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満月のハナシ  作者: Ni:
青い月 憂いの魔術師

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共命鳥(2)

 今でも忘れられない。豹変したエヴェラード。

 彼がああなってしまったのは私のせい……

 ザナは、ただそこにあるものを利用しただけにすぎないのだろう。

 それでも、ザナを許せなかった。

 それに……リードを助けてくれるという約束はどうしたんだろう……

 そもそもリードはあの時ザナの言う通り、あの海底遺跡で治療を受けていたのだろうか……

 本当に生きているのだろうか……

 度重なる事件が私の感情を殺していく。

 それでも……それでも、私はなんとかこうして生きている。

 それはイセリアのおかげでもあり、リードのおかげでもあり、仲間たちのおかげでもあった。


《ハーミアの場合》


 情報交換中も私は知っていることだけを話し、あとは黙ってみんなの話を聞いていた。

 カーリャの話によると、このサーカス団は私たちが無人島にいた頃辺りからここに来ているらしい。

 十中八九、あの赤い満月の夜にサークはここで猫にされたのだろう。

 そしてその後ペットショップに売られて、それをリファニーが買ったことになる。

「あの……ルイさん……。あなた方は人間を動物に変える常習犯なんですか?」

「お、おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。部外者を動物になんか変えないさ、そりゃあ犯罪じゃねぇか」

 ユーンの言葉に、ルイが慌てた様子で弁解する。しかし、かえってそれが怪しく感じた。

「……本当なんですか?」

 私の言葉にルイがにやつく。

「おお、こっちもべっぴんさんだな。もっと優しくしてくれれば色々教えてやるぜ?」

 さぞや今の自分は、うんざりした表情をしているのだろう。

 口説くなら口説くで、もっと気の利かせた言い回しもあるだろうに。

「ずいぶん元気ね。治療薬の代わりに痺れ薬でも盛りましょうか?」

 私が冷たく言い放つと、ルイはひきつった笑顔を見せた。

 どうして世の中の大半の男はこうなんだろう。そう考えると、妙にこっちまで情けなくなってくる。

 まあ、世の中の男の全てがルーのように紳士的だとしたら、それはそれで気持ちが悪い気もするが。

 とにかく今はこの情けない男に聞くしかなかった。

「どうして他の団員はいないのですか? 動物がいないのも気になります。それにこの魔法陣は?」

「……嬢ちゃん達はスパイじゃないのか?」

「スパイ?」

「うちら『オーリジョン』の人気の秘密を探る……」

 素直に首を横に振る。

「……う~ん、困ったね。まあ、あんた達が言うとおりここで人を動物に変えている。でも俺ら下っ端じゃ詳しくはわかんねぇんだよ。団長に聞いてくれや」

 真偽はともかく、これ以上の情報は望めそうにないようだ。カーズに聞いても同じような答えが返ってくるだけだろう。

 ……たぶん、一年前、盗賊ギルドに『月華』の使い手を探すように依頼したのはリファニー。その目的は、サークを何らかのトラブルから守るため。

 方法が正しいかどうかはともかく、彼女が悪いことをするとは思えなかった。

 ではどんなトラブルから、そして誰から守ろうとしているのか?

