が友達になるよ!」


圭人はたまらずそう切り出していた。それを聞いたクラロワはふっと顔を上げ、驚いたような表情を浮かべる。

「ケイトが?」

「おうよ!俺はなかなか面白いぞって自分で言うとサムいけど。」


圭人の言葉に押し黙るクラロワ。圭人はまずいことを言ったか、と背中を冷や汗が流れた。が。


「嬉しい!私はじめてよそんなこと言われたの」

クラロワは大きく破顔した。その笑みは大輪の花のようにかぐわしく、におい立つようだった。

「へへっ。じゃあ、あれだな、あだ名をつけないと」

「あだ名?」

「そう、仲良し友達は名前じゃなくてあだ名で呼ぶもんだ」


クラロワはそうだな、クラロワだから、うーんと。と考え込む。そんな圭人を見る眼差しはわくわくとした期待に満ち溢れた色をしていた。

「クララだ!今日からクララって呼ぶ!」


「ありがとうケイト!あ、私もあだ名で呼ばなきゃいけないかしら」


そうね、と考え込むクラロワににこにこと笑顔を見せる。圭人は嬉しかった、異世界でもこんな風に心を通わせてくれる人がいることが素晴らしいことに思えた。


「ケイトだから、ケイとか!だめかしら?」

不安そうに覗き込む大きな揺れる瞳に圭人は笑顔で返した。クラロワが考えてくれたものならなんだっていい。ただ、同じ目線に立って会話をしてくれることが何よりも嬉しいことに思えた。


「それでいい!よっしゃ、これからよろしくな!」

「ええ!」


二人で交わした握手はとても暖かく、希望に満ち溢れている、そんな気がした。

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