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満月のハナシ  作者: Ni:
金の月 精霊の舞う丘

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再会と流転(1)

 レッチの村は小高い丘の途中にある、見晴らしのいい村だ。

 この村の名所といわれるライフ・ヒルは、景色が美しいことでも知られていた。

 サイとユーンの二人はレーナから一カ月ほどかけて、この村にやってきていた。

 酒樽を荷馬車に乗せて牽引牛で引っ張るという、なんともゆっくりとした旅だが、サイはのんびりと景色を見て楽しそうではある。

 酒樽は持って帰ることになっているため、祭が終わるまで滞在するしかなく拘束日数は長めだ。

 しかし安全な街道を進むだけなので依頼内容の難度自体は低く、銀貨五百枚と小遣い稼ぎにはいい額だった。


「はるばる、ありがとうよ。ほら、報酬の銀貨五百枚だ。酒樽は持って帰るんだろ? 二階に部屋をふたつ用意してあるから、祭が終わるまではそこを使うといい。まぁ、祭が始まればこの酒場もいっぱいになるから、うるさくて寝てられないだろうけどな」

 依頼主である酒場兼食堂『バンビ』の店主が、受取書に名前を書きながら豪快に笑う。ひげ面に肥満体型でドワーフのようだった。

「牛と荷馬車はどこに預ければいいんだ?」

「ん? ああ、それじゃぁ案内するよ。ついてきな」

「ああ……っと、ユーンは先に部屋に行ってくれ」

 ユーンはありがとうと礼を言い、渡された鍵に彫り込まれた番号の部屋に向かった。

 二階に上がるとすぐに部屋も見つかり、ユーンは少ない荷物とともに部屋に入る。

 部屋はそんなに広くはなかったが、手入れは行き届いていた。

 とりあえず荷物を部屋のはじに置いて窓を開ける。

 ふわりと入るさわやかな風が、部屋の中に停滞していた暖かい空気を連れ去っていく。

「ふぅ……」

 ボスンと音をたててベッドに座ると、そのまま後ろに倒れ横になる。

 天井をぼんやりと眺めながら暖かい日差しを体に受けていると、かるい睡魔に襲われ始めた。

 うとうとし始める意識のなか、頭を振って睡魔を払う。


 ……このお祭って、なんのためのお祭なんだろう……ライフ・ヒルにも行ってみたいなぁ……そこで何が見られるんだろう……どんな気持ちになれるだろう……みんなとパーティを組んでから、いくらかたつのに、まだある陰鬱としたこの気持ちは、いつになったら晴れてくれるのだろう……


 うつろな目をしたまま、顔を横に向ける。

 隣の部屋で物音がしていた。

 おそらく、サイが上がってきたのだろう。

 サイは口べただが、優しいハーフエルフだった。


 彼にロイのことを話せば、一緒に探してくれるのだろうか。

 ……ロイ……ロイが死ぬはずない……


 ユーンはその名を何度か呼んでいるうちに、そのまま眠ってしまった。



 それから数日は祭の準備などを手伝って過ごした。

 この祭のために、遠方から足を運ぶ者も多いようだ。

 金の満月の当日ともなると、村はにわかに活気があふれていた。

 次第に部外者のユーンとサイの仕事もなくなり、二人は気晴らしにライフ・ヒルまで足を伸ばしていた。

 村から少し離れた小高い丘は、三十分ほど登れば眼下にすばらしい景色を広げている。


 どこまでも広がるラルス平原……全てが始まった港町レーナ……溜息が出るほど湾曲しながら伸びていく海岸線……見慣れたはずの大きな海。


 海から吹いてくる風は勢いよくラルス平原を通り抜け、ライフ・ヒルを駆け昇ると、ユーンのブラウンがかった髪をなびかせていた。

 見たこともない美しい景色に二人は思わず息をのんだ。

 冒険者になって良かったことは何と聞かれたら、ユーンは迷わずこの景色が見れたことだと言うだろう。


「すごいな……」

 サイの言葉に無言のまま頷く。

「ユーンは、この祭のことをなんか聞いたか?」

「……少しだけだけど。四年に一度のお祭とかで……金の満月の今日にだけ、古い友人と会えるとか…」

「そうか。俺も聞いてみたけど、かなり昔からの伝統行事らしい。別れた友と再会するための祭だと言っていた」

 ふぅんとユーンが頷く素振りを見せる。

「ユーンは最初の頃より、随分と冒険慣れてしてきたな」

 その言葉にユーンがくすくすと笑う。

「だって、あの時は初めて会ったばかりだし……舟は沈没するし……恐いことばかりだったし……今はあの時と状況が違うから、そう思えるんじゃない?」

「そうか……それでも、少し変わった気がするな」

 ユーンは、やはり気のせいだよと答える。


「そろそろ日も暮れるし、お祭も始まる頃だろう。行ってみるか?」

 ユーンは黙って頷くと、サイの後ろをついて歩く。

 村に近づくほど活気が伝わってくる。

 どうやら、祭はすでに始まっているようだった。

「この村って、こんなに人がいたんだ……」

 村を挙げての祭は、たくさんの出店と人で溢れかえっていた。

「古い友と再会するためのお祭、かぁ……このお祭をきっかけに、村から出ていった人とかも帰ってくるのかなぁ……」


 肩をたたき合って喜ぶ男達、涙を浮かべて母親にだきつく若い女性。

 変わった祭だが、なぜだか胸の中が熱くなる感じがしていた。


「なぁ、ユーン」

「うん?」

「俺さ、祭って初めてだから。何をどうすればいいんだ?」

「どうって……あ、じゃぁコイン落としでもしようよ!」

 ユーンがぴょんぴょんと跳んで、賑わう祭の中からコイン落としの店を探し出す。

 そしてユーンは、そのまま人垣をかき分けて進んでいった。

「お、おいユーン。迷わないように離れるな……って、これじゃ俺が迷いそうだな」

「ほら、サイ。こっち!」

 ユーンの選んだ出店は、水の中のコップにコインを落としてうまく入れば景品がもらえるというものだ。

「けっこう難しいんだよ。ほら、サイも落としてみて」

 言われるがままにサイがコインをつまむ。

 そして水中のコップに向けて、パラパラと落としてみる。

 しかしコインはひらひらと揺れ落ち、コップから離れた個所に沈んでいった。

「はい、ざ~んねん」

 出店のおやじの言葉にサイがむっとする。

 酔っぱらっているのか、声が裏返っていて余計に腹が立つ。

 ネレイデスでも召喚してコップに入れてやろうか……とも考えてしまう。

「……もう一回だ」

 意地になってるサイを笑いながら、ユーンは他の出店はと目を泳がせた。

 そしてその目が凍り付いたように止まる。

「どうした? ユーン」

 サイがユーンの異変に気付き声をかけるが、すでに心ここにあらずといった感じだった。

「ロイ……ロイが今、歩いてた」

「お、おいユーン」

「どうして……やっぱり、あれは嘘だった! ロイが死ぬはずはないもの……ロイは生きてる。会わなくちゃ……」


 ユーンは夢遊病者のようにふらふらと進み、やがて走り出す。

 サイも慌てて追いかけようとするが、すぐに足を止めた。

 その視界に意外な人物が映ったからだ。


「なぜ……なぜ、あいつがここに……」

 しかし確かに見えた。

 見間違いではないはずだ。


 赤の満月の夜に現れた、ヨグ=シラセ。


「くそ、嫌な予感がする」

 サイは自分の武器をとるために、宿に向かって走り始めた。

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