灰は灰に、塵は塵に(3)
リアが落ち着いた口調で説明を始める。
途中、声を震わせるといった感情の揺れを見せることもない。
片腕の剣士はただただ優しい声で、起こった出来事を並べていくのだ。
探索は順調だった。
不穏な空気が生まれたのは、狼の死骸を見つけてからだ。
いくつかの死骸の山を見つけた三人はその途中で、アトムスクと名乗る男を助けた。
リアはアトムスクに対して十分に警戒していたが、結果としてアトムスクの策略によりモンスターが待ち受ける部屋に閉じ込められてしまった。
三人は多くのモンスター相手に善戦したものの、圧倒的な数の『光の精霊』の攻撃により窮地に陥ってしまった。
しかしそこで、ユーンがプロミスリングに宿る『ドライアド』の加護を解き放ち、自分とレシーリアを救ってくれた。
ひとり外に残ったユーンは『闇の精霊』の力を借りて『光の精霊』を殲滅させるが、その代償として命を失ってしまった。
その後『不帰の客』となった彼女を連れて青竜の部屋まで行き、彼女の弔いを頼んだ。
「レーナまで瞬時に戻る方法があれば、神殿でリザレクションをかけられたかもしれない。しかし脱出方法すら分かっていない状況で、それは不可能だと“俺”が判断した」
「俺が?」
サイが睨むような目で聞き返す。
「そうだ。レシーリアは最後まで蘇生の方法を模索していた。しかしユーンがアンデッド化するリスクを考え、青竜の炎で弔うべきだと判断したのは“俺”だ」
「はぁ? そんなもの……氷の精霊と契約して凍結させれば、何とかなったかもしれないだろ?」
「どこで、いつ、誰がするんだ?」
「俺が、ここで、探して契約したさ! それに、ここにはザナが来ていた。あいつにテレポートを頼めば……」
「ザナが来ていた事実を俺は知らなかったし、氷の精霊を探すのにも時間が必要だ。もちろん、俺の判断が正しいとは言わない。言い訳をするつもりもない。ユーンをロストさせたのは、俺だ」
「だからなんで、そんなに平気でいられんだよ!」
再び掴みかかろうとするサイを、またしてもカーリャが止める。
「いい加減にしてよ、サイ! そんなの結果論じゃん。それに、ここに氷の精霊はいるの? ザナだって、助けてくれるとは限らないじゃん!」
「気にくわねぇんだよ、こいつのその……悟ったような、感情のない口ぶりがよ!」
サイがカーリャを押しのけて、さらに詰め寄ろうとする。
しかし今度はハーミアが、サイの前に立ちはだかる。
そして、思い切りサイの頬をはたくのだ。
「今のあなたは、怒りを誰かにぶつけることで、あなただけが楽になろうとしている独りよがりなものよ。仲間なら、全員で受け止めなくてはならないのでは?」
「俺は、ただ……」
「あなたの仲間への思いは、尊く正しいものよ。でも……悲しむ権利も、憤る権利も、全員にあるはずです。今は、今後のために冷静に話を聞くべきです」
ハーミアの強い口調に、サイが押し黙る。
「リア、続けてください。レシーリアはどうしたのですか?」
口調は厳しいままだった。
思わずリアの名を呼び捨てていることに、ハーミア自身も気づいていないようだ。
皆の前でリアの肩を持ちすぎないよう、ハーミアなりに気を使っているのだろう。
しかし彼女の神秘的で美しい青い瞳は、溢れ出そうな涙を零すまいと必死に堪えていた。
その気丈な振る舞いに、リアの心が僅かに揺れてしまう。
「レシーリアは……塔を起動させた後、別行動をとっている」
「別行動って? リアさんが指示したの?」
ルーの問いに、初めてリアが言葉をつまらせた。
そして視線を落とし、少し考える素振りを見せる。
「それとも、レシーリアの判断?」
もう一度、ルーが問い詰める。
難しい質問ではないはずだ。
即答できない理由はただひとつ、正直に答えていないからだとルーは考えていた。
おそらくレシーリアが責められないよう、自分ひとりで全ての責任を背負うつもりなのだろう。
ルーには、それが正しいことだとは思えなかった。
しかしリアとレシーリアがそう判断したのなら、それには従うべきだとも考えていた。
「レシーリアはユーンを目の前で失い、失意の闇に囚われている。少し時間が必要だ」
リアはそれだけ答えると、ゆっくりと立ち上がった。
「だが、全員が足を止めるわけにはいかない。レシーリアも闇の中で、前に進もうとしているはずだ。先に進む力を、今一度その足に……」
リアが仲間たちを奮起させようとした時だった。
突如、玄武の塔から朱雀の塔へ光の橋が生まれた。
それはまるで、虹のように美しい橋だ。
「精霊ビフロスト……玄武の塔から“ぐらつく道”を生むために佇んでいたのか」
サイが呟く。
ビフロストは虹の精霊と呼ばれる、珍しい精霊だ。
なぜか玄武の塔の最上階で留まっていたのだが、どうやらこのためらしい。
「塔が起動したみたいね〜。2つの塔がつながって、都市の力を円環させるのよ〜」
そこまで静観していたアニヘイムが、緊張感のない声で朱雀の塔を指差す。
「ほらぁ〜、朱雀が出てきたわ〜」
一行が朱雀の塔へと視線を移すと、塔の最上階から炎に包まれた巨鳥が姿を現したのだ。




