表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月のハナシ  作者: Ni:
青い月 憂いの魔術師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/110

黒猫の騎士(3)

挿絵(By みてみん)


「それで、その猫がそうなの?」

 カーリャが黒猫に顔を近づけると、猫はわたわたとして離れる。

 そしてリファニーが、なぜか顔を赤らめた。

「カーリャ駄目だよ~。話が本当なら、中身は騎士様なんだから」

 ルーにそこまで言われて、自分が男性に鼻先が触れるほど顔を近づけたのだと初めて気づき、カーリャも赤面してしまう。

「ほんと、ある意味ブレないわね、うちのりーだー様は……」

「……ごめんなさぃ……死ぬほど恥ずかしい……あの……で、その猫が騎士様だと何か証明できるのかな?」

 リファニーは小さく「はい」と答え、鞄から大きめの羊皮紙を取り出す。

 それをテーブルで広げると、羊皮紙の四隅に重りとなる奇麗な石を置いた。

 羊皮紙には、共通語の文字が一文字ずつ書いてあり、黒猫がその上に座る。

 そしてその愛らしい肉球で、ぽんぽんと文字を叩いていった。

 カーリャがそれを追うようにして、読み上げていく。


“は……じ……め……ま……し……て……サーク……です”


 そこで一同、おぉと声を上げた。

「すごいな……本当に、その姿のまま中は人間なんだな」

 サイの言葉に、黒猫が首を縦に振る。

「一応、私が解呪できるかどうか、試してみましょうか?」

「そうね。呪いの類なら、神聖魔法で解除できるかもしれないわ」

 ハーミアはレシーリアに頷いて見せ、静かに祈りを捧げ始める。

 目を閉じて集中力を高め、やがて片掌から一瞬光が溢れた。

 神聖魔法のホーリーだ。

 しばらく一行が見守っていたが、やがてハーミアがあきらめたかのように首を振った。

「やはり、普通の呪いではないようです。呪いでなければ、なんらかの月魔法をかけられたと考えるべきですが……」

「とりあえず、精霊にも異常はなさそうです」

 ユーンが、サイのほうをチラリと見て発言する。

 サイも同意するように頷いて見せた。


「そっか~。じゃぁ何か、襲われた時のこととか覚えてる?」

 黒猫は首を横に振り、リファニーのほうに顔を向ける。

「……えっと、相手はわからないみたいですが、場所は何となく覚えてるので……はい……はい、そうですよね……はい……」

 リファニーがこくこくと頷きながら、独り言のようにつぶやく。

 すると黒猫は、リファニーが持ってきていたバスケットの中に入り、器用に自分でバスケットの蓋を閉じた。

 一行がその奇妙な行動を静かに見守っていると、リファニーが短く説明をする。

「サークさん、猫になってから睡魔が凄いらしいんです。みなさん、少しだけ待ってもらえますか?」

 リファニーはそれだけ言うと、目を閉じて静かになってしまう。

 時間にすると十五分と経たないくらいだろう。

 やがて、リファニーが大きなため息を漏らした。


「……いま、眠りにつきました」

「なんか、お疲れね」

「それはそうだよ、レシーリア~。使い魔っていうのはね、五感の共有化が一番の特徴なんだよ~?」

 ルーが、なぜか誇らしげに指を一本立てて話す。

 しかしこのお子様は、まだ使い魔の魔法など習得していないはずだ。

「そうですね。使い魔が怪我をしたら同じ痛みが私にも来ますし、使い魔の見えるものは自分にも見えます」

「えっと……じゃあ、使い魔を殺したら術者も死ぬの?」

「使い魔の生命力が術者よりも上なら、それもあり得ます。普通はカラスやフクロウ、猫やネズミを使いますので、術者よりも生命力が上ということはありません。問題は……」

 リファニーがまた溜め息を漏らす。

「これは今回が異例のことだからかもしれませんが……私の五感も、なぜかサークさんに伝わってるんです。見るもの、触れるもの、感じるものすべてです。考えていることだけは、サークさんからしか伝わらないのですが……」

 うん? と、カーリャが首をかしげる。

「あなたの考えてることは、サークさんには伝わらないの?」

「はい。なので、私からは普通に声に出してお話しております。一方サークさんは、話そうとしたことを思っただけで私に伝わってしまいます。それで……なんというか……プライベートな時間がないというか……」

「あぁ、お風呂とかそういうのね」

 レシーリアがあっさりと言い放つと、リファニーが真っ赤になってうつむいた。

「なるべくサークさんが寝ている間に、できるだけ目を閉じて体を……い、いえ……とにかく! サークさんが断片的に覚えているのは、襲われた時、ほかにも数人いた……とか、いろんな動物を見たとか……」

 そうか、視界がリンクしているのだから、自分の身体を見ることもできないということだ。

 トイレとかどうしてるのかしら、とレシーリアの興味は尽きないが、さすがにその質問は飲み込んだ。

「もう少し情報はないのか? たとえば……名前とかは憶えていないのか?」

「名前かどうかはわかりませんが、グラウディオスって言葉をどこかで聞いたと言ってました」

 リファニーはサイにそこまで言うと、サークの入ったバスケットを持ち、帰り支度を始める。


「あの……今日は、そろそろもどります。私は学院に自室があるので、何かあったらそこに……」

「あぁ、今のうちにお風呂に入りたいのね」

 レシーリアに悪気はないのだが、リファニーはまた顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

「じゃあ、ルーも一緒に学院にもどってあげなさい。ついでに、部屋も教えてもらえばいいわ」

 リファニーはよろしくお願いしますと頭を下げ、笑顔のルーと並んで出て行く。

 ルーはまだまだお子様だが、紳士だ。少しは心強いだろう。

「さて……どうすんの、りーだー」

 その呼び方に、カーリャがぷぅと頬を膨らませる。

「リファニーは呪術師を探してって言ってたけど……まずそんな、“人を猫に変える魔法”なんてものがあるのか調べたほうがいいと思うの」

 ふむ、とレシーリアが一考する。

「じゃあ、それは明日、私とサイとでルーのところに行って調べるわ」

 サイは、なぜ俺が……といった表情を浮かべるが、何事も社会勉強よと答えておく。

「私は、リファニーさんが儀式を行った部屋に行ってみようかと思います。なにか手がかりがあるかもしれません」

「うん、わかった。じゃあ、それはハーミアにお願いする」

「……あの、カーリャ……」

 今度はずっと黙っていたユーンが、控えめに進言をする。

「サークさんは、猫になってからの記憶がしばらくないんですよね? じゃあ、リファニーさんがサークさんを買ったお店から、逆にたどっていけば何かわかりそう……だと思うんです」

「あ、そうか。なるほど、ユーンてばあったまいい~。じゃあ、それは私とユーンで行こっか!」

 ユーンが嬉しそうにうなずいているのを確認し、カーリャがエール酒の入ったジョッキを掲げる。

「じゃあ、明日から張り切って行こー!」

 まぁ、一応は話がまとまったようだ。リーダーとしては、及第点といったところだろう。

 一人元気なカーリャに対し、レシーリアは苦笑しながらもジョッキを当ててやるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