災いの痕跡(4)
「生き物の気配がないな……それから汚れも。外の建物と同じで、やっぱり作られたばかりのように見える」
「このまま何も無いなんて嫌よ、あたしは」
レシーリアが、塔に向かっている時から思っていたことを、遂に口に出して言ってしまう。
これなら定番の古代遺跡『レジアン』にでも行ったほうが良かったのではと、否定的な考えが脳裏によぎる。
「今は脱出方法を探すことが先決だが……なにか、戦利品はほしいよな。ユーンは金になる物がいいんだよな?」
「はい。たくさん欲しいです」
思わずリアが吹き出す。
レシーリアが言えば俗物臭がプンプンするのだが、ユーンが言ってもそうは感じないのだから面白いものだ。
使い先が、孤児院の建設だと知っていることも大きいだろう。
「レシーリアは?」
「そりゃあ……売ったら金になる物か、冒険で役立つマジックアイテムに決まってんじゃない。まぁ〜あたしの場合は、ユーンみたいな目標とかないからね~」
「わ、わたしも最近やっと目標ができたばかりですから……」
手をパタパタと振るユーンに、レシーリアが肩をすくめて笑う。
「ん~それでも立派よ。ただ楽しく生きるだけのあたしなんて、ねぇ」
「冒険者なんてそんなもんだろ。富や名声、武者修行、奇跡の探究……そういった目標を持つ者もいれば、ただなんとなくやってる奴もいるしな」
「でも、あんたは金にも困ってないでしょ? なんか欲しい物でもあんの?」
うーんと天井を見上げるようにし、やがて何かを思いついたように、あぁ…と答えた。
「なんか、特別な感じの指輪がほしいな。だめなら、ネックレスでもいいけど……他はいらないから、皆にまわすよ」
“指輪”という言葉に、ユーンがピーンっと察する。
そして、本当にわかりやすい人なんだなぁ……と思わず顔がほころんでしまう。
「そうですか、やっと覚悟を決めたんですね」
「なにが……?……あっ……あぁ〜、そういうこと。あんたら、やっと進展すんのね」
「……えぇっと、お二方……俺は何も言ってないはずなんだが?」
「絶望的に鈍感ね、あんた。んなもん、理解るに決まってんでしょうが」
「そうですよ。ハーミアが、あんなにもわかりやすくサインを出しくれてるのに、リアさんは鈍感すぎです。気づいていないのはリアさんだけで……あっ……カーリャもだけど……」
「……あの……お二方……なんで、そんなこと理解るんだ?」
全く理解できないでいるリアに、レシーリアが大きなため息を返す。
これほど凄腕の冒険者でも、人の気持ちには疎いものなのだろうか。
いや……カーリャの鈍さも考えると、剣士にはそういった類の人種が多いのかもしれない。
「あたしとしては、もう少し楽しんでいたかったんだけどね〜。で、結婚するの?」
脳裏に、前のパーティで解散した時の出来事がよぎる。
またしても仲間の結婚引退により、解散の危機になるのでは……と。
「いや、まだそこまで……と言うか、そもそも俺がまだ、はっきりと気持ちを示していないし」
「……マジで呆れたわ、あんた」
ユーンも、うんうんと大きく頷いて同意する。
「うるさいな……こういうの苦手なんだよ」
「それにしたって、ハーミアがあんなに頑張ってるんですから、リアさんはもう少ししっかりしなくちゃ駄目です。早めに返事をするべきです」
ユーンがすまし顔で指を立ててクルクルと回す。
その仕草があまりに可愛らしく、レシーリアがたまらず吹き出した。
「あはは、恋路に関してはユーンのほうが先輩ね。んで……もし結婚したらどうするつもり?」
「あ……あぁ、引退かどうかってことだよな。少なくともハーミアは、宿願を達成するまでは冒険をするらしい。俺も今のところは、引退は考えてないかな」
「そう。それを聞いて安心したわ……って……あれ?」
突然レシーリアが、眉をひそめて足を止める。
「どうしたんですか?」
ユーンの声にも無言で返し、周りの気配を探る。
「リア……」
片腕の剣士も異変に気付いている様子だった。
「……あぁ……血の臭いだな」
青い竜以外に生き物の気配すらない都市で、いきなり血の臭いかよ……と、突然の不穏な空気に警戒心が否が応でも高まっていく。
「この先だな……」
自然とリアが前に出る。
姿勢を落とし薄暗い廊下をゆっくりと進む。
血の臭いのもとは、すぐに姿を現した。