 剣と鎧は、そのうち返すつもりなんだろう。

 しかしなぜリンクする必要があったのか。解除方法を冒険者に依頼する理由もわからない。

「……ふう……」

「……? 何か思い浮かんだ~?」

「ん? ううん、わからないことだらけで…」

 そっかぁ、と残念そうにルーが言う。

 でも実は聡明なルーのことだから、私がそれなりの答えを考えついたことに気づいているのだろう。

 たぶんサークは知ってか知らずか、トラブルに巻き込まれそうになってて、それを避けるためにリファニーが助けた。

 リンクしているのはサークの動向を監視するため。または守るため。

 依頼してきた理由は、自分の話に信憑性を出すためか、それとも、裏にいる人物が巻きこむように命じたのか。

 満月まで解かないのは、解かないことに意義があるから。たとえば……裏の人物が、次の満月までどうしても邪魔されたくない何かを、たまたまサークに知られてしまった。

 満月さえ過ぎてしまえばどうでもいいことなのだが、満月の前には、どうしても知られたくない。そんな事情があるのではないのか……

 ではグラウディオスは誰に会いに来たのか……ザナ……ではないのだろうか。

 どうにも陰謀めいたものに遭遇すると、彼女の顔が浮かんできてしまう。

「……ねぇ、ルー……ザナと面会は……できないのかしら?」

「……ザナと? 難しいかも~。あっちが承諾してくれればすぐにでも会えるかもしれないけど……この件に関係あるの?」

「わからないわ。でも……もしかしたら……」

「……考えすぎだよ~。前回の件でザナのことが頭に焼き付いているだけじゃないかな。……それとも、あの、エヴェラードって人に会いたいの?」

「…………それもある…けど……」

「……あの人……多分……助けられないよ?」

 わかっている。

 わかっているけれど……でも、それでも心のどこかで奇跡を願っていた。

 ザナ……きっと近い将来にまた会うことになる。そんな気がしてならなかった。

「……わたし、グラウディオスを連れてくるね」

 言ってカーリャがお尻を払いながら立ち上がる。

「そうだな、その方が早い」

 目を閉じたまま賛同するサイの言葉に、ルーも黙って頷いていた。

「……一人じゃ危険です……」

 しかし、彼女は大丈夫と笑顔を返す。

 相手は未知数な力のもった月魔術師だ。

 一人で行かせるのは危険だった。

「カーリャ……先ほど私が言った事を忘れたのですか?」

 カーリャは少し考える素振りを見せて、やがて少しすまなそうに返してきた。

「……そう……だったね。うん、わかった。じゃあ一緒に行こ!」

 彼女なりに先ほどのことを気にしてくれてるらしく、自然に笑顔がこぼれる。

 私は静かに頷いた。




『人は、なにかを抱えずには生きてはいけないものよ』

 レシーリアに言われた言葉だ。

『種族のことだってね、それは誰もがもつ悩みと同じよ。悩みなんて誰でも持ってるものだし、だから助け合おうとするんじゃないかしら』

 俺がハーフエルフであることを悩むように、みんなも同じように何かに悩んで生きている。

 レシーリアの言葉の通りなのだろうか。

 この仲間達も、一人ひとりなんらかの悩みを持っているのだろうか。

 それを考えながら生きていけば、助けることも助けられることもあるというのだろうか。


《サイの場合》


 多くの疑問と、多くの事実をたぐり寄せ、疑問も含めて一つの形をつくる。

 現状では推理の域は脱しないが、情報をまとめるのには役立つようだ。

 まずリファニーとグラウディオスは、つながりがあるだろう。

 主犯はおそらくリファニー……で、一年前から探していた月華の遺失魔法使いがグラウディオス。

 しかし、それでも猫にした目的が全くわからない。

「月華はそちらの月魔術師が使ったのですか?」

「……月華? あれは団長の専売特許だ。カーズじゃかけられねぇよ」

 ルーの質問に、ルイは躊躇なく答える。あまりに協力的なのが、胡散臭く感じる。

 しかしこいつの言葉を信じれば、満月の夜にテントの中の魔法陣を使ったのはグラウディオスで間違いないようだ。

 サークの剣と鎧は、きっとリファニーが自分の部屋のどこかに隠しているんだろう。

 後でサークに返すためだ。それ以外だったら、早く処分するはずだ。

 ではリファニーが解除方法を知っていても、そうしなかったのは……やはり恋心なのだろうか?

