表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月のハナシ  作者: Ni:
青い月 憂いの魔術師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/110

黒猫の騎士(1)

 ───青い月。

 その夜、彼女は憂鬱な気持ちのまま、青く染まる町並みを眺めていた。


「どうしよう……」


 赤い満月の夜の『盲目』にして『大胆』にして『軽率』な自分は、きっと月の色に狂わされていたに違いない。

 しかしそれは青い月の周期に入り、『憂鬱の種』として芽吹いてしまった。

 どこかで覚悟を決めなければいけない。

 少なくとも、今度の青い満月の夜までには……


挿絵(By みてみん)




 それは、いつものテーブルで遅めの昼食をとっているときだった。

 めずらしく『碧の月亭』のオヤジが、自分から仕事の話を持ちかけてきたのだ。

「よう、レシーリア。暇そうじゃねぇか」

「そう見える?」

 さも忙し気に、港町レーナ名物の“魚介たっぷり麺料理”をフォークでくるくるしながら、皮肉をこめてかえす。

「新しい仲間どもはどうした?」

「夕刻には来るわよ……で、なに?」

「ご察しの通り仕事の依頼だよ。夜には依頼人が来るんだが、話を聞いてやっちゃぁくんねぇか?」

 なんであたしが……という表情をするが、オヤジはかまわず続けた。

「いやな、月魔法の学院のねぇちゃんなんだが……ちょっと依頼料が渋くてな。他のやつらには断られっちまって、残ってるのはお前さんとこの新米グループだけなんだ」

 レシーリアが、露骨に嫌そうな顔をする。

 なんで報酬の少ない仕事をあたしにまわすわけ?と、言いたげなのが一目でわかった。

「いや、聞くだけでいいんだ。とりあえず聞くだけで。これ、依頼書な。そんじゃ、たのんだぜ」

 逃げるように退散するオヤジを一瞥し、依頼書に目を落とす。

 そして一通り目を通すと、依頼書をくるくると丸め始めた。


「こんちは~。あっ、レシーリアいた!」

 丸めて捨てようとした依頼書に、カーリャの視線が突き刺さる。

 なんて鋭い娘なのだ。

「なになになに! 依頼?」

 カーリャが目を輝かせて駆け寄ってきた。

 ついでにサイも一緒に来ていたらしく、いつも通り無口なまま同じテーブルの席に着く。

「あぁ……いや、これは……」

「なに、それ依頼書じゃないの?」

「そうなんだけど……あんまり、おすすめしないわよ?」

 サイは感心なさ気にエール酒を頼んでいる。

 相変わらず、カーリャとの温度差がすごい。

「え~なんか強いモンスターなの? 討伐系? 遺跡探索系?」

「あんた……そうとう暇してんのね……」

 カーリャは不服そうに「だって~」と言いながら席に座る。

「冒険者らしい冒険を、まだしてないんだもん。もっとこう遺跡で強敵を倒して、罠を潜り抜けて、お宝を……とかさぁ」

 レシーリアがため息をする。

「遺跡って言ってもねぇ。こないだの海底遺跡は、未知数すぎてまだ行くのは危険だし……有名どころならレジアンだろうけど。あそこも結構荒らされてて、稼ぐなら深く潜らなきゃダメなのよ。まぁ、浅めに潜って経験を積んでおきたいけどね。それにしたって、まだあんたらじゃ早いわ。せめてリアがいれば、行ってみてもいいんだけどね」

 そう、リアはまだ帰還していない。

 ハーミアの話だと、ザナが助けてくれているはずなのだが……何をしているのやら、だ。


「……そう、だよね。リアさん、もどってきてくれるよね」

 カーリャが急にうつむく。

 あぁ、そうだ。

 リアのことは、ハーミアと自分しか知らないんだった。

 わかりやすく落ち込むカーリャに、どう答えていいか言葉に困る。

「俺は討伐系でもいいんだぞ。俺たちは実戦経験が足りない。ゴブリンやコボルドの討伐なら、どこかしらから来てるだろ?」

「まぁ、あんたに関しては結構、信頼してんのよ。問題は……」

「……やっぱり私?」

 うわ……馬鹿のくせに、ことのほか面倒くさい。

「だって無人島では後れを取ったし……こないだも結局、シラセに投げ飛ばされたり、最終的にレシーリアとイセリアが倒しちゃったし……私、何もできなかったし……」

 長そうなので、ビシッと頭をはたく。

「くよくよしてんじゃないわよ。冒険経験のない剣士なんて、最初はそんなものよ。サイの言う通り、討伐系で経験積むってのもアリだけどね。ゴブリン、コボルドクラスの討伐依頼がないのよ。ホブかシャーマン付きのならあったけど、数が多かったらちょっと危ないわ」

「私だって反省して、集団戦の練習してるよ?」

「……ほほぅ~。聞かせてもらえるかしら」

 ニヤニヤと笑うレシーリアに、カーリャが顔を真っ赤にしてカバンからスクロールを取り出す。

 なにこれ……と開いてみると、集団戦向けの剣術っぽい内容が細かに書かれてあった。

「ちゃんと、言いつけ通りに練習してるんだから!」

「これ、リアの?」

 カーリャが顔を真っ赤にしたまま頷く。


「へぇ……売れば、けっこういい値になるのかしら」

 今度はカーリャの鮮やかな反撃が、レシーリアの頭を捉える。

「そうやってまた! こないだも、サイの槍売ろうとしてたし!」

「いったいわね! 銀製の槍なんて、一年くらいは働かないでもいい額になるのよ?」

「……勘弁してくれ。銀製じゃないと、精霊魔法が使えないんだ」

 精霊は鉄を嫌うってやつだろう。

 鉄製のものを身に着けていると、精霊の召喚に支障をきたすのだ。

 そのため精霊魔法使いは、革製か銀製の武具を使う。

 銀製の武具は金額も相当なもので、普通に盗難にもあう。

 サイが自分の槍を常に持ち歩いているのは、そんな理由だろう。

 高額と言えば、カーリャが腰に差しているリアの刀もだ。あっちは金額のスケールが違う。

 さすがのカーリャも刀に対しては真面目なのか、肌身離さず身につけているようだ。

「大体、リアさんのユングの刀身も返してくんないし!」

「あれは、私が拾ったんだもの。ちなみに、あれを売るとレーナで屋敷が……」

 おそらく盗賊ギルドで、金額を調べたのだろう。

 指折り数えながらにやけるレシーリアに、カーリャがジト目で呆れていた。

「レシーリアは本当に売りそうで怖い。それよりさぁ、さっきの依頼……」

「あんたも、あきらめないわね」

 船の護衛の時と違って、安すぎて割に合わない。

 何より地味そうな仕事だが、遺跡探索も討伐もできないのであれば、あまり選択肢もなさそうだ。

「まぁ、夜に依頼人が来るらしいから。話だけ聞こうかしらね」

 そう言ってやはりため息をしながら、依頼書をカーリャに渡すのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