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満月のハナシ  作者: Ni:
白い月 さまよえる白亜の都市

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72/110

狂乱のアトムスク(5)

 ホールの先に進むと、すぐに階段があった。

 この部屋が侵入者を防ぐ罠の役割を担っているとしたら、ここから先は比較的安全なはずだ。

 それに罠があっても、アトムスクが発動させているだろう。

 そう考えたリアは刀を握ったまま、ユーンを担いで階段を登っていた。

 時折マントからユーンの血が染み出ては、真っ白な階段へと滴り落ちる。

 レシーリアは無意識のうちにそれを避け、リアの後に続いていた。

 その目はうつろで、“魔剣 無銘”の真っ黒な刀身をぼんやりと見つめている状態だ。


「大丈夫か?」

 リアが声をかけるが返事をしない。

 大丈夫なわけがないと、リアも理解はしていた。

 それでも今は、先に進まなくてはならない。

 この都市から脱出するために、また一刻も早くハーミア達と合流するためには塔を登るしかないのだ。

 そしてアトムスクの目的を把握し、おそらくは討伐しなくてはならない。


 自分たちにとって、あれはまさに災い(イーヴォル)そのものだった。

 もしかしてブラドゥに呪いの楔を打ち込んだというイーヴォルは、アトムスクのことではないのだろうか。

 アトムスクはこの都市にとっても災い(イーヴォル)そのものであり、あの青い竜が探している相手ではないのか。

 青い竜が自分たちを“ラダーの戦士”と呼んだこと、そしてもし戦う相手がイーヴォルだとすれば、何かが繋がる気がした。


「ねぇ、リア」

 ぽつりとレシーリアが呟く。

「リザレクション以外で蘇生の方法はある?」

 レシーリアの質問に、リアは返事をつまらせる。

 そんなことは、リアも最初に考えていたことだ。


 蘇生するには三つの神聖魔法が考えられる。


 ひとつは、リザレクション。

 最もポピュラーな死者を生き返す魔法だ。

 しかしこれは、死んでから時間が経つほど成功率が下がる。

 この都市から脱出し、早馬でレーナに帰り、リザレクションが使える大司祭を探し出すまでの時間を考えると、とてもじゃないが間に合わない。


 次に思い浮かんだ魔法は、リコールスピリット。

 これは死者の魂に、術者の体を捧げる魔法だ。

 しかしこんな自己犠牲の魔法を、赤の他人に使う大司祭などいないだろう。


 そして、リインカーネーション。

 この魔法を使用すると、死んでから一週間後にどこかの赤ん坊として生まれ変わる。

 そして成人する頃に、生前の記憶と人格を取り戻す。

 しかしこれは、臨終する直前に使用しなくてはいけない転生の魔法だ。

 死んでからでは意味がない。


「神聖魔法だと、リザレクションだけだ。何らかの方法で帰れることに賭けるというなら、連れて行ってもいいんだが……」

 しかしレシーリアが首を横に振り、その考えを否定をする。

「そんな奇跡は待ってられないわ。それでもし、ユーンの魂が暗黒神に見つかってアンデッド化でもしたら、みんなの心にいらぬ傷が増えるだけよ」


 そうだ。

 最大のリスクはそこにある。

 死者の魂を弔わないでいると、アンデッド化する危険があるのだ。

 その期間はまさに神の気まぐれで、死んでまもなくアンデッド化することもあれば、一ヶ月経ってもしないことがある。


「あの竜に相談して、駄目なら弔いたい。みんなには見せたくないわ」

 少し声が震えていた。

 彼女なりに悩み、決断したのだろう。


「そうだな。俺もそれがいいと思う」

 少し優しく微笑みかけ、再び前を向く。

 リアにはレシーリアが前に進もうと、もがいているように見えた。

 このパーティは成長をする。

 それはベテランと呼べる彼女にも言えることだ。

 ならば自分が先頭で示さねばならない。

 全ての判断は、自分が下したものだ。

 これ以上は彼女に背負わせるわけにはいかない。

 そう強く思っていた。

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