 そしてサークとリンクしている手前、気持ちとは裏腹に冒険者に依頼するしかなかった。

「……わたし、グラウディオスを連れてくるね」

 カーリャが現状を打破すべく、切り出した。

 こいつはこいつなりに、リーダーとしての自覚や責任みたいなものを感じているのかもしれない。

 リア・ランファーストがどれほどの人物かはわからないが、あいつの背を追うようにして、こいつは一歩づつ確実に成長しているようだった。

「そうだな、その方が早い」

 正直な答えである。やはりまだ情報が足りないように思えた。

「……一人じゃ危険です。……カーリャ……先ほど私が言った事を忘れたのですか?」

「……そう……だったね。うん、わかった。じゃあ一緒に行こ!」

 長い沈黙の後、ハーミアの気持ちが伝わったのかカーリャが頭をかきながら言う。

 ……しかしやっぱり、どこかおとぼけなところがあるようだ……




 まったく面倒くさい。

 イセリアの時もそうだったが、人の恋路に巻き込まれることほど、どうでもよくて面倒なものはない。

 まぁ、それでもあのイセリアの笑顔は金貨十枚分くらいの価値はあったかもしれない。

 この若いパーティは、あまり対価を求めようとしない。若さゆえの青臭い衝動か、相手が喜べばそれでいいとでも考えているのだろう。

 その中で、やはり居心地がいいと感じてしまうのも事実だ。

 よくぞこんなパーティに入れたものだが、それは自分が傷つけられないよう生きることに長けてしまった結果なのかもしれない。


《レシーリアの場合》


 サーカス団がレーナにきた理由はただ一つ、リファニーと会うためだ。

 リファニーはサークを猫にするために、“月華”を使える月魔術師か、その遺失魔法自体を盗賊ギルドに依頼して探した。

 そしてグラウディオスの存在を知り、なんらかの形で接触した。

 グラウディオスは、この間の赤の満月の夜にサークを拉致し、“月華”を使用した。

 その後はリファニーの指示する動物店に売り、リファニーが買い付けて使い魔の儀式を行ったのだ。

 依頼をしたのは、サークの手前、解決しようとしている姿勢を見せなければいけないからだろう。

 依頼料が極端に低いのは、わざと断られるためだ。あの金額では誰も受けない。

 受けるとしたら、このお人好しパーティくらいだ。それがきっとリファニーの誤算だったはずだ。

「あの……ルイさん……。あなた方は人間を動物に変える常習犯なんですか?」

「お、おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。部外者を動物になんか変えないさ、そりゃあ犯罪じゃねぇか」

 ……部外者を?

 ……つまりは……あぁ、なるほど。こりゃぼろい商売だ。

 それなら、空の檻とほかの団員が見当たらない理由も説明がつく。

 ……ということは……

「他の団員は次の満月まで自由行動なのかしら?」

「あ、いや、まぁ、そんなところだ」

 ルイが明らかに動揺する。

 どうやら間違いないようだ。

 他の団員はレーナの町で自由にしているのだろう。

「……わたし、グラウディオスを連れてくるね」

 みなが考えを巡らせる中で、リーダー様が口火を切る。

 たしかに、このままここで議論していても埒が明かない。

 団長とやらを捕まえて、話をしたほうが早そうだ。

「そうだな、その方が早い」

「……一人じゃ危険です。……カーリャ……先ほど私が言った事を忘れたのですか?」

 少し前にハーミアが、カーリャに詰め寄っていたのを思い出す。

 ハーミアのほうが年下なのに……とも思うが、彼女はシェイプチェンジャーだ。

 シェイプチェンジャーは少しばかり短命で、心身ともに人間よりも成長が早い。まぁ、それを差し引いても大人びてはいるのだけど。

「……そう……だったね。うん、わかった。じゃあ一緒に行こ!」

「こら、みんなで行けばいいでしょうが」 

 いま一歩考えが及ばないカーリャの頭をぺしんとはたき、わざとため息をする。

 よもすれば猪突猛進になりがちなこのリーダー様は、頭をさすりながら相変わらず愛らしい笑顔を見せていた。

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