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満月のハナシ  作者: Ni:
青い月 憂いの魔術師

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27/110

月華の魔法陣(1)

 再び夜の『碧の月亭』に集まった一行は、持ち寄った情報の交換と今後の行動を打ち合わせていた。

 まずは人を動物に変える魔法の存在についてだが、それについては一人奮闘していたルーが説明を始める。

 少し疲れの色は見えるが、わずかにほころぶその表情が、何か見つけたことを物語っていた。


「結論から言うとあったよ。“月華”っていう遺失魔法で、生き物をほかの生物に変える魔法みたいだよ」

「やった! ルー、まさにそれじゃない!」

 カーリャが思わず手を叩いて喜んだ。

「うん、たぶんこれだね~。でも遺失魔法だから、誰が使えるかまではわからないし、儀式魔法は準備と時間がかかるから、相手の同意のもとか眠らせるかしないとかけられないよ?」

 その結果を知っていたレシーリアとサイは、なぜか静かに黙したまま何も語らない。

「それで、効果は永遠なんですか? 解除方法はあるんですか?」

 ハーミアの問いに、ルーがわずかに表情を曇らせレシーリアの方をちらりと見る。

 レシーリアは、やはり何も言わずに頷いていた。


「うん、それがね……この魔法って、満月の夜に儀式を行わなきゃいけないんだけど、次の満月の夜にはその効果をなくすんだよ」

「……うん? それって、ほっとけば解けるってこと?」

「そうだよ。さらに言うとね、解除魔法の“真月”で、元の術者の魔力を超えさえすれば、解除できるはずだよ」

 ルーは、やはり複雑な表情のままだ。

「それじゃ、ルーでも解けるの?」

「う~ん、そこはね、ユーンが言うほど簡単じゃないんだよ。少なくともそんな遺失魔法を使える月魔術師が、僕より魔力が下なわけないから。例えば僕が1日分の精神力を使い切る覚悟で魔力の集中をして、解除魔法の“真月”を唱えれば、解除できるかもしれないけど……」

「問題はそこじゃないでしょ?」

 そこでやっとレシーリアが口を開いた。

 カーリャには、見かねて口を挟んできたようにも見える。


「うん……あのね、リファニーは『記録の塔』の十階に部屋をもらえるほどの導師なんだよ。これくらいの魔術知識はもってるはずだし解除方法も、もちろん知っているはずなんだ。もしかしたらリファニーの魔力なら、普通に解除もできるかも……」

「リファニーが、“月華”を解除したくないってことなのですか?」

 ハーミアの頭の中で、今日の出来事が思い出される。たしかリファニーは、サークに対して何らかの感情を持っているようではあったが、それがなにか関係しているのだろうか。

「わからないよ。もしそうなら、どうして僕たちに解除を求めるような依頼をしたんだろ?」

「俺は……本人に聞いたほうが、早いんじゃないか、と思うんだが……」

「私もね、なんかちょっと面倒になってきて、正直サイと同じ意見なんだけど……でもまだ、調べられることがありそうなのよね。ハーミアは、リファニーの部屋に行って何かわかった?」

 しかしハーミアは、小さく首を横に振る。

「使い魔の魔法陣は見せていただきましたが、私にはさっぱりで……それが遺失魔法の魔法陣かどうかまでは……」

「ん~、“月華”の魔法陣はかなり大きいから、自室じゃ無理だと思うよ~」

 ふむ……と、レシーリアが考えを巡らせる。

 やはりまだ、決定的な情報が欠けている。


「カーリャとユーンは、どうだったの?」

 レシーリアの問いに、カーリャが待ってましたと笑みをこぼす。

 ユーンと顔を見合わせて頷くあたり、収穫があっただろうことは見て取れた。

「私とカーリャは、動物店でサークさんがどこから売られてきたのか聞いてきました」

「うん。それで、オーリジョンとかいう……バリィから来たサーカス団から買ったってのと~、団長の名前がグラウディオスだったってのは聞けたよ。で、明日はそこに行ってみようと思うんだけど……」

