共命鳥(3)
ルイとカーズをその辺に転がっていた手ごろなロープで縛った後、団長のテントに向かう。
明かりのついているテントは、他にはない。
話通り、団員たちは出払っているのだろう。
「気をつけて、レシーリア。相手は高レベルの月魔術師だよ」
同じ月魔術師だからこそ、危険な相手だと理解しているのだろう。
それは中堅冒険者であるレシーリアも、よく知るところだった。
レシーリアは黙って頷くと、ショートボウに矢をかける。
「私から……次に前衛二人よ」
忍び足を使い音を立てることなく、入り口に近づく。
中に人の気配はあるが、待ち構えているようでもない。
後ろに続く仲間に目で合図を送り、勢いよく布をめくると、転がるようにテントの中へと躍り込んだ。
続いて、カーリャとサイも飛び込んでくる。
テントの中は小物がごちゃごちゃと散乱していて、大きな木製の机の先では、驚いた表情を浮かべる中年の男が座っていた。
30後半の小太りの男は、カーリャの方を見ると事態を把握したのか、やれやれと立ち上がる。
頭の回転は早い……が、すでにレシーリアの鏃は男の頭に向けられている。
「ルイはまた、失敗したみたいですねぇ」
「殺しちゃいないわ……で、あんたがグラウディオスね?」
グラウディオスは意味深な笑みを浮かべて、両手をゆっくりと上げた。
「魔法なんか使わせないわよ!」
ぎりっと矢を引くと、グラウディオスは慌てて首を横に振る。
「いえいえ!」
そしてそのまま、ゆっくりと地に伏せる。
「降伏ですよ」
かくして、あっさりと降伏をしたグラウディオスに対し尋問が始まった。
どうやらグラウディオスは、カーリャ達を他のサーカス団のスパイと誤認していたらしい。
彼らは彼らで、サーカス団の秘密を守ろうとしていたようだ。
「ご存じの通り、このサーカス団には動物はいません」
「……のようだな、団員もいないようだが……?」
「今ここに残っている団員は、カーズとルイだけです。他の者は、次の満月の召集時まで、街で自由に過ごしています」
「次の満月……どういうことですか?」
サイとユーンが顔を見合わせる。
そういえば、レシーリアもそんなことを言っていた。
なぜ次の満月までなのか理由がわからなかったが、レシーリアはあの時すでに見抜いていたようだ。
「これは、業務秘密なんですがねぇ……私、マジックアイテムの収集が好きでして、そういったものを買い漁っていた時に、人を動物に変えるという遺失魔法『月華』を見つけましてね。その……次の青い満月の夜に、団員達はその魔法で動物になる予定なんですよ。そして、それから一週間公演をするわけです」
レシーリアを除く一同が、一瞬だけ思考にとらわれる。
「……え? それって公演では、動物が演じてるわけじゃないってことっ!?」
「その通りです」
目を丸くして驚くカーリャに、グラウディオスがやれやれと肩で肯定する。
「この手法をもちいれば、動物の世話、餌代、新しい動物の獲得、さらには調教といった経費と時間が大幅に削減できます。それに、もとが人間ですから難解な演目も一度の説明で理解でき、演じることがでるんですよ」
「そりゃ、儲かるわけだ……」
あきれたような、感心したような表情でサイが言う。
「我々も商売ですから。それで、ですね。前々から盗賊ギルドに『月華』の所有者を捜すという依頼をしていた、リファニーという名の導師と会うことになったのです。そして、ある人物を猫に変えて指定の動物店に売ってほしい……と、依頼されましてね」
そこでようやく一行の中で、話の全容が線でつながった。
つまりこれは結局のところ、リファニーが主犯だということである。
「それで、サークさんを眠らせて動物に変えたのですね?」
「ええ、そうです。巡回しているところを捕まえて眠らせました」
「どうしてリファニー導師は、そんなことを依頼したのかな?」
ハーミアとルーの質問にも、グラウディオスは躊躇なく答える。
「なんでも一年ほど前にお祭りで、たまたま見かけた騎士に恋をしたとかで……猫になら告白できそうだとか言ってましたねぇ」
「そんなことのために……信じられん。嘘だろ?」
サイが珍しく動揺を見せる。
しかしカーリャは肩をすくめるようにして「わかってないなぁ〜」と、小馬鹿にした口調で続けた。
「もう、なにを言ってるのよ〜サイ。女の子にとって告白ってのは、それだけ大変なことなのよ〜?」
「……いや、カーリャ。お前以外は、みな同意していないようだが?」
「え……?」
仲間たちに視線を移すと、さすがにあり得ないし……という、レシーリアの方に全員が頷いていた。
「イセリアの方が、まだわかるけど……あんた、手段を選ばない派なのねぇ」
「あ、あはは~……でも、なんで使い魔の魔法なんて使って、リンクする必要があったんだろ」
「それはもう、本人に聞くしかないわね」
レシーリアが、グラウディオスを解放しながら言う。
「あの、我々は……」
「……ああ、あとはこっちの話だからもういいわ」
「わかりました。あっ、先ほどのことは内密にお願いします。あなた方だって、不法侵入に恐喝、暴行を……」
「はいはい」
レシーリアはわかってるわよ、と手をひらひらとしてこたえる。
こんなことで、話をこじらせても仕方がない。
真相をつかめたのだから、手打ちとしては十分だ。
「あの……マジックアイテムについてお詳しいようですが……病気を治すアイテムとかは、ご存じないですか?」
「病気の? ……さあ、知りませんねぇ」
「……唐突に何よ。どういうこと、ハーミア?」
何か言いづらいのか、ハーミアは言葉を濁らせる。
「また、なにか抱え込んでるみたいだね~」
ルーは水くさいなぁと付け加えるが、やはりハーミアは何も言えないようだった。




