表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月のハナシ  作者: Ni:
赤い月 英雄の大剣 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/110

少年(5)

「お〜い、ユニコーンちゃん。こっちにエール酒、四つ追加だ〜」

「うるさい、酔っ払い。昼間っから飲んでないで、ゴブリンでも討伐してこい!」


 昼間の『碧の月亭』で給仕人として働くカーリャにとって、このやり取りは最早日常の一つだった。

 今や中堅冒険者としても認められ、店の看板娘としていじられ、馴染みの冒険者も増えてきていた。


 そんな酒場の端の席で、カーリャを横目に見ているのはサイである。

 サイは毎日釣りをしているか、酒場にいるかのどちらかだった。

 誰とも会話をせず、まるで気配を消して座っているかのようで、常連客からも影の薄い存在である。

 しかし今日に限りサイの座る席には、何度も視線が向けられていた。

 理由は、単純にして明確だ。

 同席している女性が、その原因で間違いないだろう。

 銀色のストレートロングの髪と、透き通るような青い目。

 なによりもその美しい顔立ちが、男達から視線を集めてしまうのだ。


「本当に、今日帰ってくるのでしょうか?」


 同席しているのは、ハーミアだった。

 ハーミアは普段、ブラン卿の元で家事などの手伝いを行なっている。

 なにか用でもない限り、酒場に現れることはない。

 その理由も簡単で、言い寄ってくる男を避けるためだ。

 幸い今日はサイがいるため、誰も近寄ってこないので、ハーミアも安心だった。


「レシーリアからの手紙が正しければ、そうなんだろう。ああ見えてレシーリアは、時間に厳しいからな」

 

 サイは話しながら、細かく折られた手紙を取り出す。

 手紙には、こう書かれていた。


“明日もどる。訳あって、人をひとり匿いたい。狼の女の豪邸に、都合をつけてほしい。とりあえず、いつもの場所で落ち合おう”


