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満月のハナシ  作者: Ni:
青い月 憂いの魔術師

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月華の魔法陣(2)

 カーリャとユーンの二人が郊外の広い空き地に行くと、そこには木の柵で囲われたカラフルなテントがいくつも並んでいた。

 ちなみにサイとハーミアは、レシーリアたちと合流するため『碧の月亭』で待ち合わせ中だ。


「あった、ここじゃない? ユーン」

 カーリャが声をあげる。

 たしかにそこには『オーリジョン』と書かれたテント群があった。

 入ってすぐのところに一際大きなテントがあるが、きっとそれがサーカス会場なのだろう。

「じゃあ、ユーン。打ち合わせ通りに、ね」

 不安げな表情で頷くユーンに、カーリャがウインクをひとつする。

「ほ、本当にやるんですか?」

「大丈夫! ほら、ちょうどいい感じに、馬鹿面の団員っぽいのがいるし。いくよ」

 そう言いながら、カーリャが声をあげて荷物を運んでいる団員に近づく。

「すみませーん。私達、サーカスに憧れててぇ……ちょっとだけ中を見せてもらえませんか?」

「んん? 見学かい? そっちの嬢ちゃんは?」

「私……動物が大好きで、とても興味があるんです」

 団員はいやらしい目つきで顔を真っ赤にするユーンを観察すると、ついでカーリャの体のラインをなぞるよう見たあと、腰にかけた袋から何かを取り出した。

 どうやら、関係者用の腕章のようだ。

「動物用のテントは入れないけど他は見てもいいだろうし……ほら、特別に貸してやるよ。そのかわり……今晩つきあってくれよ。いいだろ?」

「いいですよ。よろこんで!」

 カーリャが笑顔でこたえ、腕章を受け取る。

「あっ、それから、ここの団長様ってどんな方なんですかぁ?」

「グラウディオス様か? そりゃぁ、頭のいい団長さぁ」

「へぇ……レーナには、どうしてきたんですか?」

「いや、それが俺にもよくわかんねぇんだ。ここだけの話……女に会いに来たって話だぜ」

 ……女? とカーリャが聞き返すと、団員は周りの目を気にするようにぼそぼそと話す。

「とびきり美人の若い女って話だ。ま、俺達はどうでもいいんだけどな……それより今晩、またここで会おうぜ、なっ!」

「うん、いいですよぅ」

「へっへっへっ、約束だぜ……あ、あと動物用のテントには絶対近寄るなよ。危ないからな」

 男は満足そうに笑みを浮かべ、荷物を再び運び始めた。

「……カーリャ、まずいですよぅ……」

「大丈夫、あんな約束無視すんだから。それより、さ……いこ!」

 カーリャは手早く腕章を巻いて、一つ目のテントに近づいていった。



 それから三十分ほど時間が経過し、カーリャとユーンはすでに三つ目のテントを探索し始めていた。

 魔法の道具や魔法陣の痕跡を探しているのだが衣装や大道具が多く、なかなかそれらしいものが見つからない。

「うぅん、まいったなぁ。なんにもないよ……」

「やっぱり動物用のテントにも行くしかないですね」

 たしかにユーンの言う通り動物用のテントに行って、サークのような元人間の動物がいないか探すべきかもしれない。

「あっそうだ。ねぇ、ユーン。オレアデスも一緒に探してもらえないかな?」

「……駄目ですよ。調教師さんとかに見つかったら、オレアデスが危ない目にあっちゃいます」

「そっかー、そうだよね。じゃあ動物用のテントと、でっかいサーカス会場のテントを覗いてみよっか」

 ユーンが頷くのを確認し、布にくるんでおいたザイルブレードを取り出して腰に差す。

 外に出ると周囲に人がいないか確認しつつ、立ち入り禁止と書かれた動物用のテントに近づいた。


「意外……もうちょっと、監視とかいそうなものなのに……」

「……と言うか、人が全然いないですよ? さっきの人以外、誰とも出会ってませんし……」

 たしかにそうだ。

 このサーカスには、人の気配がまったくない。

「なんか……静かすぎる……」

 カーリャが左手で鞘を握り、刀の唾に親指を当てる。

「ユーン、離れてて」

 張り詰めていく空気とともに抜刀の緊張感がユーンにも伝わり、邪魔にならないようカーリャの後ろに回る。

 カーリャは少し腰を落としながら、そのままの姿勢でゆっくりと動物用のテントに近づいた。

 そしてもう一度、ユーンのほうに顔向ける。

 彼女が緊張した面持ちで頷くのを確認し、目を閉じる。


 カーリャが、一呼吸の間をおく。


 そして、一気にザイルブレードを引き抜いた。

 キンッと甲高い抜刀音がし、テントを十文字で斬りつけると再び鞘に戻す。


「カ、カーリャ、テントを壊したら怒られちゃいますよ」

「え? あ……まぁ正面から行くのもなんだし、斬ったものはしょうがないし……」

 カーリャが少し引きつった顔を見せつつ、すぐに切り替えてテントに手をかける。

「とりあえず中を見てみよ?」

 そう言って、上半身をテントの中に突っ込む。

 カーリャは時折ガサツなところがあるなと、ユーンは聞こえないようにため息をついた。

 レシーリアがいう危なかしいところとは、この辺のことを指しているのだろう。

 もっと私もしっかりしなきゃと、頬をぱんぱんと叩く。

「どうですか、カーリャ?」

「いや……これって……」

 その予想外の光景に、カーリャは言葉を失っていた。

 テントの中には、動物の檻がいくつもあった。

 しかし、生き物の存在は何ひとつなかった。


 いや……ここには動物特有の臭い、汚れや餌などの生き物がいたという痕跡が、全くと言っていいほどないのだ。


「ユーン……これって、どう考えればいいの?」

「もうサークさんみたいに、売られたとか?」

「いや……でも、サーカスの公演はどうするの? 動物なしじゃ、公演自体無理じゃない……」

 いくつかの檻の中を覗き込むが、やはり何もいない。

 どうしたものかとユーンのほうに顔を向けようとした時、視界の奥に別の人影が見えた。

「おいおい、あれほど入るんじゃねぇって言ったのに……」

 そこには入り口で会った、片刃の曲刀『ファルシオン』を抜き身で持つ団員がいた。

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