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満月のハナシ  作者: Ni:
白い月 さまよえる白亜の都市

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狂乱のアトムスク(1)

 この都市についてから、三日目の探索となった。

 先頭はレシーリアで、罠を警戒しながら先へと進んでいる。

 少し距離を開けてユーン、そのすぐ後ろにリアと続く。

 アトムスクは最後尾で、両手を後ろに縛られたままついてきている。

 リアとレシーリアの頭の中では、彼がもし逃げても大した問題ではなく、モンスターに襲われたところで知ったことではないという考えで一致していた。


「手際が良いな」

 アトムスクの低い声がレシーリアの耳に届く。

「それはどうも。でも、あまり勝手に喋らないでもらえるかしら?」

「なら、口枷でもすればいい」

 それは良い提案ね、とレシーリアがロープを取り出そうとする。

「レッ……レシーリア、それはあんまりだと思う」

 慌ててそれを止めるユーンに、レシーリアが軽く肩をすくめて返す。


「優しいのだな、君は」

 アトムスクが笑う。

 ただし、レシーリアの受けた印象は『不気味に』だ。

 この男は危険だという言葉が、脳内で繰り返し発せられていた。

 それでもこの男を連れてきている理由は、ユーンの前であまり冷酷な判断を見せたくないという一点のみだった。

 本来なら足の腱でも切って、ロープで縛っておくべきだろう。

 助けるならば、探索を終えた後でも十分だ。

 もしこの場にユーンがいなければ、リアも躊躇をしなかったはずだ。彼は生き残るためなら、そういった判断ができる男だ。

 しかしカーリャやユーンといった、冒険者としては甘い考えを持つ二人の存在が、レシーリアの判断を鈍らせていた。

 できることなら、この二人を汚すことなく冒険者として成功させたい。

 それはもはや、レシーリアの願望でもあった。


「アトムスクさんは、まったく記憶がないのですか? 一人でここまで来るのは、大変だと思うんですが」

 ユーンがマッピングをしながら質問をする。

「さあな。一人かもしれないし、一人ではないかもしれない。あと、わずかに記憶がもどっていることもある」

 ユーンのさりげない質問に、アトムスクが抵抗なく答える。

「この先のどこかの階で強力なモンスターがいて、それから逃げた……ような気がする」

「……ちょっと、それ初耳なんだけど。そういうのは、すぐに話しなさいよ」

「聞かれていないから、答える必要もない」

 レシーリアが苛立ちのあまりに小剣に手をかけるが、リアがそれを視線で制す。

「あんたにも危険が及ぶんだ。気づいたことは話してくれ」

 アトムスクが、承知したとだけ答える。

「レシーリア、俺が先に行く。入れ替わろう」

 リアが折れた赤月の刀『ユング』を抜き、先頭へと進む。

 避けられない戦いがあるならば、自分が迎え撃とうという考えだ。

 レシーリアもその考えを汲み取り、小剣を抜いて後列へと向かう。


「油断するなよ」

 リアが、すれ違いざまに耳打ちをしてくる。

 この場合の油断をするなとは、アトムスクに対してだろう。

 レシーリアは表情を全く変えることなく、無言のままユーンの後ろへと回った。

 この位置から前方に罠を匂わせる不自然な点はないかを探りつつ、後方のアトムスクが不審な行動をとっていないかも注意をする。

 骨の折れる役割だ。

 レシーリアにとって、アトムスクは既に邪魔な存在以外の何者でもない。

 やはり置いてくるべきだったかと何度か考え始めた頃、上層へ向かう階段が現れる。

 リアが後ろを振り返り黙って頷くと、警戒しながら一歩ずつ音を殺して登っていく。

 硬い階段を登っていくと、そこは広いドーム状のフロアになっていた。

 天井までは、三層分くらいの高さがあるだろう。

 真っ直ぐ奥には大きな扉があり、まるで闘技場のような作りだ。

 壁には竜人(ドラゴンニュート)の彫像が何体も埋め込まれていた。


「アトムスク、ここか?」

 リアが振り返らずに、警戒しながら歩を進める。

 レシーリアも周囲に気を配りながら、ユーンに背を向けて後方へと視線を送る。

 しかし、そこにアトムスクの姿はなかった。

 アトムスクはフロアに入る手前で、顔を歪ませるように笑みを浮かべて立っていたのだ。

 ぞくりと背筋に悪寒が走り、反射的に小剣を振りかざして駆け出す。

 そして躊躇することなく、相手の首筋に向けて剣先を振り落とした。


「なっ!」

 タイミングは完璧だった。

 しかし剣先はアトムスクに触れることなく、突如として現れた鉄格子によって弾き返されてしまった。

 甲高い音が室内に鳴り響き、リアが驚いて振り向く。


「退路を断たれたわっ! リア、気をつけて!」

 レシーリアが苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、ユーンの元へと駆け寄る。

 やはり罠だった。

 いや、この男が罠そのものだった。

 後悔の念が押し寄せるが、今はこの窮地を切り抜けなくてはならない。

「ユーンは、精霊を呼び出しておいて!」

 再びユーンに背を向けると、アトムスクを睨むようにして見つめる。


「さぁ、最後の生贄よ。刹那の中で絶望を謳うがいい。劣等種族どもが……」

 アトムスクが両手を広げて、高らかに笑った。

 しかし次の瞬間、その額に柄のついていないダガーが勢いよく突き刺さる。


「うっさいわね。あとでアンタはきっちりと殺してあげるわ」

 レシーリアが、太もものベルトに差しているスローイングダガーを三本引き抜くと、そのまま振り上げるようにして投げつける。

 ダガーは鉄格子の間をすり抜け、アトムスクの喉、腹部、太ももに突き刺さった。

 普通の人間なら即死しているはずだ。

 しかしアトムスクは意に介さぬ様子で、邪悪そのものな笑みを浮かべて立っていた。


「よそ見をしていていいのか? 来たぞ?」

 顎を上げて部屋の中を見ろ、と促してくる。

 レシーリアが舌打ちをしながら振り向くと、そこには槍を持った竜人の彫像が翼を羽ばたかせて、今にも襲いかかろうとしていた。

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