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満月のハナシ  作者: Ni:
金の月 精霊の舞う丘

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42/110

再会と流転(3)

切りが悪いので連続更新です。

 片腕の剣士が、ヨグに向けて鋭い眼光を飛ばす。

「テルミヌス・エストで浄化される魂を、吸い取るつもりだったのか? この時期に『魂食い』が学院から盗まれたと聞いて、ぴんときたよ。神聖なる精霊達の周期に……考えることが、一々姑息だな」

「リード……お前は、また僕の邪魔をするのか」

 ヨグが憎々しい表情を浮かべる。


「……リード?」

 唖然とするサイを後目に、リアとハーミアが馬からおりる。

「リードは……リアさんの本名です」

 ハーミアがサイの隣まで駆け寄ると、小声で説明をした。

「なんで、リアがここに?」

「えっと……それは、いろいろとあって……」

「話は後だ。今は手はず通りに」

 リアの言葉に、ハーミアが緊張した面持ちで頷く。


「ハーミア……」

 ヨグ=エヴェラードが、リアを睨みながら、ゆっくりと手を広げる。

 生まれながらの許嫁と、元婚約者が対峙する光景に、ハーミアには複雑な感情が芽生えていた。

「ハーミア……どうしてだ。どうして、婚約者の僕をさしおいて、そんな男に……」

「それは本当に、エヴェの言葉ですか?」

 もしかしたら、ヨグがエヴェのふりをしているのかもしれないと問いかけてみる。

 しかしその表情は、エヴェのもので間違いないように見受けられた。

 理屈ではない。

 一度は婚約者として想いを秘めた相手である。

 説明はできなくとも、確信めいたものを感じられた。

「エヴェ……待ってて。私が……いえ、私たちが必ず助けます」

「なにを言っているんだ、ハーミア。僕への愛は嘘だったのかい? 僕たちは、あんなにも愛しあったじゃないか」

 ハーミアが一度だけ、大きく息をのみ込んだ。

 そして、ちらりとリードの方に視線を送り、否定的に首を横に振る。


「なんだよ、それ……リード、今さら何しにきたんだよ。あの時の勝負を忘れたのか?」

「ふん。どうやら、本当にエヴェの意思もあるんだな。覚えてるさ。負けた覚えもないけどな」

「今さらハーミアを取り戻そうって言うのか?」

「……お前が手放しただけだろ」

 リアの語尾に怒りが灯り、覇気を帯びる。

 その目は獣のように鈍い光を放っていた。

 愕然とするのは演技なのかどうかわからないが、エヴェラードはがっくりと肩を落とす。

 ハーミアはそれに見向きもせずに、サイの耳元に唇を寄せる。

「ハーミア?」

 驚くサイに対し、返事の変わりに一度だけ頷く。

「サイ……1人で、ここに来たのですか? ユーンはどこですか?」

「……え? あぁ、そうだ。ユーンは、ライフ・ヒルに……」

「行ったのですね? では、行ってくれますか? ここは私たちが何とかします」

「しかし……」

「ユーンが心配です。お願いします。ここは大丈夫です。リアさんもいますから」

 たしかにハーミアの言う通り、ユーンのことも心配だ。

 サイは黙って頷き、槍を片手にライフ・ヒルへと駆け出した。



 静まるライフ・ヒルでは、静かに昇華が始まっていた。

 暗かったはずの景色が、光に包まれていく。

 草や木からまるで蛍のような光が、ひとつ、またひとつと生まれ始める。

 無数の光はゆらゆらと雪のように揺れながら、時を戻しているかのように空に向かって舞い上がっていった。

 やがて、それが生まれたばかりの精霊だとユーンも気付く。

 数えるほどしかなかった光の粒も、気がつけば避けられないほどの数になっていた。

「きれい……」

 ロイにもたれかかりながら、思わず溜め息をもらす。


 ……この精霊達は、どこから集まってきたのだろう……

 踊るようにして空に向かう精霊を眺めていると、不安も、恐怖も、悲しいことも、忘れられそうだった。


「ユーン……お別れだ」

 ユーンはもたれたまま、ロイの言葉に頷かないでいた。

