雲耀の太刀(5)
カーリャが目を覚ましたのは次の日の朝だった。
神聖魔法による治療を受けた後、アイナの家のベッドで寝かされていたらしい。
なんとか体を起こそうとするが、体中が痛く寝返りすらうてなかった。
「私……負けたのかなぁ」
考えるまでもなかった。この傷で勝っているわけがない。
サラスは強かった。
リアの研ぎ澄まされたエッジの様な強さとは違う。
常に自分のリズムで戦っていた。
「盛大に負けちゃったなぁ」
リアに負けた時ほどの清々しさはないが、納得のいく負けだった。
とりあえず痛む体を無理矢理に起こす。
「あら、気が付いたの?」
いつからいたのか出窓に片膝をたてて座っていたレシーリアが、持っていたパンを投げてよこす。
反射的に取ろうとするが腕に痛みが走り、取り損ねたパンが腿の上に転がった。
「レシーリア、わたし負けちゃった」
視線をパンのほうに落としたまま呟く。
「まぁ、相手はあのサラスだしね」
「そういえば、レシーリアはサラスさんだとわかってたの?」
「まぁ〜ね〜」
レシーリアは少しばつが悪そうに答える。
「昔、酒場で口説かれたことがあるわ。思いっきり断ったけど。そん時にサラスって名乗っていたのよ、あのまんまの顔と訛りでね。あの時は、まさか本物だとは思わなかったけど……ちょっと待ってて、気がついたら呼べって言われてるから」
レシーリアはそこまで説明すると部屋から出て行った。
しばらくしてサラスが一人で入ってくる。
「よう、気ぃついたんか?」
「サラス……さん!?」
カーリャはサラスの姿を見て、驚きの余りに思わず声を上げてしまう。
「ど、どうしたんですかっ!? その怪我っ!」
そこには包帯に松葉杖をついた、明らかに重傷のサラスが立っていた。
「……お前、体重何キロや?」
「へ?」
「重うて支えきられへんかったわ。俺まで一緒に落ちてしもうた」
カーリャの思考が一瞬停止し、目をしばたたかせる。
「し、失礼ね! そんなに重くないもん! たぶん!」
「おかげで俺も重傷……試合続行不可能でドローや。一銭の儲けにもならんかったわ」
やれやれと首を傾げながら、両手をあげて肩をすくませる。
「え? ドローなの?」
「そうや。縁談の話もドロー、すなわち無効や。依頼の結果だけ見れば、ある意味、お前の勝ちやな」
「サラスさん……まさか、わざと落ちたんじゃ………?」
「ほんまにそうやったら、かっこええねんけどな」
かっかっかっと笑うサラスにつられて、思わずカーリャも笑顔を見せる。
照れながら笑うサラスを見れば、それが嘘か本当かすぐにわかることだった。
「ねぇ、サラスさん」
「んあぁ、サラスでええで?」
「じゃあ、サラス……これって、リアさんからの依頼なの? リアさんは生きてるの?」
サラスは一瞬こたえを躊躇するが、やがて頭を掻きながら頷いた。
「リアはな、もうレーナにおるよ。まだ完治ってわけやないけど、この代理決闘もな、リア本人から依頼されたんや。あぁ……あとリアには、このことは内緒にしといてくれへんか。ドローなんか、かっこ悪い話やしな」
わざと落ちたくせにと思いながらも、小さく頷く。
本当にいい人のようだ。
「じゃあ……リアさんと会えるのかな?」
「あぁ、もう待っとるはずやで。はよ帰ったりや」
サラスが苦笑して部屋から出ていく。
カーリャは高鳴る鼓動を抑えるように、胸に手を置いた。
それでも嬉しさのあまりに、こぼれる笑みは抑えられなかった。




