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満月のハナシ  作者: Ni:
白い月 さまよえる白亜の都市

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災いの痕跡(8)

 部屋を移した三人は、扉の近くにリア、窓際にレシーリアとユーン、部屋の隅に負傷した男という配置で休息をとっていた。

 とはいえ、この男が目覚めるまでは、とても眠りにつくことなどできない。

 危険を伴うならば、置いていくことが最良の選択で間違いないはずだ。

 ただ、この不可解な事象……肉片であったり、最短ルートで探索している自分たちよりも先に到着していたりと、無視できない点が多すぎるのだ。


 男が目覚めたのは、月明かりが窓から差し込み始めた頃だった。


「あら、お目覚めかしら?」

 口火を切ったのはレシーリアだ。

 後ろ手に縛られた男に対し、主導権は自分たちにあると教えているのだ。

 優位性を最初に示すことにより、お互いの立場を自覚させるのは交渉の基本である。


「ふん……」

 男が睨むようにして、三人に視線を移していく。

 血のように沈んだ色の赤い髪、切れ長の黒い目、体型は細身で身長は百八十センチくらいだろうか。

 ファルシオンに真っ黒なハードレザーアーマーを装備している辺り、ならず者(ローグ)だろう。


「いくつか質問があるわ。答えによっては解放してあげる」

「答え?」

 あなた次第ってことよ……と、レシーリアがショートソードに手をかける。

 レシーリアとしては、あまりこういったシーンをユーンに見せたくないが、今はパーティの安全を確保することこそが最優先なのだ。


「あなたは誰? ひとり?」

 男が体を起こし、壁に背をあずける。

「アトムスクだ。一人でいたということは、一人なのだろう」

「変な答えね。どうやって、ここまで来たのかしら?」

「さぁな。記憶にない……というか、記憶がない。気がつけば、今の状況になっていた」

 たしかに自分たちも気がつけばこの街にいたのだから、この説明を安易に否定することはできない。


「ここに来る前は、何をしていたのかしら? まさか街にいたなんて言わないわよね?」

 しかし、男は肩をすくめる。

「わからない。ただ、アトムスクという名前だけは覚えている」

 記憶の喪失……もっとも厄介な答えだ。

 嘘を見破る女神でも信仰していない限り、記憶喪失という嘘を看破することは難しい。


「狼の死体について、とか聞いてもわからない?」

 今度は、しばし一考する。

 どうやら、思い当たるフシがあるようだ。

「ラダーという邪悪な生き物を狩る猟犬……我々の味方だという記憶がある。なぜだかは俺にもわからない」

「……ラダー?」

 レシーリアとリアが顔を見合わせる。


 たしか青い竜が、自分たちのことを『ラダーの戦士』と呼んでいた。

 この男の話と合わせて考えると、ラダーという生き物がいて、それが自分たちと深く関係しているということになる。


 黒の巨狼(ブラドゥ)の話によれば、彼と狼たちは災い(イーヴォル)という存在によって呪いをかけられていた。

 呪いの内容はわからないが、そのひとつにルナールを襲うというものがあったように見受けられる。


 つまり『ルナール=ラダー』と推測してもいいだろう。


 この都市を守る青い竜は、ラダーの味方だと思われる。なぜなら、自分たちを見逃してくれた理由が『ラダーの戦士』だからだ。

 さらには北の塔にいる翁に、白の獣神と合流して会いに行けと指示までしている。

 ということは、ルナール=ラダー、北の塔の翁、白の獣神、青い竜は、この都市において重要な役割を持っており、今のところは味方だと考えていいだろう。


 そうなってくると、ラダーを邪悪な存在とし、それを狩る猟犬を味方だと言ってのけるこの男を信用していいのか。

 この男もまた黒の巨狼(ブラドゥ)のように、災い(イーヴォル)の呪いでも受けているのかもしれない。

 いずれにしろ、危険な存在だ。


「どう思う、リア」

 レシーリアが、リアのそばまで近づき耳打ちをする。

「危険だ。オレ個人の考えなら、このまま拘束しておくな。何なら安全が確証できるまで、足の腱でも切っておきたいぐらいだ」

 実のところ、レシーリアも全くもって同感だった。

 しかし心優しいユーンの前で、その行動は取れそうにない。

 リアも、それを察していた。

「私は正直、迷ってる。今はまだ、目の届くところに置いておいた方が安全かしら」

 リアが、ふむと考える素振りを見せる。

 やがてレシーリアの目を見つめて頷いた。

「そうだな。しばらくは、拘束したまま連れて行こう」

 二人はそう決断すると、アトムスクの方に視線を移もどす。

「悪いが、まだアンタを信用できない。しばらくは、拘束したまま上を目指す。食料はないが、水は少しならわけてやろう。最悪外に出れば水路はあるから、状況によっては解放をしてやる。それで、構わないよな?」

 リアがそう質問すると、アトムスクは黙って頷いた。

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