灰は灰に、塵は塵に(2)
「そちらの女性は……?」
リアがアニヘイムに視線を泳がせながら、質問を投げかける。
カーリャたちと同行している以上、敵ではないのだろうことは推測できる。
もしかしたら竜が話していた“仲間”とは、この半獣人のことだろうか。
半獣人──
リアやハーミアは、人間の状態から獣人に変身できるシェイプチェンジャーと呼ばれる種族だ。
ライカンスロープ病と同様に、人の形をした獣へと変身する。
一方の半獣人は、人と獣人の間の姿をしている。
変身という概念はなく、生まれてからずっとその姿のままだ。
この世界で知られている半獣人は“キャットテイル”くらいであるため、リアも彼女はキャットテイルなのだと思っていた。
しかし彼女が自らを白虎と名乗り、この都市で重要な役割を担っていると自己紹介をしたため、少しばかり驚いてしまった。
この都市の住人である虎の半獣人。
あの竜と同様に、特殊な存在なのかもしれない。
「すまない。何があったのか、先に説明をしてくれるか?」
リアが冷静な面持ちで説明を促す。
それに対しカーリャが塔に着いてからの出来事を、やや興奮気味に説明し始めた。
途中ルーやアニヘイムの補足もあり、一連の出来事を滞りなく報告し終える。
「……それで、玄武を殺したのが誰なのかと、黒ずくめの剣士が何者なのか分からなくて。ザナが話してた災いって奴も関係してると思うんだけど」
カーリャが腕を組み、ううんと首をひねる。
「十中八九、災いが玄武を殺したんだろう。黒い剣士については思うところもあるが、確証できないことはまだ話したくない。そうか……ザナも関係しているのか」
リアが熟考する。
ここにきてザナが現れるとは、思ってもいなかったからだ。
「ザナは災いを倒せと言ったんだな?」
「はい。そう受け取れました」
ハーミアが答えると、リアはやはり静かに頷いた。
「なるほど。俺たちの因果は、そこで繋がっているのか」
「因果? ザナや私達がここにいることは、何か意味があるのですか?」
「ザナが自らの役目を果たすと言っていたのなら、この都市と深い因果を持っているんだろう。俺たちは……アトムスクを倒すという因果を持っている」
「アトムスク?」
さらにハーミアが問いかけると、リアが目を閉じて大きく息を吸った。
「アトムスクはこの都市にとって、いや俺達にとっても正に災いだ。今の俺たちには、アトムスクを倒す以外の選択肢がない」
「どうしてそこまで……まさかもう、災いに会ったのですか? それに……レシーリアとユーンはどこに?」
リアはゆっくりと立ち上がり、一行に体を向けた。
そして、幾つも置かれた小袋の前で片膝をつく。
「ユーンは……ここだ」
一行の誰もが、その言葉の真意を理解できなかった。
「ユーンはこの中だ」
もう一度、今度は小袋に手を当てて続ける。
「人数分ある。持っていってくれ」
しかしまだ一行は、理解できなかった。
いったいリアが何を言っているのか、本当にわからないのだ。
誰も言葉を発せない中、カーリャが恐る恐る小袋に手を伸ばす。
そして震える手で袋の口を開き、中を覗き込んだ。
中にはサラサラとした粉が入っていた。
「これは……灰?」
かすれた声で、リアに問いかける。
その瞳は、動揺のあまり大きく揺れていた。
カーリャは袋の中の“モノ”の意味を理解したようだった。
「すまない、守れなかった。彼女は、俺とレシーリアを庇って死んだ」
リアの言葉が鐘の音のように、一行の頭の中で反響していく。
一行がその意味を理解するまで、一瞬の間が生まれていた。
「守れなかった?」
沈黙を破ったのは、意外にもサイだった。
「守れなかったって何だよ!」
サイが持っていた槍を投げ捨てて、リアの胸ぐらを掴む。
しかしリアは抵抗することなく、サイの両眼を真っ直ぐに受け止めた。
「すまない……」
「答えになってねぇよ!」
サイが拳を握り、リアの頬へと叩き込む。
「お前、あの“生還する者”なんだろ! なに、お前だけ生き残ってんだよ! 必ず生還するってのは、お前だけなのかよ!」
「あぁ……すまない」
「レシーリアまでついてて何なんだよ、それ!」
「すまない」
「だから、答えになってねぇんだよ!」
サイがもう一度拳を振り上げると、カーリャがそれを両手で止めた。
「やめなよ! 冒険での死は、誰も責めちゃいけないんだよ! それくらい冒険者なら……」
「何だよそれ……そんな簡単に思えるわけないだろ! お前は、何ともねぇってのかよ!」
「何ともないわけないじゃん!」
カーリャの叫びが、サイの動きを止める。
「んなわけないじゃん……」
カーリャはサイの腕を両手で抱きかかえながら、ぼろぼろと大粒の涙を流しだした。
さすがのサイもそれ以上は責められず、手を震わせながらリアを開放する。
そしてしがみつくカーリャの手を乱暴に振りほどき、槍を拾いに戻った。
「リアさん。まず、何があったのか説明をしてよ。そんな言い方じゃ、誰だって混乱するよ」
ルーが諭すように言葉をかけると、リアは視線を落とし僅かに頷いて応えた。




