王の咆哮(3)
今年最後の更新になります。
皆様、良いお年を。
「な……な、な、な、な、なにしてるの、レシーリアっ!」
カーリャが顔を真っ赤にして抗議するが、レシーリアは挑発するかのように唇をふさぎ続ける。
「ちょっ、ちょっと、レシーリアっ!」
カーリャが、たまらずレシーリアの腰のベルトを引っ張る。
そこでようやくレシーリアが、リアの唇を解放した。
驚き声を失っている一行に対し、レシーリアはさして気にする様子もなく、四つん這いのままでカーリャに顔だけを向ける。
「あたしはね、借りは作らない主義なの。この剣は有難くもらうわ。でも、タダでもらうのは性に合わないからね?」
「い……いやいやいやいやいや、でもそれでキスとか意味わかんないしっ! しかも……くっ……口にとか……ぜんっぜん、意味わかんないしっ!」
「頬じゃただの挨拶じゃない。子供じゃないんだから。それに私のキスは、そんなに安くないのよ? いくらお金を積まれてもしないもの」
「でも、だって……私だってリアさんにもらってるのに……」
レシーリアはぶつぶつと呟くカーリャを気にも留めず、固まったままのリアの耳元で「ありがと」とだけ付け加えて、もといた場所に戻った。
カーリャは、リアからもらったフラッシュに視線を落とし、無意識に右手で自分の唇に触れる。
「だ、駄目ですよ、カーリャ! リアさんも、しっかりしてください!」
ハーミアの言葉でやっとリアも我に返り、あぁと気の抜けた返事をする。
レシーリアはその様子を、ニヤニヤと楽しむようにして眺めていた。
「あのぅ…」
凍りついた場の空気を溶かすように、ユーンが控えめに手を挙げる。
「このタイミングでってのも変なのかもしれないけど……私も、みんなに渡したいものがあって」
ユーンが話しながら、小さい手の平を開けてみせた。
それは色とりどりの刺繍糸で編み込まれた、プロミスリングのようだった。
「初めてみんな揃っての冒険だし……全員で無事に帰りたいから、お守りを作ってきたの。でもせっかくだから、ただのお守りにしたくなくて……その……イセリアに手伝ってもらって、精霊の加護があるお守りにしてみたんだけど」
不安げに手を差し出すユーンに、レシーリアは少し胸が熱くなっていた。
これが、あの船の上で震えているだけの娘なのかと思ってしまう。
やがて一人ずつそれを手に取り、丁寧に編み込まれたプロミスリングを、思い思いに眺め始めた。
「あの、どうかな?」
「あ……嬉しすぎて、なんか……ありがとう、ユーン」
カーリャが胸を詰まらせながら言うと、次々に御礼の言葉が帰ってきた。
「すごいな。本当に精霊が宿っている。どうやってつくるんだ、こんなもの」
精霊魔法について知識のあるサイでも知らない技術だった。
「まるで古代の失われた月魔法の付与定着みたいだね~。こんな技術、学院でも知られてないよ」
「イセリアの……人魚族の技術みたい、かな。精霊の加護については、ほとんどイセリアにやってもらったんだけど。みなさんと、相性の良さそうな精霊が宿ってるんですよ」
「世の中に知られていない精霊のエンチャント、ねぇ。これって、コモンマジック以上の金額で売れそうじゃない?」
「だめだよ、レシーリア。僕も学院所属の立場としては、ぜひ学院に来て教えてほしいけど……イセリアさんは、特別だもん。このまま、静かに暮らしてほしいよ」
「私もローグさんに、私とイセリアとで組んで商売にしないかって言われたけど……私……私のやりたいことのためには、たくさんのお金が必要だけど、それは冒険で稼ぎ出そうと決めたから」
「たしか孤児院……だっけ?」
レシーリアの問に、ユーンが小さく頷く。
あの臆病だった娘が、随分と冒険者らしくなったものだ。
レシーリアはふーんと返事をしながらそれを握り、黙ってユーンの前まで近づく。
「わっ、私は、キスはいいですから」
慌てて手をパタパタとするユーンに、少しつまらなそうな素振りを見せながらも笑顔を溢す。
「じゃあ、ユーンのを貸して? あたしが結んであげるわ」
そう言って、ユーンの細い手首にプロミスリングを結ぶ。
ユーンはお礼を言うと、今度はレシーリアに結んであげた。
他のみんなもそれに習うように、ハーミアはリアに、ルーはカーリャとサイに声をかけ結び合う。
レシーリアはその光景を見ながら、これまでに経験したことのない確かな情動を噛みしめていた。
カーリャ……これがあなたのパーティよ。
私やリアでは決して作れない……あなたの……
それはレシーリアにとって胸を締め付けるほどに愛おしく、あたたかなものだった。




