塔の役割(14)
アニヘイムが無言で魔導器を操作し、塔の起動を進める。
時折その手を止めて唇を強く噛みしめる姿が、一行の胸をつまらせる。
彼女がショックを受けているのは、玄武ベソートの死だけではない。
何の前触れもなく現れたザナに、全支配権を握られたことが悔しいのだろう。
ザナの言葉は、創造主が放つ命令と同じ効果があった。
それは“抗うことが出来ない”という結果が先に決まっている、因果の逆転だ。
つまりザナは、アニヘイムの創造主である大賢者『マナ=ウェル』と同等の権限をもっていることになる。
戸惑っているのは、アニヘイムだけではない。
一行もまた、その渦中にあった。
まず、ベソートが何者かに殺されていたこと。
そしてルナールが、ラダーと呼ばれる“管理者代行”であったこと。
最後にザナが大賢者『マナ=ウェル』や、黒の巨狼の名を口にしたことだ。
どうやら自分たちは、またしても彼女と運命の旅路を共にしなければならないらしい。
「災いっていうのは何だろう? ザナが倒せって言ってたけど……」
カーリャの問いに対し、アニヘイムが分からないと答える。
「おそらくは、玄武の翁を殺した魔族。でも、十六層目で逃げ出した魔族はどれも下位のはず……あんな下位の魔族が束になったところで、玄武の翁を倒せると思えないわ」
「十六層目って、黒ずくめの剣士がいたところだよね? あいつが、災いってことじゃないの?」
しかしルーの問いにも、アニヘイムは首を横に振って否定する。
「さっきカーリャさんも言ってたのだけれど、玄武の翁の傷は巨大な爪とかそういう類のものね」
そもそも黒ずくめの剣士に玄武の翁を両断するような力があるなら、あのときカーリャは刀ごと斬られていただろう、とアニヘイムが付け加える。
「あの……少し話が逸れますが、私もいいですか?」
今度はハーミアが、控えめに手を挙げる。
「そもそも黒ずくめの剣士は、十六層目で何をしていたのでしょう? あそこには下位の魔族がたくさん保存されていて、全てのシリンダーが壊されていたんですよね。黒ずくめの剣士が、シリンダーを破壊したとは考えられませんか?」
「そうなると何のためにって話になるんだろうが、そもそも俺たちを襲って来なかったことも含めて、あいつは謎だな。まだ下にいるのなら、探すのも手だが?」
サイが槍を掲げて提案するが、カーリャがそれを止める。
「今は無用な危険に関われるほどの余裕がないかな。それよりもレシーリアたちと合流して、どうするかを話し合ったほうがいいと思う」
そう言って、壁の穴から朱雀の塔を目を細めて見る。
自然と他の仲間達も、対面の塔へと視線を向けた。
もうすぐ、この塔の攻略も終わる。
アニヘイムのこと、いくつかのイレギュラーな事態、謎めいた黒ずくめの剣士、ベソートの死、ザナとルナールのこと、話さねばならないことが多い。
向こうの塔では何があったのか、それも知りたい。
その思いは、この場の誰もが同じだった。
「お待たせ〜。あとは塔の自己修復が終われば、勝手に起動するわ」
アニヘイムが軽く伸びをすると、ようやくいつもの笑顔を見せる。
「起動までは、だいたい一日くらいね。さぁ行きましょ〜」
「えっ、起動するまで待たないでいいの?」
カーリャが意外そうに聞くと、アニヘイムが小さく肩をすくめる。
「そうね。確かにやるべきことは、まだあるのだけど……それは後でもいいわ。今は一刻も早く都市を起動して、災いを倒して、あなた達を外に送ることよね」
「でも……」
カーリャが、ちらりとベソートの亡骸に視線を落とす。
このままでいいのか、という目だ。
「大丈夫よ。修復機能が起動すれば、ある程度はゴーレムが綺麗にしてくれる。玄武についてはこちらの話だし、あなた達を送った後でいいの。それよりも、朱雀の塔に行ったお仲間と会いたいんでしょ〜?」
「それは……うん」
「あっちはだ〜いぶ前に塔を起動してるから、とっくに塔を出てるはずよ。さぁ、早く行きましょ〜」
そして、もう一度優しく微笑む。
そこまで言われると、カーリャも飲み込むしかない。
「うん、わかった。そうさせてもらえると助かる……じゃあみんな、急いでこの塔を出よう!」
カーリャの言葉に、一行は力強く頷いて応えた。




