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満月のハナシ  作者: Ni:
青い月 憂いの魔術師

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32/110

共命鳥(3)

 ルイとカーズをその辺に転がっていた手ごろなロープで縛った後、団長のテントに向かう。

 明かりのついているテントは、他にはない。

 話通り、団員たちは出払っているのだろう。

「気をつけて、レシーリア。相手は高レベルの月魔術師だよ」

 同じ月魔術師だからこそ、危険な相手だと理解しているのだろう。

 それは中堅冒険者であるレシーリアも、よく知るところだった。

 レシーリアは黙って頷くと、ショートボウに矢をかける。


「私から……次に前衛二人よ」

 忍び足を使い音を立てることなく、入り口に近づく。

 中に人の気配はあるが、待ち構えているようでもない。

 後ろに続く仲間に目で合図を送り、勢いよく布をめくると、転がるようにテントの中へと躍り込んだ。

 続いて、カーリャとサイも飛び込んでくる。


 テントの中は小物がごちゃごちゃと散乱していて、大きな木製の机の先では、驚いた表情を浮かべる中年の男が座っていた。

 30後半の小太りの男は、カーリャの方を見ると事態を把握したのか、やれやれと立ち上がる。

 頭の回転は早い……が、すでにレシーリアの(ヤジリ)は男の頭に向けられている。


「ルイはまた、失敗したみたいですねぇ」

「殺しちゃいないわ……で、あんたがグラウディオスね?」

 グラウディオスは意味深な笑みを浮かべて、両手をゆっくりと上げた。

「魔法なんか使わせないわよ!」

 ぎりっと矢を引くと、グラウディオスは慌てて首を横に振る。

「いえいえ!」

 そしてそのまま、ゆっくりと地に伏せる。


「降伏ですよ」


 かくして、あっさりと降伏をしたグラウディオスに対し尋問が始まった。

 どうやらグラウディオスは、カーリャ達を他のサーカス団のスパイと誤認していたらしい。

 彼らは彼らで、サーカス団の秘密を守ろうとしていたようだ。


「ご存じの通り、このサーカス団には動物はいません」

「……のようだな、団員もいないようだが……?」

「今ここに残っている団員は、カーズとルイだけです。他の者は、次の満月の召集時まで、街で自由に過ごしています」

「次の満月……どういうことですか?」

 サイとユーンが顔を見合わせる。

 そういえば、レシーリアもそんなことを言っていた。

 なぜ次の満月までなのか理由がわからなかったが、レシーリアはあの時すでに見抜いていたようだ。


「これは、業務秘密なんですがねぇ……私、マジックアイテムの収集が好きでして、そういったものを買い漁っていた時に、人を動物に変えるという遺失魔法『月華』を見つけましてね。その……次の青い満月の夜に、団員達はその魔法で動物になる予定なんですよ。そして、それから一週間公演をするわけです」

 レシーリアを除く一同が、一瞬だけ思考にとらわれる。


「……え? それって公演では、動物が演じてるわけじゃないってことっ!?」

「その通りです」

 目を丸くして驚くカーリャに、グラウディオスがやれやれと肩で肯定する。

「この手法をもちいれば、動物の世話、餌代、新しい動物の獲得、さらには調教といった経費と時間が大幅に削減できます。それに、もとが人間ですから難解な演目も一度の説明で理解でき、演じることがでるんですよ」

「そりゃ、儲かるわけだ……」

 あきれたような、感心したような表情でサイが言う。

「我々も商売ですから。それで、ですね。前々から盗賊ギルドに『月華』の所有者を捜すという依頼をしていた、リファニーという名の導師と会うことになったのです。そして、ある人物を猫に変えて指定の動物店に売ってほしい……と、依頼されましてね」

 そこでようやく一行の中で、話の全容が線でつながった。

 つまりこれは結局のところ、リファニーが主犯だということである。


「それで、サークさんを眠らせて動物に変えたのですね?」

「ええ、そうです。巡回しているところを捕まえて眠らせました」

「どうしてリファニー導師は、そんなことを依頼したのかな?」

 ハーミアとルーの質問にも、グラウディオスは躊躇なく答える。

「なんでも一年ほど前にお祭りで、たまたま見かけた騎士に恋をしたとかで……猫になら告白できそうだとか言ってましたねぇ」

「そんなことのために……信じられん。嘘だろ?」

 サイが珍しく動揺を見せる。

 しかしカーリャは肩をすくめるようにして「わかってないなぁ〜」と、小馬鹿にした口調で続けた。

「もう、なにを言ってるのよ〜サイ。女の子にとって告白ってのは、それだけ大変なことなのよ〜?」

「……いや、カーリャ。お前以外は、みな同意していないようだが?」

「え……?」

 仲間たちに視線を移すと、さすがにあり得ないし……という、レシーリアの方に全員が頷いていた。


「イセリアの方が、まだわかるけど……あんた、手段を選ばない派なのねぇ」

「あ、あはは~……でも、なんで使い魔の魔法なんて使って、リンクする必要があったんだろ」

「それはもう、本人に聞くしかないわね」

 レシーリアが、グラウディオスを解放しながら言う。

「あの、我々は……」

「……ああ、あとはこっちの話だからもういいわ」

「わかりました。あっ、先ほどのことは内密にお願いします。あなた方だって、不法侵入に恐喝、暴行を……」

「はいはい」

 レシーリアはわかってるわよ、と手をひらひらとしてこたえる。

 こんなことで、話をこじらせても仕方がない。

 真相をつかめたのだから、手打ちとしては十分だ。


「あの……マジックアイテムについてお詳しいようですが……病気を治すアイテムとかは、ご存じないですか?」

「病気の? ……さあ、知りませんねぇ」

「……唐突に何よ。どういうこと、ハーミア?」

 何か言いづらいのか、ハーミアは言葉を濁らせる。

「また、なにか抱え込んでるみたいだね~」

 ルーは水くさいなぁと付け加えるが、やはりハーミアは何も言えないようだった。

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