 この手紙は昨日、ルーの使い魔である黒い梟が、サイの元に運んで来たものだ。

 狼の女はハーミアのことで、豪邸はブラン卿の屋敷のことだろう。

 いつもの場所とは、まさにこの酒場のことだ。


「極端に情報を削っているのは、この手紙が俺の手に届かなかった時のことを考えて……だろうな」

「誰にも知られたくない……匿うのは、犯罪者とかなのでしょうか?」

「いや……もし危険な人物なら、ブラン卿の屋敷に置かないだろう。そこには、ハーミアもいるんだからな。むしろ匿う人物は相当に弱く、守るのが困難……とかだと俺は思う」


 サイが手紙を、テーブルにある蝋燭で燃やしてしまう。


「カーリャには、話したのですか?」

「あぁ、ついさっきな。わざわざカーリャじゃなく、俺に送ってきたんだ。そういう意味だろ」

「私はカーリャが、それほど口が軽いとは思いませんが」

「口は硬いさ。ただ顔に出るからな、あいつは」

「それは……そうかも」


 ふふ……と、ハーミアが笑う。

 それだけでハーミアを意識していた男達が色めき立つのだから、本当に大変なんだなとサイは再認識していた。

 そこで不意に、テーブルの上にエール酒がひとつ置かれる。

 見ればそこには、黒い魔法の革鎧と外套に身を包んだ冒険者が立っていた。

 いつの間にと思うが、あの防具には隠密効果が高まる魔法が付与されている。

 加えて彼女は、手だれの盗賊だ。

 気がつかなくても、仕方のないとだろう。


「ごめん。先にブラン卿のところに寄って、護衛対象を預けてきた。手紙の内容、汲み取ってくれたみたいね」

「おかえりなさい、レシーリア。ルーはどうしたのですか?」

「護衛対象と一緒に、置いてきたわ。とりあえず状況を説明したい。二階の部屋を借りたから、とりあえず移動してくれる?」

「カーリャは、どうするんだ?」

「ルームサービスでもして、時間差で呼びつけるわ」


 レシーリアはそれだけ話すと、エール酒を一気に飲み干し、二階に続く階段へと向かう。

 冒険者達の酒場『碧の月亭』の二階は、宿になっている。

 部屋は小さいが、四人が入るだけなら問題のない広さだ。

 レシーリアはそのまま窓際へと行き、警戒するように外を見ながら出窓に腰をかける。

 サイは壁を背に、腕を組んで立っていた。

 ハーミアは自分の居場所を見つけるのに少し迷ったが、とりあえずベッドに腰をかけることにした。

 しばらくしてカーリャも現れ、ハーミアの隣に座る。


「まずはユーンの冒険者タグ。特にトラブルもなく、無事に渡せたわ。両親には全てを説明できたし、報告も受け入れてくれた。ユーンと同じ……とても優しい人たちだったわ」


 トラブルとは冒険者タグの受取拒否や、死の責任を報告者に追及する行為などだ。

 こういったトラブルは意外に多く、カーリャ達のように結果を待つ側としては、ここでようやくの一安心ということになる。


「ここからが、本題。レーナへの帰路の途中……ちょうど三日前のことよ。街道沿いで、賊に襲われている子供がいてね」

「子供?」


 カーリャが聞き返すと、レシーリアが頷く。


「年齢は十二歳。人間の男の子で、名前はフューイ。ギャザリンの村からレーナに向かっていたらしいわ」

「その子を保護したというわけですか?」


 ハーミアが質問をする。

 ハーミアとしてはブラン卿の屋敷で匿う人物について、よく知る必要があった。

 それはブラン卿への安全を確保するためでもあり、そこに住む自分のためでもあるからだ。


「保護したということは、継続的に狙われているということですか?」

「今はまだ、その可能性が高いとしか言えないわ」


 さすがに鋭いわねと、レシーリアが腕を組んで頷く。

 すると今度は、サイが問いかけてきた。


「狙われる理由は、これから調べるのか?」

「そうね。フューイについては盗賊ギルドと冒険者ギルド、どちらも調べる必要があるわ。それから一番の問題については、月魔術師ギルドで調べるしかないわね」

「一番の問題?」


 カーリャが首を傾げる。


「フューイが常に、大事そうに持っている荷物があってね」

「それが狙われているの?」

「そうよ、カーリャ。物は魔法のグレートソード……それも、ランク4よ」


 その一言で、一気に場の緊張感が高まる。

 明らかに、それが問題だからだ。

 この街でそんな物を持ち歩こうものなら、たちまち襲われてしまうだろう。


「そ……そんな物、どうして持ってるの? もしかして、その子が盗んだとか?」

「それだと匿っている私まで、お尋ね者になるわね」


 レシーリアが、カーリャに対し笑いながら答える。


「あれの持ち主は、フューイで間違いないわ」

「なぜ、そう言える? 確信があるのか?」

「あの魔法剣ね……おそらくはだけど、所有者にしか軽量化の魔法が発動しないのよ。私じゃ、持ち運ぶことすら困難な重さよ。フューイはまだ身長が足りてないから振ることはできないけど、持ち運ぶことはできていたわ」

「所有者を選ぶ剣ってことか?」

「あるいは所有者を名指しで指名して、継承していく剣ね」


 レシーリアの考えでは、継承する魔法剣だと睨んでいる。

 もし継承するのであれば、フューイを殺すわけにはいかない。

 なぜならば現所有者のフューイから、名指しで継承してもらわなければならないからだ。


「あれほどの物を狙うのに、賊がモタモタと殺さずにいるはずがない。おそらくは、フューイごと必要なのよ」

「なるほど。それで、護衛というわけか」

「そういうこと。これから私たちはフューイの話を聞いて、ギルドで必要な情報を集めることになる。ただあの子は、まだ子供よ。大勢で取り囲んで質問をすることは、得策じゃない。話をするときは、多くても二人までよ」


 レシーリアは皆が頷いたことを確認すると、あらかじめ考えていた役割を説明しはじめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