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満月のハナシ  作者: Ni:
青い月 憂いの魔術師

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黒猫の騎士(5)

 ちょうど同じ頃、ハーミアは学院にある『記録の塔』に来ていた。

 ここは魔術師よりも学者が多く、月魔法だけでなく幅広く学識を深め保管することを目的とされている。

 今いるのはリファニーが、使い魔の契約の儀式を行った部屋……つまり、彼女の自室だ。

 ルー達も来ているのなら、呼んだ方がいいのではと提案したのだが、リファニーもさすがに男性を部屋に入れることに抵抗があるようで丁寧に断られてしまっていた。

 彼女は導師ということもあって、自室が塔の十階にあり、階段を上るだけでも一苦労だった。


「大変ではないですか? 毎日、こんなに階段をのぼるのですか?」

「……いえ、普段はほとんど部屋から出ませんから……それに、いい運動だと思ってるんで…」

 なるほど、魔術師は体力がないという話はあながち嘘ではないようだ。

 ルーもそうなのかしら……と、屈託のない彼の笑顔を思い浮かべる。

 たしかに、あまり体力があるようには見えないけれど。

「それで、ハーミアさん……どうしましょう?」

「え? ああ、そうですね。まず、どのように儀式を行ったのか、具体的に説明してください」

「はい、参考になるかどうかわかりませんが……」

 ……と、リファニーがため息をひとつをする。

 どうかしたのか、と首をかしげると、リファニーが少し疲れた表情で笑顔を浮かべた。

「あ、すみません。今、サークさんが眠られたようなので……」

「……大変ですね」

 しかしリファニーは、小さく首を横に振って否定する。

「それはサークさんも、同じなんですよね。いいえ……サークさんは猫にまでされて……騎士としてのプライドもある彼の方が、きっと大変なんです。私は何もしてあげられなくて……」

 みるみる瞳を潤わせるリファニーに、ハーミアが何かに気づく。

「そう……とにかく、がんばりましょう。大丈夫。きっとカーリャ達が、なにか情報を手に入れてくれるはずです」

「……ハーミアさんっ」

「きゃあ!」

 突然抱きついてきたリファニーに、思わずハーミアが悲鳴をあげた。

「あの……リファニーさん?」

「ハーミアさ~ん……」

 リファニーは涙ぐんで、おろおろとするハーミアの胸に顔を押し当てる。


 ……よほど不安と緊張の日々を、おくってきていたのだろう。

 今まで一人で留めてきたストレスが、ハーミアの優しさで解放されたようだった。


 大丈夫ですよ……と頭をさすりながらも、まさかサークさん起きてはいないですよねと心配してしまう。

「あの、リファニーさんに質問があるんですが……」

「なんですか?」

 いまだ瞳を潤わせるリファニーが、顔だけを上げる。

「ザナという名の導師を、知っていますか?」

 ザナ? と呟き、かるく首をかしげる。

 そして僅かな思考のあと、続けて返す。

「たしか、かなり高位の導師さまの中に、そんな名前があったような気がしますが……それが?」

「そう……いるのですね…………今もこの塔にいるのですか?」

「どうでしょう? 『探求の塔』の方かもしれませんが、いると思いますよ」

 そう……と、ハーミアはあまりいい顔をしない。

 もしいるとしたら、リードもそこにいるのだろうか。

「あと一つ……どんな病気も治せるマジックアイテムとか、聞いたことありますか?」

「病気……ですか? えっと……たしか、アデスの神殿にあると聞きましたね。かなり高額のようですが」

「アデス神の神殿に? そこに行けばあるのですね!」

「いえ、でも……たしかシェイプチェンジャーの盗賊団『ナインズ』に奪われたとか、学者たちの間で少し前に話題になってましたね」

「ナインズ……」

「事情は分かりませんが、あきらめた方がいいですよ。彼らは、何でもする犯罪者集団ですから。ハーミアさんのような綺麗な人が行ったら、交渉する間もなく襲われてしまいますよ」

 やはり残念そうに頷くハーミア。

「……どうかしましたか?」

「ううん、なんでもないの。気にしないでください」

 不思議そうな顔で見上げるリファニーに、ハーミアが微笑みかける。

 リファニーは、悪い人ではないようだ。

 しかし彼女には、サークへのほのかな感情があるようで、どこかイセリアの時と重なって見えた。

 とにかく今は、彼女たちを助けるのが先決だった。




 動物店に着いたカーリャとユーンの二人は、さっそく店長にリファニーの買った猫の話をもちかけていた。

 店内は可愛らしい犬や猫から、見たことのない動物までが所狭しと檻に入れられ並べられている。

 ユーンも、かわいらしい子犬を抱えて楽しそうだった。

 抱える子犬が、心なしかオレアデスに似ているのは、偶然ではないのかもしれない。きっとユーンは本当にオレアデスが好きなんだろう。


「その猫なら、“オーリジョン”から流れてきたやつだな」

「オーリジョン?」

「そうそう。あのバリィに本拠地があると言われるサーカス団さ。今はレーナに、特別興行に来てるんだ。で、なんでもレーナまでの移動中に動物が増えたそうで、売りに来たんだよ」

 二人で顔を見合わせる。

「カーリャ。たしかサークさんが、いろんな動物を見たと言ってましたね!」

「それと……グラウディオスだっけ?」

「あぁ、グラウディオス! そうそう、そいつはたしか団長の名だ。そいつから、買ったんだよ」

 二人はもう一度顔を見合わせて、きゃあと抱きつき、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「すごい! ユーン、大当たり!」

 ユーンも嬉しそうに頷く。

「そのサーカス団からは、他の動物は売られてないんですか?」

「ん? ああ、今んところは、あの猫だけだったな」

「カーリャ……サークさんの他には、いないということですかね?」

 カーリャが首を傾げる。

 いない……と願いたいけど、まだそうとは決められないだろう。


「店長さん、そのサーカス団って、今はどこにいるの?」

「郊外に行けばいるはずだぜ。まだ、公演はしてないけどな。あんたら、そんなことも知らないのか? 数週間前から来てるのに」

 その頃は無人島にいたもんと、心の中でカーリャが愚痴る。

 しかしこれは、有力な情報だ。

「ありがとうございましたっ!」

 ユーンが丁寧にお辞儀をし、カーリャも頷いて店長に礼を言う。

 どうやら、そのサーカス団が怪しいのは間違いないようだ。

「どうする? ユーン。ちょこっとだけ客を装って、下見に行く?」

「たしかに、場所だけでも調べた方がいいのかもしれないですけど……でも、一度みんなと相談したほうが……」

「そうだね。今日は無理せず、いったん『碧の月亭』にもどろう!」

 笑顔で頷くユーンに対し、カーリャの頭の中は、自らの手柄をどうみんなに話すのかでいっぱいだった。

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