災いの痕跡(3)
リア、レシーリア、ユーンの三人は、白亜の都市の北側に位置する塔まで歩を進めていた。
リアになついていたはずのルナールは、なぜか別れ際でルーの方に鞍替えをしてしまいこの場にはいない。
空には再び白い月が姿を現していた。
時折、例の青い竜が頭上を通り過ぎていく。
青い竜はこちらを確認しても何も手出しをせず、都市を守るべく昼夜問わず飛び続けていた。
道中は人の住んでいない建物ばかりで、ためしにいくつかの建物の中に入ってみたが、特筆すべきものはなかった。どれも荒らされた様子がなく、むしろ生活感のない真新しい建物ばかりだ。
白亜の都市はドームを中心に、そういった無人の建物で囲まれている。
さらにドームからは放射状に広い道と水路が伸びていて、とても計画的に整理された街だった。
サイによると水路の水も問題なく飲めるようで、住んでいる人もいないのに都市として機能していることが逆に不気味に感じられた。
「白い月の周期に真っ白な都市……あの月と、この白亜の都市は何か因縁があるのかな」
これから登ることになる真っ白な塔を前に、リアが呟いた。
こうして見上げていると背後に見える白い月までもが、この白亜の都市のためにあるのではないかと考えてしまう。
それほどに“白”が美しい街だった。
「無垢と再生……ねぇ……どうせなら、金の月に現れてほしいものだったわよ」
「験担ぎか……ははっ、違いないな」
「……あの……やっぱり月の周期は、冒険に関係してくるのですか?」
ユーンの素朴な疑問に、リアとレシーリアが顔を見合わせる。
そしてお互い冒険者としての、これまでの知識に照らし合わせていく。
「まぁ、ふつう……お宝目当てなら、金の月に行くものよ。実際関係してるかって言うと……」
「……そうだな。俺の経験の中では……だけど、少なからず関係してると思う」
「そうね。赤い月の周期は 相手も凶暴だし、青い月の周期は、不運な事故が起こりやすいわ」
ただし、比較的ね……と付け加える。
「あまり気にしてても仕方ないけどな。冒険なんてタイミングで行うものだし、往々にして月の周期なんて選んではられないものさ」
「そうそう。あんまり気にしていると“運命が月に引き寄せられる”って昔から言うでしょ? そんなもん、金の月の時だけ引き寄せられてりゃいいのよ。かく言うあたしは、フォーチュンテラーの良い話だけを信じる派よ」
きっぱりと言いのけるレシーリアの潔さに、ユーンがくすくすと笑う。
「さて……すっかり夜になったけど……どうするのかしら?」
「俺はまだ余裕があるから、少し探索をしたいかな。とりあえず、塔の中で安全な場所を確保したい。もちろん、ユーンが大丈夫ならだけど」
ユーンが、大丈夫ですと頷く。
それを確認するとレシーリアも頷き、手早く塔の扉を調べはじめた。
……まぁこんな入口の大扉に、罠を仕掛けるような奴はいないけど……念には念を入れるべきよね……
手慣れた動きで、考えられる罠を探っていく。
「うん、大丈夫ね」
鉄製の大扉は罠は、疎か鍵もかかかっておらず、強く押せばあっさりと開いてしまった。
ご丁寧なことに軽量化の魔法が 付与定着されているのだろう。
中は真っ直ぐに廊下が伸びていて、両側に一定の間隔で扉がある。
見た感じは住み心地の良さそうな居住区だ。
そして、どういうわけか薄明るい。
「なんか……天井が光ってるわね」
ユーンも、恐る恐る中を覗き込む。
「すごい……本を読めるほど明るいってわけじゃないけど……でも、廊下を歩く分には便利ですね」
「あぁ、これではっきりしたな。これは古代文明の技術だろう。光る石は、他の遺跡でも見たことがある」
「はっ、今さら何言ってんのよ。そもそも街丸ごと突然現れて、空まで飛んでるって時点でそっち系でしょ」
レシーリアが呆れたように言うと、愛用のダガーを抜いて奥に進み始めた。
リアはユーンに道を譲ると、後方を警戒するようにしながら扉を閉める。
塔は思っていたよりも入り組んでいて、マッピングをしながらの探索となった。
マッパー役はユーンである。
暗い中での不慣れな作業ではあるが、レシーリアは先頭で罠や敵の警戒を行いながら進んでいて、リアは後方を守っているのだから当然の役回りだろう。
むしろ、この二人に前後を守ってもらえていることの安心感はかなり大きい。
いくつかの扉を開いてみるが、人が住んでいた形跡が全く無い。
どこもかしこも、がらんどうの空き部屋ばかりだ。
多すぎる部屋数を考慮すれば、探索時間が短縮できていいのだが……このままこれが上まで続いたらと思うと、冒険者としては虚しくなる。
せっかくの手付かずの遺跡なんだから、せめて金目のものがほしいと考えるのは、いたって当然というものだろう。




