灰は灰に、塵は塵に(4)
炎の巨鳥『朱雀』は空高く舞い上がり、ビフロストが渡した虹の橋をたどって玄武の塔へと舞い降りる。
朱雀はそのまま姿を消すと、虹の橋が強烈な光を放ち始めた。
「朱雀はこの都市の力そのものよ。二つの塔を結び、都市の地下へと潜り、ふたたび朱雀の塔から舞い上がる。そうして力の円環を生み出すことにより、都市全体に力を行き渡らせるの」
「それはつまり、この都市が正常な状態に戻ったってこと?」
「半分はルーくんの言う通りね。正確にはまだ起動しただけ。あとは管理者代行のルナールが制御をするはずなんだけど……あのオッドアイの女が、それをさせるのかしらね〜」
アニヘイムが首を傾げて言う。
オッドアイの女……つまりザナがルナールを連れて、都市を制御するための区画に向かったということだろう。
そうであれば、本来の自分たちの役目はこれで終わりのはずだ。
しかし今の自分達には、やるべきことがある。
「災い……」
サイが、ぽつりと呟く。
「うん、私達はイーヴォルを探さないと……」
「違う、カーリャ! あいつだ、アトムスクとかいう奴だ!」
今度は声を荒げて、空を指差す。
その言葉に全員が驚き、一斉に空を見上げた。
そこに、確かに、ソレがいた。
ソレは人の形こそ成しているが、身体の所々が闇のようなもので染まっており、一種異様な雰囲気を漂わせていた。
この場ではリア以外に、アトムスクの姿を見た者はいない。
しかしソレには、魔に属する者だと思わせる確固たる何かがあった。
なぜか、理由もなく畏怖の念を覚えてしまうのだ。
アトムスクは虹の橋の真ん中で、両手を広げて静止している。
一行にはまるで、朱雀の力を受け止めているよう見えた。
「まさか、朱雀の力を……?」
その姿を見たアニヘイムが、驚きのあまりかすれた声で呟いた。
「それは、どういう意味だ? あいつは何をしている?」
リアの問いに、アニヘイムが頷いて答える。
「あいつは、玄武の塔に保管されていた“力の強奪者”なのかもしれない」
「力の強奪者?」
「えぇ。最初は人と変わらない弱い存在だけど、相手を喰らうことで自分の力として取り込むことができる魔族……でもあれはもう……」
「都市の力そのものを……それが奴の目的か」
リアが睨むようにして見上げる。
その時だった。
グアアアァァァァァ!
突如として、心臓を抉るような気高き咆哮が轟いた。
それは全員が聞き覚えのある声だった。
声の方向を見上げると、はるか上空で青龍とアトムスクが対峙していた。
『汝か! この元凶の元はっ!!』
空の王が翼をはためかせて、アトムスクを正面から睨み付ける。
『しかし汝の目論見もこれまで。ラダーの戦士が朱雀を起こしたのだ! あきらめて闇に帰れ!』
強烈な殺気を受けながらも、アトムスクはいつもの冷笑を浮かべる。
その反応は、青龍にとって不可思議なものだった。
アトムスクは自分よりはるかに弱い存在だ。
魔族は虚勢を張らない。
だとしたら何を考えているのだろうか?
「青龍の坊や、忠告しに来たのか? それとも俺を滅ぼしにきたのか?」
『この都市に、汝の存在は許されぬ』
「はっ、逆に俺が滅ぼしてやろうか? 玄武を殺したときのようにな」
『貴様っ!』
青龍が大きく息を吸い込み、巨大な火球を吐き出す。
火球は目で追えないくらいのスピードで飛び、アトムスクに炸裂する。
怒号のような爆音が響き、業火がアトムスクの体を焼く。
しかしアトムスクは、焼かれる体を楽しむかのような表情を浮かべていた。
『狂ったか、魔族風情が』
その言葉を愉快に感じたのか、大きな声で笑い飛ばす。
「そうだ……狂ったのだ。なんて……なんてすばらしい力なんだ。これぞ、まさに狂乱よ」
『貴様……やはり朱雀の力を』
珍しく青龍が狼狽していた。
それを見て、アトムスクがさらに嘲笑う。
「ああ……喰った。一部だが、これで十分だ」
『愚かな。所詮は、その場しのぎの力だ。それだけではトールは揺るがぬ…』
「いいんだよ、その場しのぎで。今の俺の力なら、お前を倒せる。それにこの力を失ったところで、か弱い白虎など俺の敵ではない。そして、トールは俺の物になる!」
『させん!』
青龍が都市の守護者として牙を剥く。
神を名乗るに相応しい力、人の力を越えた戦いは壮絶な攻撃力を放っていた。
それは神の力の一部を一時的に手に入れたアトムスクとて、凌ぎきれないものだ。
しかし彼らには、圧倒的な差があった。
青龍には竜の育て親がいなかった。それ故、高等な魔法は知らない。
おのずと爪や牙、尾とブレスによる攻撃がメインとなる。
しかしアトムスクは魔法を知っている。そして朱雀の力のおかげで、一時的にだが普段は使えない魔法も使えるようになっていた。
「死ね! 青龍!」
攻撃を耐え抜いたアトムスクが、印をきり魔法を完成させた。
その魔法の効果が月の欠片を呼び寄せて、青龍の体の半分以上を吹き飛ばしてしまったのだ。




