集結(1)
青い月の周期も終わりに差し掛かろうとする頃、港町レーナには、ようやくもどったレシーリアとカーリャの姿があった。
二人は結果的に結婚を阻止できたため、アイナから馬を二頭と幾らかの路銀を頂戴していた。
そのおかげで、予定より早く帰ってこれたのだ。
依頼としては失敗に終わったが結果としては上々だと、レシーリアも頗る上機嫌だった。
三か月半ぶりの帰還は感慨深いものだった。
カーリャの目からは、街の風景が違って見えるほどだ。
もちろん、町並みが変わったわけではない。
剣士として得難い経験をしたことが、彼女の心も成長させたのだろう。
二人は町の入り口近くにある貸厩舎に馬を預け、『碧の月亭』に向かうことにする。
「みんな元気かな。ユーン達は大丈夫だったかな」
自然と足早になっているカーリャに、レシーリアも歩幅を合わせる。
久しぶりの仲間たちとの再会に、高揚しているのだろう。
「あんた、そればっかりよ」
感情を隠すことなく笑顔をこぼす、愛らしいリーダー様に苦笑する。
「リアさんも、いるのかな」
あぁ……と、レシーリアは何となくハーミアの顔を思い浮かべた。
あの二人は、何か訳ありな関係のようだった。
船上で、リアは明らかにハーミアを意識していた。
ザナと対面した後のハーミアもまた、リアを意識していた。
そして何より、二人は同じシェイプチェンジャーだ。きっと何か、つながりがあるのだろう。
この愛らしいリーダー様は、師と仰ぐリアに対して『憧れ以上』の感情を持ってそうだが……まぁ、これはほっておこう。
自分は色恋沙汰に首を突っ込むほど、野暮ではない。
それよりも、このパーティにリアが加われば、いよいよ本格的に遺跡の探索もできるだろう。
本格的な冒険が、ようやく始まるのだ。
「こういう時に、サークがいれば楽よねぇ。リファニーを介せば、簡単に情報のやり取りができるし」
う〜んと考えるような素振りをして、カーリャがつぶやく。
「レシーリア、それってかなり凄いこと?」
「凄いことよ。だから誰にも言っちゃダメよ?」
情報のやり取り自体は高価な古代文明の魔道具でもできるし、何なら転移の月魔法を使えばいいのだが、会話の必要もなく、意識の中だけで情報の伝達ができるサークたちは異質な存在だ。
そもそも常に五感を共有できるサークたちの方が、より明確で正確な情報を伝えられる。
何より魔力を一切消費しないのだから、月魔法の理から外れた力と言えよう。
このことを公にしてはいけないと直感したレシーリアは、すぐにリファニーのもとへ訪ねた。
そして、こう告げたのだ。
王都の月魔術師ギルドに行くのはよせ、と。
二人の状況を相談するのは、相当信頼のおける人物にするべきだ。
この二人の力は、大きな戦争で勝敗が覆るほどの影響力がある。
そうなると、王国からも目をつけられることになるだろう。下手をすれば機密事項として、永久に幽閉されることも考えられる。
いずれにしても、今後まともな人生がおくれないのは明白だ。
二人には、そんな人生は送ってほしくなかった。袖すり合うも他生の縁というやつだ。
関わってしまった以上、二人には不幸になってほしくないと考えるのは自然なことだった。
「サイ!」
カーリャの声に、考えに耽っていたレシーリアが我に返って頭を上げる。
視線の先には『碧の月亭』から、ちょうど出てきたサイの姿があった。
いつの間にか、ついてしまったらしい。
「よう、帰ってきたのか」
「や、チェリー、元気にしてた?」
「一言目がそれかよ……」
相変わらずのレシーリアに、げんなりした顔を見せる。
「なに、チェリーって?」
顔を赤くするサイに対し、悪意のない一撃がとどめを刺す。
さすがは、我らが天然ボケのリーダー様だ。
「あんたは知らないでいいの。で、みんなはいるのかしら?」
不満げに口を尖らせるカーリャを無視し、サイに状況も説明を求める。
「あぁ。昼間はユーンがオヤジさんの手伝いでここにいるが、他はいないな。何なら、夕方集まるように声かけてくるが?」
「助かるわ。で……リアもいるのよね?」
サイが、あからさまに眉を寄せる。
「何で知ってるんだ? 相変わらずの情報網だな。あいつは今ブラン卿邸にもどっているから、ハーミアも一緒に声をかけてこよう。二人は夕方まで休んでてくれ」
朴念仁のくせに、なかなかどうして気の利いたことを言う。
ここは、サイの厚意に甘えるべきだろう。
レシーリアは素直に感謝の言葉を述べると、カーリャを連れて『碧の月亭』に入っていった。
オヤジに依頼の結果報告を手早く済ませ、そのまま二階の部屋を借りる。
長旅の疲れもあったのだろう。
部屋に入ってから眠りにつくまでは、あっという間だった。




