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満月のハナシ  作者: Ni:
白い月 さまよえる白亜の都市

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王の咆哮(6)

 その光景は壮絶であり、理解に苦しむ結果だった。

 片腕の剣士が数匹の狼に囲まれ、馬よりも大きな巨狼に襲われ、愛刀のユングを宙に投げ……そんな圧倒的に不利な状況から嵐のような戦い方で狼を殲滅し、巨狼を斬り崩したのだ。


 ハーミアはリードを失いそうになった恐怖と、何とか生き残ったことに対する安堵感で、感情が激しく入り乱れてしまい言葉を発せられずにいた。口元を抑える手は、いまだに大きく震えている。

 やがてリードが生きていると改めて認識できた瞬間に、大粒の涙をぼろぼろとこぼし始めてしまう。

「はっ……ほんと、どこまでも底がない奴ね、あいつは」

 突然の背後からの声に驚いて振り向く。

 そこにはいつの間にか、見下ろすようにしてレシーリアが立っていた。

「シェイプチェンジャーの中に、ああいうのがたまにいるのは聞いていたけど……それを剣術に織り交ぜるとか……本当に、あとどれくらい秘密を持ってるのかしらね」

 油断なく弓に矢をかけたまま、いまだに呆然としているハーミアに目をやる。

「あんたも、とんでもない奴に惚れたものね。いや“惚れられた”だったかしら?」

 クスクスと悪戯っぽく笑いながら、ハーミアにしっかりなさいと続けた。

「ほら、終わったみたいよ。あんたのナイト様を迎えに行きましょ」

 レシーリアは弓から矢を外すと、リアの方に手を挙げた。

 リアはリアで、よりにもよってレシーリアに見られたか……と露骨に嫌そうな表情を浮かべている。


「そっちに行くから、待っててくれ」

 言いながら草むらからひょいと何かを拾い上げ、抱えるようにして丘を登ってくる。

 ほどなくして岩陰にたどり着くと、抱えていたものをレシーリアに渡した。

「あによこれ。狐……でもないわね。気を失ってるの?」

 それは見たことのない小動物だ。

 狐のように耳は尖っているが、体の形や大きさはイタチに近いようだ。金色のふわふわした毛並みがなんともかわいらしい。

「そいつが襲われていた。たぶん体力を使い切って昏倒したんだろう。見たことのない動物だけど、あの数の狼を相手に傷一つ負わないってのは異常だな」

 言いながら座り込む。


 ハーミアは涙を拭うと、何も言わずに治癒魔法をかけはじめる。小さく礼を言われるが、それには首を横に振ってこたえて見せていた。そして治癒魔法を終えると、持っていた水袋の水を小さな布に含ませて、リアの身体についている返り血を丁寧に拭い始めた。

 リアは驚いて断ろうとするが、目の周りが真っ赤に腫れている彼女を見ていると何も言えなくなり、結局黙って受け入れることにする。


「で、こいつどうすんの?」

 一瞬考える素振りを見せるが、やがて困ったように肩をすくめた。

「どうするも何もな。とりあえず、目を覚ますまでは見てやろうぜ」

 レシーリアは「お人好しなのね」と冷めた口調で返すと、ついで覗き込むようにしてリアの顔をまじまじと見入る。

 獣化すると毛が生え変わってしまうというのは本当らしい。

 黒髪のリアしか知らない自分には、少し新鮮な印象だ。

「それが噂の銀髪ね。逆に獣化したことがバレバレじゃない。もう銀髪のままでいたら?」

 ニヤニヤと笑うのは、少し馬鹿にしているのだろう。

「まったくだな。恥ずかしいから、もうこのままでいるか……」

 割と本気で言っているのが伝わったのか、レシーリアもそれには賛同していた。


「さっきのは……カーリャたちには言わないでくれよ。本当に、奥の手中の奥の手なんだ。それにカーリャには必要のない剣術だしな」

 わぁってるわよと手をひらひらとさせるレシーリアに対し、頼むぞと念を押す。

「んじゃぁ、私は上に戻るわ。あんまり待たせると、ユーンが不安がるしね。あんた達は休んでからでいいわよ」

 そう言って小動物の首の後ろを掴んだまま、レシーリアは丘を登り始めた。

 リアはレシーリアが一体どの段階で目を覚ましたのか気になったが、聞いたところでまともに答えてはくれないだろうと思いその質問は飲み込んだ。本当に底が知れない女だ。

 それから、しばらく重い沈黙が続いた。


「ありがとう。もう大丈夫だよ」

 あらかた汚れも落とせたこともあり、一心不乱に血を拭ってくれていたハーミアの手を握って止める。

 そこで我に返ったかのようにハーミアが顔を上げ、リアの眼を静かに見つめた。

「あれほど、無茶はしないでと……」

 絞り出すようにして声を出すが、わずかにかすれてしまう。

「俺は剣士だから。ある程度、無茶をするのも仕事だよ」

 しかしハーミアは頭を小さく横にふって否定する。

「そうだな……ごめん」

 目を閉じ小さく頭を下げたが、ハーミアは何も答えず視線を落としてしまう。

 リアはハーミアが今何を考えているの理解できず、掛ける言葉も見つけられずにいた。

 握る手を放し、彼女の細い肩に手を置こうとする……が、そこでその動きをとめてしまう。

 視線の先にある自分とハーミアの影を、まるで飲み込むかのように大きな影が伸びてきたのだ。

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