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満月のハナシ  作者: Ni:
白い月 さまよえる白亜の都市

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93/110

灰は灰に、塵は塵に(6)

更新おそくて、すみませんソス。

 ドーム内部を進み続けた一行は、やがて都市の中枢とされるピラミッドに辿り着いた。

 アニヘイムの話によると中央にある巨大なピラミッドは、たとえ四霊獣でも足を踏み入れることが許されない聖域らしい。

 中央ピラミッドは他と比べてみるとかなり大きいが、基本的な造りは最初に転移したものと変わりはないようだった。

 地面からピラミッドの中腹まで、一本の階段が延びていて、階段の幅はひとが二人通れるくらいしかない。

 この階段を登ってピラミッド内の通路を進めば、その先にザナとルナールがいる。

 おそらくは今頃、トールを正常な状態に戻そうとしているはずだ。


 ザナがこの都市と、どういう関係なのか──


 今の一行にはその因果の結び目を紐解くことはかなわないが、とりあえずザナを信じるしか選択肢がなかった。

 それは、全員が一致している考えだ。

 これまでのザナの行動は全て、自分の目標の達成のために手段を選ばないというものだった。

 そしてその力の根底には、信仰神であるプラティーンの導きが大きく働いている。

 自分たちが彼女の目的の邪魔になれば敵になり、逆に利用価値があれば味方になりうる。

 簡単なことではあるが、ザナの目的が不透明なことや、ハーミアと違い邪悪な行動をとっても罪の意識すらないところが、ザナを信じるかどうかの気持ちを揺らがせていた。 


 それは同じ宗派でありながら、理解し合えないことを意味している。

 それどころか、敵対しかねないのだ。

 ザナはハーミアに対して優しく接したり、助けてくれたりもする。

 これまでの結果だけを見れば、ザナはできる限りの配慮を持って行動しているようにも見える。


 たしかにザナは、イセリアの声を奪った。

 しかしイセリアにヨグを植え付けて、ヨグの自己再生能力を利用し、声を出せる状態にもどした。

 その後もヨグのみを倒すことにより、イセリアには被害を与えることなく、しかも人間にしてあげたのだ。

 この結果が全てである。

 いずれにしろ、今は彼女の計り知れない知識に頼らざるをえない。


 そんな中でもハーミアは冷静に、客観的な視点でザナを見つめ直そうとしていた。

 そうすれば、ザナの真意を掴めるかもしれないと考えたのだ。

 ザナの考えを理解しないと、歩み寄ることは出来ない。

 何を持って善とし悪とするのか、正確には判断できない。

 盲目的に決めつけず、何か一つでも共感を持てれば、ザナの行動を理解できるかもしれない。

 いい人とは言えないかもしれないが、それは生きている者全てがそうだとも言える。

 同じ神を信仰する者として、歩み寄りたいと考え始めていたのだ。





 一行がしばらく黙したままピラミッドを見上げていると、階段をゆっくりとした足取りで降りてくる人影が見えた。

 それが誰なのか、考えるまでもない。

 心臓を鷲掴みされたかのような感覚に陥り、一気に心拍数が上がっていく。


 ──水槽から解放された闇の住人


 ──全ての災いの元凶


 ──闇よりも尚、暗き存在


 ──漆黒の魔族アトムスク


「来たか、ラダーの駒ども。貴様らが玄武の塔を起動したせいで、ラダーと女魔術師に先を越され、このザマだ。どうやら四霊獣を全て倒さねば、入り口の結界は破れないようだ」


 アトムスクが階段を下りる足を止め、両手から二本の黒いダガーをはやす。


「この結界は女魔術師の時間稼ぎだろうが、よもや四霊獣自ら来るとはな。最後の四霊獣白虎、死んでもらうぞ」

「あなたが、アトムスク……」


 アニヘイムの表情が変わる。

 その優しかった瞳には、殺意すら込められていた。


「よくも……よくも……玄武の翁を……青龍の坊を!」


 瞬時に、彼女本来の姿に変わる。

 筋肉が大きく隆起し、全身から白い体毛がみるみると伸びていく。

 瞬きをする間に気高い森の神獣、白虎の姿がそこに現れた。


「青龍に力を使い果たしたとはいえ、貴様らごときでは俺の相手にはならん……が、魔力は温存しておきたい。青龍の牙から造った贈り物だ。受け取るがいい!」


 いつもの冷笑を浮かべたアトムスクが、一行に向かって何かを投げた。

 目で追ってもソレが何か確認できないまま、いくつかの破片のような物が頭上を飛び越える。

 破片が地上に落ちアトムスクが術を行使すると、突如として四体の骸骨の戦士が現れた。

 それを見たルーが、大きく息を呑み込む。

 それは月魔術師なら誰もが知っている、強力な魔法生物だった。


 月魔術師が創り出す忠実な僕として、最もポピュラーなものは使い魔である。

 リファニーが、サークにかけた月魔法がそれに当たる。


 次に有名なものは、ゴーレムと呼ばれる魔法生物だ。

 朱雀の塔でリア達が戦った『竜人の彫像』は、まさにそれである。

 そして目の前にあらわれた骸骨の戦士もそうだ。


 ──竜牙兵ドラゴン・トゥース・ウォーリア


 貴重な竜の牙を触媒にして創り出す、月魔術師の護衛として最強と謳われる魔法生物。

 恐怖の感情もなく、油断やミスもしない。

 並の剣士よりも剣術に優れ、ゴーレムらしく耐久力がかなり高い。

 見た目で似ているアンデッドの骸骨戦士とは全くちがう存在であり、強さも雲泥の差がある強敵だ。


「みんな気をつけて! あれは竜牙兵といって、かなり手強い魔法生物だよ! 今の僕たちじゃ、全員で戦っても勝てないかもしれないんだ!」


 ざっと説明を聞いただけで、竜牙兵がどれほど手強いか伝わる。

 しかし一行には、絶望感に浸れるほどの余裕などなかった。

 目の前にいるのは、ユーンを殺した魔族なのだ。

 今にも感情が濁流となり、理性を吹き飛ばしてしまいそうなのだ。

 なによりアニヘイムの怒りは、頂点に達していた。

 大切な仲間を殺しただけでなく、坊の躯から牙を抜いて戦わせようとしているのだ。

 この憎き魔族は、静かに眠る坊の死体を蹂躙しているのだ。


「ガアァァァァァァッ!」


 アニヘイムが野獣の雄叫びをあげ、アトムスクに向かって駆け出す。


「竜牙兵は俺が引き受けるから、後ろは気にするな。前線はカーリャとサイだ!」


 リアが折れたユングを抜き、階段の間で立ちはだかる。

 それを見たサイが、ぱしんと槍を回転させて階段を駆け上がった。


「ルーはリアさんの援護を! ハーミアは間でサポート! あいつは……」


 カーリャがキッとアトムスクを睨みつける。


「私が殺す!」


 そう宣言し、ザイルブレードに手をかけて階段を駆け上がった。

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