少年(7)
冒険者ギルドには、サイの姿があった。
サイがここにきた目的は、登録された冒険者の中に『フューイという名の十二歳の少年』がいるのか、また『ギャザリンの村出身の冒険者』はいるのかを調べるためだ。
とはいえ、名簿を調べてくれているのはギルドの職員で、サイ自身は待つだけである。
今は少し離れた壁に、腕を組んで寄りかかっていた。
視線を落とすと、手首に巻かれたプロミスリングが目に止まる。
これはユーンが、パーティのみんなにくれた物だ。
プロミスリングには、樹の精霊ドライアドが宿っていた。
理屈はわからないが、人魚族に伝わるイセリアの精霊付与魔法で、精霊を定着させているらしい。
古代遺跡などで見つかる『精霊の加護』系のマジックアイテムと同じだが、効果は一回限りのため、どちらかと言えば月魔法が封じられたスクロールに似ている。
レシーリアとリアは、これのおかげで死なずに済んだ。
まさに『精霊の加護』というやつだ。
しかし、ドライアドの契約者であるユーンが死んでしまうと、その加護は発動できなくなってしまう。
そのためサイは、白亜の都市から帰る途中に、プロミスリングに宿るドライアドと契約を更新していた。
もちろん、カーリャ、ルー、ハーミアの分もだ。
レシーリアのプロミスリングは、一度ドライアドの力を解放してしまったため、すでに精霊は宿っていなかった。
イセリアに頼んで新たに作るという考えもあったが、自分の精霊力では、これ以上ドライアドと契約できそうになかったので諦めることにした。
そもそも自分達の分も『ユーンが契約をしていた精霊』を『ユーンに近しい精霊使い』だからという理由で、契約の更新を許されたようなものだ。
「これを、どうしたら受け取ってくれるのか」
サイが手首に巻かれたプロミスリングを見つめながら、ポツリと呟く。
自分は、水の精霊であるネレイデスと契約をしている。
召喚をすれば、いろいろな恩恵も受けられる。
そうなると、このプロミスリングは、精霊の加護を失ったレシーリアが持つべきだろう。
しかしレシーリアは、精霊の力を失ったプロミスリングを大事に持っている。
そこにはユーンへの想いと、仲間を守れなかった自分への戒めが込められているのだろう。
そんなレシーリアが、素直に自分のプロミスリングを受け取ってくれるとは思えない。
──それはサイが、ユーンからもらったものでしょ?
──ユーンからの想いを、簡単に手放すものじゃないわ。
「あぁ……言いそうだ。いかにも、言いそうだ」
辛辣な返事を想像しただけで、額に手を当て項垂れてしまう。
レシーリアはさっぱりとした性格だが、実は情に厚い。
もちろん軽い気持ちでとか、そんなつもりは毛頭ない。
ユーンの形見を持っていたいというのは、当たり前の気持ちだ。
レシーリアの持っているプロミスリングと交換をするとしても、やはり自分の物ではないと感じてしまうだろう。
そしてそれは、レシーリアも同じように感じるはずだ。
しかし、パーティの生存確率を上げるためなら、必要なことだと思うのだ。
「カーリャにでも、相談してみるか。一応、リーダーだしな」
しかしあの剣士は、こういった感情に疎い気がしてならない。
次に浮かんだのは、ルーだった。
ルーは、なぜだかレシーリアとよく行動を共にしている。
壁を作らないし、頭もよく、相談もしやすい。
年下ながらも、きっと良い案を考えてくれるだろう。
そんなふうなことを考えていると、ギルドの職員が声をかけてきた。
「サイさん、お待たせしました。先ほどの件、調べ終えました」
「すまない、助かる」
丁寧にお辞儀をする職員に対し、かるく会釈をして返す。
「一応、紙にまとめておきましたが、説明は如何いたしますか?」
「一通り目を通して、不明な点があったら俺の方から聞くよ。手間を取らせた」
職員は「そうですか」と言うと、一枚の紙を渡し、もう一度頭を下げるのだった。




