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満月のハナシ  作者: Ni:
青い月 集結

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集結(2)

 夕刻の港町は、昼間とは違った陽気な賑やかさを見せ始める。

 仕事を終えた者や観光で訪れた者、冒険者を含めれば相当な数の人間が、夕食と酒を求めて酒場に殺到するのだ。

 とくに港の近くにはそういった店が多く、眠りにつかない通りとしても有名だ。

 夜道ですら建物からこぼれる光で明るいのだから、ここだけは王都に負けないほど活気があるといっても差し支えはないだろう。


 もちろん、ブラン卿の住む貴族区は静かなもので、港に近づくほど喧噪は大きくなっていく。

 ハーミアは次第に大きくなっていく酒場の音を聞きながら、少し前までの自分を思い出していた。

 ブラン卿にお世話になってから、この道を何度となく往復している。

 理由は簡単で、夕方になると『碧の月亭』に皆で集まることになっていたからだ。

 レーナの治安はいい方だが、それでも日が暮れたあとの一人歩きは危険なものだ。

 だからいつもフードを深く被り、できるだけ目立たないようにして足早に移動していた。

 そもそも酒場通りにある『碧の月亭』は酔っ払いも多く、帰り道に至っては生きた心地がしなかったことを覚えている。

 レシーリアのように強い女性であれば何の問題もなく帰ってしまうのだろうけれど、ハーミアにはこの往路は不安しかなかった。

 でも、今は違った。

 フードはかぶっていないし、足早というわけでもない。

 毎日、暗く沈んだ気持ちでいたあの頃と比べると、この状況が本当に不思議に思えた。


 何気なく、横に並んで歩く黒髪の男へと視線を向ける。

 片腕の剣士は、いつも通り飄々とした表情を見せていた。

 しかしその存在は、絶対的な安心感を与えてくれる。

 リードがブラン卿邸に戻ってきてからというもの、特に夜間の外出では必ず自分の左側に彼の姿があった。

 こうもわかりやすく守ってくれていて、それからあの白い月での出来事もあって……女性なら気持ちが揺らぐのは当たり前だ。

 加えて過去にも色々とあったのだ。

 実際、あれから彼を強く意識をしている自分がいるし、それこそ意識をするなという方が無理な話だった。

 そこには守ってくれていることに対する感謝の気持ちだけでなく、好意の感情も確かにあるのだ。

 ただ、なぜか白い月以降の彼は、煮え切らない態度を取っている。

 エヴェやスレイブと対峙した時の積極的な言動はすっかり影を潜めていて、あれ以上踏み込んでこない。

 彼の気持ちはしっかりと伝わってきてはいるのだけれども……今の彼は、この飄々とした表情で一定の距離を保ったままなのだ。

 いまだに左手を失った時のことや、もと婚約者だったことを話してくれない。


「どうした?」

 ハーミアの視線に気づいたリードが、声をかけてくる。

 深い黒の瞳に吸い込まれそうな感覚に陥り、思わず視線をそらす。

「あの……リード……もうそろそろ、隠し事はなくしていってもいい頃だと思うんですが……」

 リードが頭をかく。

 彼が答えに困ったときによくやる、いつもの癖だ。

「そうだよな。レシーリアには見抜かれてそうだけど。俺がシェイプチェンジャーだってこと……言ったほうがいいよな」

 そしていつも通り、察しが悪い。

 普段は妙に鋭いくせに、こういったことには本当に疎い男なのだ。

「知りません」

 すねた口調でぷいと横を向く。

「レシーリアが前にいたパーティは目立った功績こそないんだけど、十分手練れの冒険者だったみたいだ。中堅だとか、少し見くびっていたな」

 もはや、この察しの悪さも彼の魅力だと感じ始めている自分が可笑しい。

 小さくため息をすると、仕方なく彼の話に合わせることにする。

「前にも話しましたが、彼女は私の事についてほとんど知っています。それから、リードがシェイプチェンジャーだってことも、たぶん見当をつけていると思いますよ」

「そうか。まぁ、話せることは話すつもりだよ」

「わたしも、いい機会ですので……みなには色々と話すつもりです」

 リードが驚いた表情を見せる。

「話すって……どこまで?」

「少なくとも私がシェイプチェンジャーで、プラティーン信仰であること。リードとは幼馴染だったこと。それから、私の宿願も……」

「そうか。でも宿願については、話さないでもいいんじゃないか。誰しも冒険の目的はあるし、それを話したくない人もいるだろう。無理に明かす必要は、ないと思うよ」

 言われてみれば、たしかにそうだった。

 人間になりたいという願望は、わざわざ話すこともないのかもしれない。


 それに今は……それも、変わりつつあるのだ。


 黙ったままうなずくと、彼の右手が視界を横切る。

 そしていつものように頭に手をおき、優しくなでる。

「自分のペースでいいんだよ。無理せずに、な」

 その行動がとても優しい安心感をくれることに、彼は気づいていないのだろう。

 気がつけば自分も、かつてのように“子ども扱いをしないで”とは言わなくなっていた。

 その心地よさを、少しの間だけ独り占めしたいとさえ思えていた。

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