灰は灰に、塵は塵に(5)
一行が目にした光景は、おそらくこの先ずっと、忘れることのできないものとなっただろう。
強大な力で圧倒していたはずの青龍が、アトムスクの放った月魔法によって一撃で屠られたのだ。
それはまるで、空から月の欠片が落ちてきたかのような魔法だった。
月魔術師のルーですら知らない、遺失魔法だ。
一行が生きてきた中で聞いたことのない爆音が空気を揺らし、続いて地面を震わせる。
次の瞬間には上空を見上げる一行の顔に、焼けるような熱さが波となって襲いかかってきた。
それでも一行は、何が起きているのかをその目で確認をするために、顔を上げ続ける。
半身を吹き飛ばされた青龍は、一瞬で絶命してしまったのだろう。
そのまま力なく落下をし、轟音とともにドームに直撃してしまった。
「やった。やったぞ」
アトムスクが歓喜の声を上げる。
しかしアトムスクもまた、深手を負っていた。
取り込んだ“朱雀の力”のほとんどを、先程の月魔法に使ってしまったのだろう。
青龍から受けた傷が、回復できないでいるようだ。
アトムスクはふらふらと下降し、そのまま青龍が開けたドームの穴に消えていった。
向かう先は、おそらくトールの中枢だ。
なにか、良くないことが起ころうとしている。
一行は、そう感じてならなかった。
「追うぞ」
かすれた声で、リアが呟いた。
それは、アトムスクの討伐を意味している。
いま目の前で青龍を倒したあの魔族に対し、恐怖心を抱いてしまった仲間たちには酷な判断だ。
それでも片腕の剣士は、生き残るために、仲間の仇討ちのために、誰よりも先に前へと進んでいった。
破壊されたドームの壁を超え、一行は魔法陣のある部屋にたどり着いた。
アニヘイムの操作により魔法陣の機能が発動すると、今度はトールの中枢に転移ができた。
飾り気のない転移の部屋からは、外に向かってまっすぐに通路が延びている。
無機質な造りと、乾いた空気が印象的だ。
アニヘイムに続いて通路を進むと、何事もなく外に出られた。
一気に視界が広がり、少しだけ状況が飲み込めてくる。
いま一行は、山のような建造物に立っていた。
アニヘイムが言うには、ピラミッドという建造物らしい。
転移の部屋からまっすぐ一本に延びた通路は、そのままピラミッドの中腹辺りに出て、そこから一本の階段となり、やはりまっすぐ地面に向かっていた。
中腹とはいえ、見晴らしはよくドーム内を気持ちよく見渡せた。
ドーム内にはいくつものピラミッドがあり、その足下には深い森が生い茂り地面を隠していた。
見上げると空を遮るドームの天井があり、天井からは太陽のように輝く光がいくつもあった。
さらに人工の川もあり、ここが建物の中だとは到底思えない光景だった。
目的の場所はピラミッド群の中でも、一際大きい中央のピラミッドだとアニヘイムが述べる。
かつん、かつんと音を立ててピラミッドの階段を下りる。
地面が石ではない、未知の固い材質だと感じ取れた。
ピラミッド自体、非常に重厚な「鉄のような材質」のブロックを何層にも積み上げて造られていて、ブロックとブロックの間には紙一枚通せないほど隙間一つない造りになっていた。
今の技術で造られたものではない事は、一目瞭然だった。
またサイの目には、ピラミッド以外の場所に“四大精霊”以外のたくさんの精霊力が感じられた。
反面、ドーム内という人工の建物の中に、これだけの精霊力が働いていることが意識的に造ったとしか思えず、不気味な感じがするのも事実だった。
サイが人工の川で水を補給すると、一行は再び歩を進め始めた。
ここがあのドーム、トールの中枢という「確証」は、ピラミッドで天井を見上げたときにすぐにとれた。
「……坊」
アニヘイムの瞳が、悲しみににじむ。
見上げるその先ではドームの天井に大きな穴があき、少し曇った本物の空が見えていた。
そしてその穴には、体の半分以上を吹き飛ばされた、まだ幼い神の竜が、だらんと体の力を抜いて朽ちていた。
優しく知的な玄武の翁……甘えん坊だけど、人一倍トールを守る使命感を持っていた青龍の坊……たった数日で大切な仲間を、家族を失った。
アニヘイムの悲しみは、とても深いものだった。
ハーミアがそっとアニヘイムの肩に触れる。
大切な人を失う気持ちは少しだけ知っているつもりだから……言葉をかけずに、アニヘイムの瞳を見つめた。
すると震えていたアニヘイムの肩が、少しだけ止まったように見えた。




