少年(1)
冒険者の多くが、冒険者ギルドに登録をしている。
ギルドといっても月魔術師ギルドや盗賊ギルドほどの恩恵はないのだが、入会料はわずか銀貨百枚で、追加の上納金も必要ない。
その敷居の低さから冒険に出るなら、とりあえず入るものとされている。
そして特徴的な恩恵のひとつが、登録すると支給される銀製の冒険者タグだろう。
冒険者タグは、刻印されたマークの種類で冒険者としてのランクが見分けられるほか、他の街に移動した際、その街の冒険者ギルドで証明書代わりにもなる。
自由に生きる冒険者にとって、その身を証明できることは実にありがたいことだ。
陽気のいい街道を歩いていたレシーリアが、自らの冒険者タグを胸元から引き出す。
銀のプレートにはレシーリアの名前と共に、『弎頭狼』の横顔が刻印されていた。
冒険者ギルドでは上から『竜騎・九頭龍・弎頭狼・天馬・一角馬・大鷲・無印』の順で、ランクが評価されている。
パーティ内だとカーリャは『一角馬』で、他は『大鷲』だ。
見聞の乏しい者からすれば『大鷲』は下から二番目のランクで、大したことがないように見えるだろう。
しかし実際は、登録している冒険者の半数以上が『無印』であり、全員が『大鷲』以上の時点で、自分たちのパーティは初級冒険者を卒業していることを意味している。
カーリャの場合、冒険の実績は皆と同じなのだが、戦闘力が頭ひとつ飛び抜けており、それだけで評価がワンランク上がっているようだ。
ちなみにカーリャの『一角馬』は、中級冒険者の仲間入りをしたといった感じだろう。
レシーリアが『弎頭狼』まで上がったのは、白亜の空中都市から帰還してから、しばらく後のことだった。
もちろん今回の昇格には明確な理由があるのだが、何をして評価されているのかは誰にも話していない。
それは極めてレシーリアの個人的な行動の結果であり、仲間たちには話せないというのが実情だった。
「冒険者タグ、渡せてよかったね」
隣でレシーリアの顔を覗き込むようにして話しかけてきたのは、ルーである。
今回はルーとの二人旅で、目的は既に達成している。
今はその帰りの街道である。
「そうね」
レシーリアが目を合わせずに、素っ気なく答える。
この旅の間、ルーはレシーリアを気遣ってばかりだった。
それもこれもレシーリアが、ユーンの死について必要以上に、責任を感じないようにするためだ。
もちろんレシーリアも、ルーの気遣いには気付いている。
ただそれでも、いつものような軽い受け答えは取り戻せていなかった。
理由は簡単で、既に達成したこの旅の目的にあった。
冒険者タグは、二枚一組で支給される。
二枚一組で支給されることには、もちろん意味がある。
一枚は命を落とした冒険者のもとに残し、もう一枚は持ち帰るためだ。
持ち帰った冒険者タグは死亡証明となり『剣の石碑』という、冒険者の共同墓地に納めることができる。
ユーンの場合は、回収した『無印』の冒険者タグが石碑に納められ、さらに空中都市での冒険の功績により『大鷲』へと特進し、新たな冒険者タグが一枚だけ支給されていた。
これは名誉の特進を意味していて、実際は遺族への報告用である。
つまり、この冒険者タグをユーンの両親に届けることが、今回の旅の目的だった。
ユーンが生まれ育った村は、レーナから歩いて一ヶ月以上はかかる、小さな山間の中にあった。
ユーンの父親はレシーリアを見て、すぐに来訪の理由を理解したようだった。
レシーリアは扉の前で、ユーンが成し遂げた冒険の話をすべて伝え、冒険者タグを渡した。
母親はただただ涙を流し、父親は誇らしげに笑いながら頬を濡らしていた。
レシーリアはそれ以上の言葉をかけることもできず、滞在を誘われたがそれも断り、その日のうちに立ち去った。
「レーナに帰ったら、冒険の再開だよね?」
強いな、この子は……と、レシーリアが心の底から感心をする。
いや……強いのではなく、強くなろうとしているのだろう。
帰りの旅路も、ずっとこの調子なのだ。
自分もいい加減、立ち直らなければいけない。
「そうね。リアのこともあるし、他にもやらなきゃいけないことが山積みだわ」
「レシーリアは、何か目的ができたの?」
「まぁね」
やはりレシーリアは、素っ気なく答える。
しかしルーは、やらなくてはいけないことについては話す気がないのだろうと、レシーリアの考えを正確に読み取っていた。
「目的のために必要なものは、お金でしょ?」
ルーの鋭い質問にレシーリアは驚き、思わず目を見開いてしまう。
それはルーの考えが正しいと、言っているようなものだった。
「やっぱりね」
「何が……?」
「うぅん。レシーリアが自分から話さない限り、僕からは何も聞かないよ」
「あら、生意気にもいい男みたいなこと言うのね」
「だって本当にお金のことだけなら、ブラン卿や僕に頼めばなんとかなるはずだもん。それをしないってことは、何か自分の中で、自分がしなくてはならないことだって思ってるんでしょ?」
「ほんと、すっかり生意気ね」
レシーリアは観念したのかのように、ため息をつく。
この子は真っ直ぐに私を見ているから、こうして見透かす事もできるんだろう。
他の仲間たちは気づいていないだろうに……と、レシーリアはわずかに口元を緩めた。