 カーリャが頼りになる女盗賊に返事を求める。

 リーダーとしての威厳がなくなるわよと、突っ込みたいところだが、及第点の働きと言えるだろう。

 しかし褒めても調子にのるだけだと思い、あえて働きについては言及をしない。

「オーケー。じゃあ明日、あたしは盗賊ギルドで、リファニーとサークの情報がないか調べてくるわ。あんた達は、そのサーカスの周りを探ってきて」

「僕はレシーリアについてくよ?」

「いや、明日は上納金もあるし、ルーもみんなと……」

「ついてくよ?」

 ふんっと鼻息を荒くするルーを見て、やれやれとレシーリアもあきらめる。

 チェンジリングの話のせいで、変なスイッチが入ってしまったのか。

 レシーリアは、どうにもあの真っすぐな目は苦手だった。




 次の日、レシーリアは数週間ぶりに盗賊ギルドへと向かっていた。

 まさかまた二人で行くことになるとは思ってもいなかったが、ルーもこの間ほどびくついてはいないようだった。


 ……今日は他に野暮用もあったんだけど……チェンジリングの話をしてからどうにも……


 後ろをしっかりとついてくるお子様が、この危険な通りを歩く様は、どうにもひどく浮いている。

 盗賊ギルドは、この賑やかな港町の裏の顔だ。

 ルーのように、まっとうに生きている人種には無縁の場所だ。そう何度も行くものではない。

 特に、この町の盗賊ギルドは力も強い。

 レーナは貿易港として栄えてきただけに、数多くの禁制品が流れてくる。流れ先はもちろん盗賊ギルドで、禁制品や盗品など公には出せない商品の取り扱いを行っている。自然とその財力も膨れ上がり、組織として大きく、強くなる。

 商人をはじめとする他の大きな組織ですら、盗賊ギルドの敵にならないように接していたほどだ。

 もちろん盗賊ギルドの儲け口はそれだけではない。ギルドの会員からの毎月の上納金も、大きな収入の一つである。

 ギルドに属さず町で窃盗行為を行っていると、そのうちギルドから睨まれる。故に大半の盗賊は、ギルドにお金を納めその町での『盗賊行為』や『あらゆる商売』の許しを得るのである。

 レシーリアの野暮用とは、まさにその上納金だ。

 もちろん情報を買うついでではあるのだが。


「レシーリア~。あの魔法も僕が調べるより、ここで調べてもらったほうが早かったんじゃ~?」

「無理ね。遺失魔法なんて、ここじゃ調べられないわ。それなら普通に月魔術師のギルドで、お金を払って調べてもらったほうがいいわね。ほら、悪魔は悪魔を知るって言うでしょ? そもそも、あんたが調べたらタダですむじゃない」

 盗賊ギルドでは、あらゆる情報を常に収集しており情報の売買もされている。

 魔法についての情報などは魔術師ギルドの方が上であろうが、個人や物品、事件などの情報は盗賊ギルドの得意分野であった。

 獅子の剣士探しでも役立ったが、今回のような個人名までわかっている場合は、より明確な情報が手に入る可能性がある。


「……やっぱり、おっかないなぁ」

 ルーが不安げに、ぽつりとつぶやく。

「そらそうでしょ。……ったく、なんでついてきたのよ」

「だって、か弱い乙女には護衛の男が必要なんでしょ?」

 冗談めいた感じもなく言う。

 その純粋な目に宿る芯が強すぎて、何処まで冗談かすらわからない。


 ……というか……これは……


「あたし、ひょっとしていま告白された?」

「してないよっ!」

 子犬のように吠えるルーの頭をぺしぺしと叩きながら、からかうように笑う。

 ルーは、からかうには丁度いいお子様だ。

 そうこうしているうちにギルドに到着し、いつもの手順で情報を求める。

「とりあえず月魔術師ギルドのリファニーと、騎士のサークについて何かある?」

 この間と同じ男が、レシーリアが置いた銀貨を一枚ずつ拾うと、奥からいくつかの紙を持ってきた。

「そうだな……まずリファニーって女だ。年齢は十九歳で父親・母親ともに魔術師ギルドの導師と学者だな。リファニー本人も、なかなかの腕前のようだ。罪歴はなし。うちとの関係は……あるな」

 意外な言葉に、ルーが目を丸くする。

「ふぅん……で、何を依頼してきたのよ?」

 しかし男は黙って、指先でトントンと木製のカウンターを叩く。

 追加金の催促だとすぐにわかり、あ~はいはい、と銀貨をさらに一枚置いた。

 男はニヤついた顔で、丁寧にそれをつまみ取り話を続ける。


「依頼を受けたのは一年前だ。内容は、ある術者を探すってやつだな。あともう一人の……サークとかいう騎士な。男で26歳。両親は首都ルーファンに在住。本人はレーナに駐屯するルーファン所属の騎士だ。普通に騎士試験を受けて合格した、普通の騎士だな。もちろん罪歴なし、うちとの関係もなし。祭りごとの警備とかをしているあたり、あんまり位は高くないようだ。剣の腕前は、なかなかのものらしい」

 レシーリアが腕を組んだまま、眉をひそめる。

 これはいよいよ、良くない方向に話が転がっている。

「そう……じゃあ、サークの鎧とか剣が売られたりはしなかった?」

 男がさらに紙をぺらぺらとめくると何枚目かで、その手を止める。

「あ~……まぁこれはタダでいいか。ここ最近で、騎士の装備が売られたという情報はないな」

「……ふーん……ありがと。あぁ、あとこれ、今月の上納金おいてくわ」

 レシーリアは簡単に礼を言うと、ルーに顎でいくわよと示しギルドから出る。

「ルー、少し急ぐわよ。カーリャたちが危ないかも」

 そう言ってルーの手を取り、『碧の月亭』に足早で向かうのだった。

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