 理解はできても……覚悟はしていても……やっぱり嫌だった。

 このままずっと、こうしていたかった。

 心の底からロイを好きになれたから……やっと夢を見つけられたから……


「元気でね……また会いたいな」

 果たして今、私は笑顔を見せているのだろうか。

 笑顔で見送りたいけど……けど……どうして……我慢できないよ……


「ユーン。泣きたいときは、泣いていいんだぞ」

 こくりと頷くが、ユーンはすぐに頭をぶんぶんと横に振る。

「ううん、大丈夫」

 彼のやさしい表情と悲しげな瞳が、ユーンの胸を締め付ける。

「じゃあな……“またな”じゃない……本当のさよならだ」

 ロイの体がふわりと浮いて光に包まれていく。

 最後に見せた笑顔からは、一筋の涙が流れていた。


 ……ロイが泣いていた……あの強いロイが……私のために泣いていた……


 ロイの涙が、ユーンの手の平に落ちてくる。

 不思議と、その涙の感触が広がる感じがした。


 ……そっか、泣いてよかったんだ……


 ロイの体が消え、小さな光になり、空へ舞い上がる。

 その時、ユーンは初めて気がついた。


 一緒にライフ・ヒルに来ていた人々の大半が、光となって舞い上がっていたことに──


 みんな涙を流して……でも笑顔で、さよならを告げていることに──


 舞い上がる幼い精霊達が、ロイ達の新たな姿であることに──


「ロイ……大丈夫……必ず会える。でも、まだだよ。私にはまだ、しなくてはならないことがあるから……繋げていかないといけないことができたから……やっと見つけたから………ロイのおかげだよ」

 ユーンはそこまで言って、力強い光を放つ無数の精霊達に別れを告げる。

「私、がんばる……ロイの分も……だから今だけ……泣いていいよね……?」

 そしてユーンもまた、他の残された人たちとともに、涙を流した。


 精霊達が集まる、光溢れる丘で──


 なにも我慢せず──抵抗もせず──


 だってロイが言っていたもの──泣きたいときは泣いていいって──


挿絵(By みてみん)




 どれくらいの時間がたったのだろう。

 ユーンは泣き疲れたのか、ぼんやりと夜空を眺めていた。

 光の精霊が織りなす柱は、この丘と空を支えるかのように伸び、金色の満月の光の中に消えていった。


 辺りはまた、いつもの闇……怖いはずの闇………


 それでも金色の満月が照らし出す光は、ユーンの恐怖心を和らいでくれた。

 それはきっと、あの月がロイと会わせてくれたからだろう。

「行っちまったのか?」

 いつの間にか、サイが横に立っていた。

 ユーンが落ち着くのを待っていたのだろうか。

 状況を把握できなそうな表情を見せるが、ユーンのことを気遣ってくれているのだろう。

 サイは、必要以上に話を聞こうとはしなかった。


「ユーン……悲いのか?」

 話し下手なサイが、言葉を探していた。

 それがなぜだか嬉しく感じる。

 ユーンは黙ったまま首を振る。

「ありがとう。でも、悲しいって感情だけで泣いてたわけじゃないんだ。ここにいる他のみんなも、そうだと思うの。うまくは言えないけど……」

 ユーンは思い切り泣いて、少し気が晴れた感じがした。

 やがて思いついたかのように、手に持つ一粒の黒い真珠をサイに見せる。

「黒い真珠……? いや違うな……これは、精霊が宿っているのか?」

「そう……生まれたばかりの精霊だよ。名前も、属性も……わからないけど、いつの間にか持っていたの……まだ契約はできなそう」

「そうか。じゃあ宝物だな」

「うん!」

 笑顔をみせる彼女の頬はまだ真っ赤に腫れていたが、その満たされた表情は満月の光よりも優しかった。

連続更新しましたので、来週はお休みとさせていただきます。


ちなみにタイトル付きも作りました。

挿絵(By みてみん)

イラストはロジーヌ氏。

自身でツイッターもされてます。気になる方はチェックを!

https://twitter.com/rosine753


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