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満月のハナシ  作者: Ni:
白い月 さまよえる白亜の都市

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狂乱のアトムスク(2)

 竜人(ドラゴンニュート)の彫像は全部で十二体、全員が槍を持っている。

「ガーゴイル?」

 レシーリアが緊迫した声で、リアに確認を求める。

 しかし片腕の剣士は、その問いに答えられなかった。


 ガーゴイルは魔術によって動く守護者だ。

 普段は石像の姿をしており侵入者が現れると石化が解かれ、下位の魔法生物として襲いかかってくる。

 その背後には失われた古代王国時代の、強力な月魔術師の存在が必ずある。


 この巨大な都市を浮遊させるだけの文明に生きた月魔術師──


 そんな月魔術師の造った守護者が、果たしてただのガーゴイルと同等と考えていいのだろうか。

 相手がただのガーゴイルならリアの実力を持ってすれば、たとえこの数を相手にしても勝てるだろう。

 しかしレシーリアの攻撃を物ともしないあのアトムスクが、戦闘を避けるほどの相手だ。


「壁に追い込まれないよう、円の動きで後退しながら戦うぞ。先頭は俺、レシーリアはユーンを守りながらだ。ユーンは精霊を呼び出す準備をしていてくれ!」


 そう叫び、折れた刀を構える。

 まずは攻撃がどれくらい通じるか、駄目なら獣化をするしかないだろう。

 黒の巨狼(ブラドゥ)を召喚したいところだが、災い(イーヴォル)に行動を制限させる楔が打ち込まれている。

 もしここに災い(イーヴォル)が現れたら、黒の巨狼(ブラドゥ)が再び敵となり襲いかかってくるかもしれない。


「まずはひと暴れ、だ」


 すぅと息を大きく吸い込み、竜人に襲いかかる。

 その初太刀は鋭く竜人の首を薙ぎ、返す刀で二匹目を斬り落とす。

 振り向きざまにもう一匹を斬り上げ、即座に体を反転させてさらに違う一匹を袈裟斬りにする。

 手応えはあった。

 一息で四匹を斬りつけたリアは、バックステップをしながらユーンのもとに戻る。

 既にレシーリアも黒い小剣『魔剣 無銘』を手に、二体の竜人を退けていた。

 もしあの魔剣で竜人をすべて屠れば、スレイヤー化が進むかもしれない。

 この場合は、魔法生物スレイヤーになるのだろうか。この先も魔法生物が多いようなら、止めはレシーリアに任せるべきだろう。


「リアさん!」

 レシーリアの魔剣に気を取られていたリアに、ユーンが危機を告げる。

 見れば、竜人の傷がみるみると修復されていたのだ。

 その治癒能力はあのトロールをも凌ぐ勢いで、あっという間に無傷の状態になってしまった。


「不味いわよ、リア……」

 レシーリアの言葉は、単純に自分の力ではどうにもならないと告げている。

 あれだけの治癒能力、小剣で倒すには時間がかかりすぎる。


「作戦は変わらない。ユーンはオレアデスを!」

 ユーンが深く頷くと、両手を広げて精霊語を唱え始める。


『ユルネリア・ライクォーツの名において命ずる。盟約に従い……力を貸して、オレアデス!』


 ユーンの精霊語に反応し、地の精霊ベヒモスが姿を現す。 

 地の精霊ならば、土の壁を作ってある程度守りを強化できるだろう。 

 あとはリアが何とかするしかない。


「行くぞ!」

 獣のような荒々しい気を吐き、体を大きく波打たせながら筋肉を隆起させていく。

 全身から銀色の毛が生え、口が左右に大きく裂けていき、瞬く間に知性を持った銀髪の人狼が現れた。

 ユーンに、この姿を見せるのは初めてだ。

 さぞや畏怖の念を抱かせてしまったことだろう。

 それでもいつかハーミアが変身してしまった時のことを考えると、自分が先に見せておくべきだと前向きに考えられた。


 銀の獣はその身に荒振神を宿しているかのごとく、視界に入る相手に爪を振り落とし、牙を食い込ませる。

 あのレシーリアでさえリアが狂戦士化しているように見え、迂闊に近づけないと感じるほどだ。

 その戦闘能力は圧倒的で、いくつか槍の攻撃を受けてはいたが、ついに十二体の竜人を屠ってしまった。


 相手が石像型の魔法生物のため、返り血は浴びていない。

 それでもレシーリアは果たしてこの獣が味方なのかと、近づくことに躊躇を感じてしまうほど鮮烈な戦いっぷりだった。

 リアもそれを感じ取るが、安全が確認できるまでは変身をとくわけにいかず、今はただ切れた息を整えることに集中していた。


 その胸に、小さく色白い手のひらが当てられる。


 あまりの不意打ちに、驚いて視線を上げる。

 そこにはブラウンがかった髪を揺らせるようにして、僅かに首を傾げるユーンが真っ直ぐに見つめてきていた。


「大丈夫ですよ。怖くありません」


 彼女は少し手を震わせながらも、笑顔でそう呟いた。

 その光景を見ていたレシーリアも、思わず胸の内を熱くしてしまう。

 本当にユーンは強くなった。

 強くなろうとしていた。

 冒険者としてもっとも向いていないであろう彼女が、誰よりも周りに気を配り、前に進もうとしている。


「ほんと、ユーンは強くなっ……」


 レシーリアがそう声をかけようとした時だった。

 ユーンの胸を一本の槍が貫いたのだ。

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