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満月のハナシ  作者: Ni:
赤い月 英雄の大剣 

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105/110

少年(4)

 港町レーナにある酒場『碧の月亭』は、冒険者たちの溜まり場として有名だ。

 理由のひとつとして、仕事の依頼が掲示されたクエストボードが設置されていることにある。

 冒険者たちは食事のついでに、とりあえずどんな依頼があるのかを見にくるのだ。

 さらに二階は宿となっているため、ここを拠点とする冒険者も多い。

 カーリャの場合は『碧の月亭』の給仕人“兼”用心棒として、住み込みで働いている。

 収入の安定しない冒険者にとって、宿代と飲食代を確保できることは大きなメリットだ。

 それに酒場で働いていると、自然と有用な情報が耳に届く。

 特に強さを求めるカーリャにとって、討伐依頼の話はついつい聞き入ってしまうものだった。

 その中でもひとつ、どうにも気になる話がある。

 最近はずっと、その話で頭がいっぱいだ。


「まさかね……」


 剣術の練習を終えたカーリャが地べたに寝そべり、自らの冒険者タグを目の前に持ち上げる。

 青空をバックに輝く銀のプレートには、『一角馬(ユニコーン)』の横顔が刻印されていた。


「なんや、お前。また、そないなもん眺めとるんか」


 王都ルーファンや港町レーナではあまり聞かない西方訛りの男が、立ったまま見下ろしてくる。

 白い短髪にギラギラした目、褐色の肌とたくましい腕。

 カーリャを鍛えていたのは、リアの冒険者仲間である『双拳』サラスだった。

 サラスは格闘家でありながら、リアに二刀流の剣術を学んだ稀な存在だ。

 師匠不在のカーリャにとって、まさに適任の先生である。


「そんなん眺めとっても、強うなられへんで?」

「そんなの、わかってるもん」


 口を尖らせて、体を起こす。

 ここは郊外にある、サラスの小屋だ。

 カーリャは毎朝ここに通い、サラスに稽古をつけてもらっていた。


「ま、ユニコーンになれたのは、俺のおかげやけどな」

「それも、わかってるもん」


 サラスの話は、冗談のようで本当の事だった。

 カーリャは道場剣術として高い技術を持っていたが、実戦経験が圧倒的に足りなかった。

 そのためサラスには実戦に近い戦闘を、徹底的に叩き込まれていた。

 冒険者ギルドの昇級審査で高い評価を得られたのは、まさにその部分だ。


「せやけど俺が剣術を教えるのも、そろそろ限界やで。いくらなんでも、専門外やからな」

「まぁ、そうだよね。でもサラスの格闘術は役に立つから、それはそれで教わりたいんだけど」

「がめついうの。ええけど……剣術はリンダに教えてもらえ。話はしといたるから」


 たしかリンダは、リアの旧パーティ『スパイクス』のメンバーだ。

 『双拳』サラス、『影踏み』キーン、『スリ足』リンダ……そして『生還する者』リア・ランファースト。

 どれもレーナでは、有名すぎる冒険者だ。


「リンダは怖いでぇ。リアですら、恐れとったしな」

「ふうん。でも強くなれるなら、なんでもいいよ」


 そう言って、冒険者タグを服の中へしまう。


「ねぇ、サラス」

「なんや?」

「最近さ……魔族の討伐ばかりしてる黒ずくめの剣士がいるって話……聞いたことある?」


 カーリャが、目を合わさずに聞く。


「あぁ〜、そういや噂になっとるな。依頼が貼られても、数日で討伐されるってやつやろ?」

「そうそう。匿名希望で仕事を受けているらしくて、誰がやっているのか分からないんだけど……そういうの、知る方法ってある?」

「そりゃあ、盗賊ギルドで情報買うしかないな」

「やっぱり、そうかぁ」


 項垂れるカーリャに、サラスが首を傾げる。


「なんや? お前んとこ、有能な盗賊がおるやろ。レシーリアやったら、すぐに調べられると思うで?」

「そうなんだけどね」


 やはり頭を抱えるカーリャ。

 それはカーリャにとって、一番難しいことだ。


「単騎で魔族を倒せるのって、どれくらいの等級だと思う?」

「魔族いうても、ピンキリやからなぁ。ただ、あれだけ相手を選ばずに狩りまくるとなると、竜騎(ドラグーン)か、九頭龍(ヒュドラ)あたりやろな」

「そんなの、サラスみたいな超有名な伝説級冒険者じゃん」

「せやな。あとは特効武器でも持ってれば、弎頭狼(ケルベロス)あたりでも可能かもしれへんな」


 その言葉にカーリャは、思わず息をのんだ。

 現在のレシーリアの等級については、誰も知らない。

 しかし特効武器については、よく知っている。

 カーリャはそれだけで、妙な胸騒ぎがしてしまうのだった。

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