塔の役割(3)
次の日、朝から塔の探索は始まった。
サイとカーリャが、自分たちの身長の二倍はあろう石扉を押し開ける。
塔の中は吹き抜けになっており、壁沿いにある螺旋階段が延々と上に伸びていた。
いったいどこまであるのか見上げてみるが、一切の光が入ってこないこの塔では無駄な行為だ。
試しにカーリャが魔法剣のフラッシュで天井に向けて光を放ってみるが、三層といかない高さで深い闇に飲み込まれてしまう。
「アニヘイムさん。これ、どれくらいの高さなのかな?」
カーリャが諦めきれないのか、顔を上に向けたまま目を細めていた。
終着地点が見えないというだけで、精神的な疲労はたまりやすくなる。
それだけではない。
暗闇に沈む塔の内部は、必要以上に陰鬱な気持ちを誘う。
この環境が、きっと塔の探索を困難にさせるだろうと感じていた。
「私も来たことはほとんどないからね〜。玄武の翁の部屋は最上階にあるし、そこまでは青龍の坊に乗せてもらってたしね。塔の中を通るのは初めてなの。こんな造りだったんだね〜」
感心した様子で、てくてくと暗闇の中を見てまわる。
どうやらアニヘイムには暗視能力があるらしい。
一向に比べ、かなりハッキリと見えているようだ。
「しかしまぁ、見事なまでの暗闇だな」
サイは精霊力を視認するセンス・オーラで暗闇の中でもある程度の情報を得られるため、フラッシュの光を避けて見上げていた。
その様子に気づいたのは、意外にもルーだった。
たしかこんな時、リアやレシーリアは決まって、サイとユーンの目を頼っていたことを思い出す。
「ねぇねぇ、サイ。なんかぁ……ここにあったら不自然な精霊とか、見えてる?」
「んん……あぁ、そうだな。暗闇だからってのもあるんだろうが、かなり闇と恐怖の精霊力が深くて強い。それから、かなり上に負の生命の精霊も見える。それにあれは……ビフロストだな。かなり珍しい精霊だ」
希少な精霊を見つけてどこか嬉しそうなサイの横に、ハーミアが暗闇を見上げながら並ぶ。
「負の生命の精霊とは、アンデッドのことですか?」
サイが黙って頷く。
ハーミアは神官であるが故、不死者の存在には敏感だ。
もし戦闘になった時、相手が下位の不死者であれば自分の神聖魔法が役に立つかもしれない。
今は真祖の吸血鬼や不死の王のような、高位の不死者でないことを願うしかないだろう。
「うへぇ、ゾンビとかゴーストみたいなのと戦闘になるのね。んじゃぁビフロストっていうのも、なんかやばいモンスターなの?」
「いや、ビフロストはカーリャが思うようなモンスターの類じゃない。俺たち精霊使いでも使役することができない、色を司る精霊だ。最上階で行き場に困って、留まっているように感じる。ユーンならもっと細かく見えると思うんだが……すまない」
「いやいや、すごいって。私じゃ何も見えないもん。どちらにしろ、最上階に問題ありってことね」
カーリャが手をパタパタと振ると、今度は螺旋階段を照らし出した。
階段の幅は、ひと六人分くらいの広さがある。
ここでもし戦闘になった場合、同時に並んで戦えるのは二人までだろう。
「隊列発表〜! 先頭は私と……」
「私が行くわぁ〜」
アニヘイムがニコニコと笑いながら、カーリャの隣に並ぶ。
「えっ、だけど……」
「これは私たちの問題なんだしぃ、私はこの身体が武器だからね」
そう言って、鋭い爪と牙を見せてくる。
たしかに彼女はこのパーティの中で、最も攻撃範囲が狭いだろう。
「それにぃ、最上階に行く前にも、チェックしないといけない所があるらしいのよ〜」
その時、カーリャにはアニヘイムの表情が少しだけ険しくなったように見えた。
アンデッド以外にも何か問題があるのだろうか、と首を傾げる。
「わかった。じゃあ先頭は私とアニヘイムさん。次にハーミアとルー、最後にサイ。サイは後ろも警戒してね。ルーは魔法の配分を考えながらで、ハーミアにはフラッシュを預けるから光を照らしてくれる?」
話しながらフラッシュを差し出すと、ハーミアが少し躊躇しながら受け取った。
ハーミアは刃物に対して恐怖症があるのだが、こればかりは我慢するしかないと自分に言い聞かせる。
「じゃぁ、探索開始と行きますか〜!」
元気に拳を振り上げるカーリャに、一行は「おう〜!」と拳を上げて応えるのだった。




