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満月のハナシ  作者: Ni:
白い月 さまよえる白亜の都市

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90/110

灰は灰に、塵は塵に(3)

 リアが落ち着いた口調で説明を始める。

 途中、声を震わせるといった感情の揺れを見せることもない。

 片腕の剣士はただただ優しい声で、起こった出来事を並べていくのだ。


 探索は順調だった。

 不穏な空気が生まれたのは、狼の死骸を見つけてからだ。

 いくつかの死骸の山を見つけた三人はその途中で、アトムスクと名乗る男を助けた。

 リアはアトムスクに対して十分に警戒していたが、結果としてアトムスクの策略によりモンスターが待ち受ける部屋に閉じ込められてしまった。

 三人は多くのモンスター相手に善戦したものの、圧倒的な数の『光の精霊』の攻撃により窮地に陥ってしまった。

 しかしそこで、ユーンがプロミスリングに宿る『ドライアド』の加護を解き放ち、自分とレシーリアを救ってくれた。

 ひとり外に残ったユーンは『闇の精霊』の力を借りて『光の精霊』を殲滅させるが、その代償として命を失ってしまった。

 その後『不帰の客』となった彼女を連れて青竜の部屋まで行き、彼女の弔いを頼んだ。


「レーナまで瞬時に戻る方法があれば、神殿でリザレクションをかけられたかもしれない。しかし脱出方法すら分かっていない状況で、それは不可能だと“俺”が判断した」

「俺が?」

 サイが睨むような目で聞き返す。

「そうだ。レシーリアは最後まで蘇生の方法を模索していた。しかしユーンがアンデッド化するリスクを考え、青竜の炎で弔うべきだと判断したのは“俺”だ」

「はぁ? そんなもの……氷の精霊と契約して凍結させれば、何とかなったかもしれないだろ?」

「どこで、いつ、誰がするんだ?」

「俺が、ここで、探して契約したさ! それに、ここにはザナが来ていた。あいつにテレポートを頼めば……」

「ザナが来ていた事実を俺は知らなかったし、氷の精霊を探すのにも時間が必要だ。もちろん、俺の判断が正しいとは言わない。言い訳をするつもりもない。ユーンをロストさせたのは、俺だ」

「だからなんで、そんなに平気でいられんだよ!」

 再び掴みかかろうとするサイを、またしてもカーリャが止める。

「いい加減にしてよ、サイ! そんなの結果論じゃん。それに、ここに氷の精霊はいるの? ザナだって、助けてくれるとは限らないじゃん!」

「気にくわねぇんだよ、こいつのその……悟ったような、感情のない口ぶりがよ!」

 サイがカーリャを押しのけて、さらに詰め寄ろうとする。 

 しかし今度はハーミアが、サイの前に立ちはだかる。

 そして、思い切りサイの頬をはたくのだ。

「今のあなたは、怒りを誰かにぶつけることで、あなただけが楽になろうとしている独りよがりなものよ。仲間なら、全員で受け止めなくてはならないのでは?」

「俺は、ただ……」

「あなたの仲間への思いは、尊く正しいものよ。でも……悲しむ権利も、憤る権利も、全員にあるはずです。今は、今後のために冷静に話を聞くべきです」

 ハーミアの強い口調に、サイが押し黙る。

「リア、続けてください。レシーリアはどうしたのですか?」

 口調は厳しいままだった。

 思わずリアの名を呼び捨てていることに、ハーミア自身も気づいていないようだ。

 皆の前でリアの肩を持ちすぎないよう、ハーミアなりに気を使っているのだろう。

 しかし彼女の神秘的で美しい青い瞳は、溢れ出そうな涙を零すまいと必死に堪えていた。

 その気丈な振る舞いに、リアの心が僅かに揺れてしまう。

「レシーリアは……塔を起動させた後、別行動をとっている」

「別行動って? リアさんが指示したの?」

 ルーの問いに、初めてリアが言葉をつまらせた。

 そして視線を落とし、少し考える素振りを見せる。

「それとも、レシーリアの判断?」

 もう一度、ルーが問い詰める。

 難しい質問ではないはずだ。

 即答できない理由はただひとつ、正直に答えていないからだとルーは考えていた。

 おそらくレシーリアが責められないよう、自分ひとりで全ての責任を背負うつもりなのだろう。

 ルーには、それが正しいことだとは思えなかった。

 しかしリアとレシーリアがそう判断したのなら、それには従うべきだとも考えていた。

「レシーリアはユーンを目の前で失い、失意の闇に囚われている。少し時間が必要だ」

 リアはそれだけ答えると、ゆっくりと立ち上がった。

「だが、全員が足を止めるわけにはいかない。レシーリアも闇の中で、前に進もうとしているはずだ。先に進む力を、今一度その足に……」

 リアが仲間たちを奮起させようとした時だった。

 突如、玄武の塔から朱雀の塔へ光の橋が生まれた。

 それはまるで、虹のように美しい橋だ。

「精霊ビフロスト……玄武の塔から“ぐらつく道”を生むために佇んでいたのか」

 サイが呟く。

 ビフロストは虹の精霊と呼ばれる、珍しい精霊だ。

 なぜか玄武の塔の最上階で留まっていたのだが、どうやらこのためらしい。

「塔が起動したみたいね〜。2つの塔がつながって、都市の力を円環させるのよ〜」

 そこまで静観していたアニヘイムが、緊張感のない声で朱雀の塔を指差す。

「ほらぁ〜、朱雀が出てきたわ〜」

 一行が朱雀の塔へと視線を移すと、塔の最上階から炎に包まれた巨鳥が姿を現したのだ。

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