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満月のハナシ  作者: Ni:
白い月 さまよえる白亜の都市

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89/110

灰は灰に、塵は塵に(2)

「そちらの女性は……?」

 リアがアニヘイムに視線を泳がせながら、質問を投げかける。

 カーリャたちと同行している以上、敵ではないのだろうことは推測できる。

 もしかしたら竜が話していた“仲間”とは、この半獣人のことだろうか。


 半獣人──


 リアやハーミアは、人間の状態から獣人に変身できるシェイプチェンジャーと呼ばれる種族だ。

 ライカンスロープ病と同様に、人の形をした獣へと変身する。

 一方の半獣人は、人と獣人の間の姿をしている。

 変身という概念はなく、生まれてからずっとその姿のままだ。

 この世界で知られている半獣人は“キャットテイル”くらいであるため、リアも彼女はキャットテイルなのだと思っていた。

 しかし彼女が自らを白虎と名乗り、この都市で重要な役割を担っていると自己紹介をしたため、少しばかり驚いてしまった。

 この都市の住人である虎の半獣人。

 あの竜と同様に、特殊な存在なのかもしれない。


「すまない。何があったのか、先に説明をしてくれるか?」

 リアが冷静な面持ちで説明を促す。

 それに対しカーリャが塔に着いてからの出来事を、やや興奮気味に説明し始めた。

 途中ルーやアニヘイムの補足もあり、一連の出来事を滞りなく報告し終える。

「……それで、玄武を殺したのが誰なのかと、黒ずくめの剣士が何者なのか分からなくて。ザナが話してた災い(イーヴォル)って奴も関係してると思うんだけど」

 カーリャが腕を組み、ううんと首をひねる。

「十中八九、災い(イーヴォル)が玄武を殺したんだろう。黒い剣士については思うところもあるが、確証できないことはまだ話したくない。そうか……ザナも関係しているのか」

 リアが熟考する。

 ここにきてザナが現れるとは、思ってもいなかったからだ。

「ザナは災い(イーヴォル)を倒せと言ったんだな?」

「はい。そう受け取れました」

 ハーミアが答えると、リアはやはり静かに頷いた。

「なるほど。俺たちの因果は、そこで繋がっているのか」

「因果? ザナや私達がここにいることは、何か意味があるのですか?」

「ザナが自らの役目を果たすと言っていたのなら、この都市と深い因果を持っているんだろう。俺たちは……アトムスクを倒すという因果を持っている」

「アトムスク?」

 さらにハーミアが問いかけると、リアが目を閉じて大きく息を吸った。

「アトムスクはこの都市にとって、いや俺達にとっても正に災い(イーヴォル)だ。今の俺たちには、アトムスクを倒す以外の選択肢がない」

「どうしてそこまで……まさかもう、災い(イーヴォル)に会ったのですか? それに……レシーリアとユーンはどこに?」

 リアはゆっくりと立ち上がり、一行に体を向けた。

 そして、幾つも置かれた小袋の前で片膝をつく。


「ユーンは……ここだ」


 一行の誰もが、その言葉の真意を理解できなかった。


「ユーンはこの中だ」


 もう一度、今度は小袋に手を当てて続ける。


「人数分ある。持っていってくれ」


 しかしまだ一行は、理解できなかった。

 いったいリアが何を言っているのか、本当にわからないのだ。

 誰も言葉を発せない中、カーリャが恐る恐る小袋に手を伸ばす。

 そして震える手で袋の口を開き、中を覗き込んだ。

 中にはサラサラとした粉が入っていた。

「これは……灰?」

 かすれた声で、リアに問いかける。

 その瞳は、動揺のあまり大きく揺れていた。

 カーリャは袋の中の“モノ”の意味を理解したようだった。

「すまない、守れなかった。彼女は、俺とレシーリアを庇って死んだ」

 リアの言葉が鐘の音のように、一行の頭の中で反響していく。

 一行がその意味を理解するまで、一瞬の間が生まれていた。

「守れなかった?」

 沈黙を破ったのは、意外にもサイだった。

「守れなかったって何だよ!」

 サイが持っていた槍を投げ捨てて、リアの胸ぐらを掴む。

 しかしリアは抵抗することなく、サイの両眼を真っ直ぐに受け止めた。

「すまない……」

「答えになってねぇよ!」

 サイが拳を握り、リアの頬へと叩き込む。

「お前、あの“生還する者”なんだろ! なに、お前だけ生き残ってんだよ! 必ず生還するってのは、お前だけなのかよ!」

「あぁ……すまない」

「レシーリアまでついてて何なんだよ、それ!」

「すまない」

「だから、答えになってねぇんだよ!」

 サイがもう一度拳を振り上げると、カーリャがそれを両手で止めた。

「やめなよ! 冒険での死は、誰も責めちゃいけないんだよ! それくらい冒険者なら……」

「何だよそれ……そんな簡単に思えるわけないだろ! お前は、何ともねぇってのかよ!」

「何ともないわけないじゃん!」

 カーリャの叫びが、サイの動きを止める。

「んなわけないじゃん……」

 カーリャはサイの腕を両手で抱きかかえながら、ぼろぼろと大粒の涙を流しだした。

 さすがのサイもそれ以上は責められず、手を震わせながらリアを開放する。

 そしてしがみつくカーリャの手を乱暴に振りほどき、槍を拾いに戻った。

「リアさん。まず、何があったのか説明をしてよ。そんな言い方じゃ、誰だって混乱するよ」

 ルーが諭すように言葉をかけると、リアは視線を落とし僅かに頷いて応えた。

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