塔の役割(2)
彼女の名前はアニヘイム・アンバー。
この空中都市『トール』で生まれた『白虎』の役割を担う“戦士”だという。
彼女の話によると、この都市に住人は存在しないらしい。
現状は“戦士”である白虎、“守護者”である青竜=カイヤナイト、“知恵者”である玄武=ベソートがこの都市で動いている。
その他に“力の象徴”である朱雀=スペッサルティンもいるらしい。しかし今は、その姿が見えていない。
そもそも朱雀は、この都市を動かす“力の象徴”である。
二つの塔が正常に働いていれば、肉眼で見えるようになるそうだ。
──塔の停止。
それがこの都市で起きた『不測の事態』のようである。
アニヘイムはその調査をするために『玄武の塔』へと来たわけだ。
「この塔の最上階に玄武の翁がいてぇ、何が起きているのか知ってるはずなの。青竜の坊はぁ、外からこの都市を守らなくちゃいけないからぁ、中の仕事は私がしているのよ」
おおよそ戦士に見えないアニヘイムが、スープをちびちびと飲みながら説明をする。
「それであまりに人手が足りないからぁ、ラダーが選んだ“外界の戦士”に協力してもらうってことになってぇ、それが今なのね」
「そのラダーってのは何なんだ?」
槍を抱えるように腕を組み、塔の壁に背を預けるサイが油断することなく質問を投げかける。
「ラダーはぁ、トール全体の管理を任されてる子なの〜。私は会ったことないけどね〜」
「この都市の管理者なのか?」
「ん〜、もともとの管理者は『マナ=ウェル』っていう大賢者らしいんだけどぅ、誰も会ったことがないみたいね。今はラダーが管理の代行をしてるらしいわ。会ったことないけどね〜」
うぅむ、とサイが唸る。
わかったような、しかし雲を掴むような話だ。
「そもそも、この……無人の都市は何なんだ?」
「私も詳しくは知らないんだけど〜知っててもあまり話せないの。ごめんなさいね。でも玄武の翁なら、教えてくれるかもしれないわ」
まるで、子供に説明するかのような口調だ。
サイは彼女に対し、なぜか母の面影を重ねていた。
しかしなぜ、そう感じたのかまでは理解できない。
ただ母に似た優しさや、包容力のようなものを感じ取れたのだ。
「向こうの……朱雀の塔は、安全なのですか?」
ハーミアが、我慢できずに聞いてしまう。
これから自分たちが登る塔よりも、リア達の身を案じてしまうあたり彼女らしい。
ルーは、そんな彼女の変化を楽しんでいた。
おそらくレシーリアとユーンもそれには気づいていて、同じように思っているはずだ。
鈍感なリアやカーリャ、そういった感情に疎いサイは気づいていないだろう。
「あぁ〜侵入者防止の危険な部屋があるけどぅ、今は作動してないはずよぅ〜」
「じゃあ敵……というか、そういった相手はいないのですか?」
「ん〜私が青竜の坊から聞いてるのはぁ、魔獣ブラドゥと狼が逃げたってことくらいかなぁ。他にも逃げた生き物がいたら困るんだけど、それも玄武の翁に聞けばわかるはずね〜」
そうですかと、ハーミアは少し胸をなでおろした。
とりあえず魔獣ブラドゥならリードが倒して使役しているし、狼にやられるような彼らではない。
今のところ向こうにも、目に見える脅威はなさそうだ。
「はーい、質問! なんか成り行きで私達が手伝うことになってるんだけど、私達にメリットはあるのかな?」
カーリャが元気に手を挙げる。
「報酬とか私に言われても困るんだけど〜欲しい物があれば持っていっても構わないはずよ。あとはラダーに言ってみて〜?」
「そのラダーが、誰だか知らないんだけど……」
「きっとトールから出る時に会えるはずよ。トールから自由に出入りできるのは、ラダーだけだから」
ふぅん、とカーリャが頷く。
つまりそれは、ラダーが寝ている私達を連れてきたということになる。
何にしても玄武=ベソートに会って、話を聞くしかなさそうだ。
そこでなら、この都市について詳しく知ることができるかもしれない。
きっとリアや、レシーリアが褒めてくれるような情報を聞き出せるはずだ。
ユーンだって無事に帰れると分かれば、安心してくれるだろう。
「わかった。じゃあ、一緒に行こう。ラダーの戦士って言われてもピンとは来ないけど、私達は冒険者だからね」
「冒険者〜?」
「うん。冒険者ってのは、目の前にある冒険に命をかけるものなの。だから私達が命をかけて、上まで連れて行ってあげる」
カーリャは逆巻く闘志を眼に宿し、力強くそう答えるのだった。




