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熊猫パンチドランカー  作者: 藍澤ユキ
8/18

夕暮れカリー/ビアまみれ/あこがれ

 遊鳴荘の共用キッチンでは晶良が黙々と調理をしていた。


 遊鳴荘は一階の共用玄関から階段を上がっていくと、まず、キッチンとダイニングのある共用スペースに出る。その空間を抜けて廊下を進んでいくと、左右に部屋が並んでいて、部屋は全部で5つあった。今現在は珍しく空室が多く、住人は辰生と晶良だけだった。


 晶良は具材をすべて寸胴鍋に入れて火にかけると、冷蔵庫にビールを一本ずつ入れていく。昨日、スーパーのくじ引きで幸運にも当たった秘蔵の一箱だった。


 空になったビールのダンボール箱を畳んでいると、玄関で呼び鈴が鳴らされた。キッチンは玄関のちょうど真上に位置しているので、手近な窓を大きく開けて晶良は下を覗き込む。すると、玄関前に立って、窓を見上げていた薫とちょうど目が合った。


 晶良の後に続いて階段を登りながら、薫は今日の訪問目的について話しはじめた。


「こ、この間、撮った動画を編集したので持ってきました。いや、別にどっかのストレージにデータを上げてもよかったんですけど、近くまで来る用事があったのでついでにと思って……」


 手に持ったUSBメモリーを弄びながら、薫は落ち着きなく早口気味に喋る。


「そうなんだ、わざわざ悪かったね。ありがとう」


「あっ、あと、えっと、今度の土曜日に、原宿に行きませんか? って、あっ、いや、二人きりって意味じゃなくて、み、みなさんいっ、一緒にです。っというのも、知り合いが衣装を作ってるバンドがライブやるんですけど、チケット貰えそうなんですよ。そのバンド、結構人気があるみたいで、毎回チケットはソールドアウトで入手困難なんだとか……」


 言いながら、薫はさらに落ち着きなく、髪の毛を指先でちまちまと弄る。


「へぇー、すごいね。ウチにしてもソールドアウトはなかなか難しいみたいだからね。たまには他のバンドを観るのも刺激になっていいかもしれない。みんなに訊いてみようか。そうだ薫ちゃん、話し変わるけど、いまカレー作ってるから、よかったら食べていかない? 辰生さんも戻ってくると思うからさ」


 肩越しに薫を振り返りながら晶良が尋ねる。


「まぁ、フツーのカレーなんだけどね」と続けると、晶良はキッチンカウンターに置いてあったカレールウの箱を薫に見せた。


 ポピュラーな銘柄なので、そのカレールウの味はすぐに想像できたが、晶良お手製の料理が食べられるとあって、薫のテンションはにわかに上昇した。


「食べますっ! 食べますっ! ぜひ、いただきますっ!」


 授業で答えがわかった小学生ばりの勢いで、薫は挙手をしながら声を張った。


「じゃあ、もう少し時間がかかるからさ、そこのソファにでも座って待ってて」


 そう言って晶良は、ダイニングテーブルの向こうに鎮座しているソファを指し示した。


「はい。――あぁ、そうだった。動画ファイルと一緒におすすめの本も何冊か持ってきたんです。ぜひアッキーさんに読んでもらおうかと思いまして……」 


 勧められたソファに向かいかけた薫が、立ち止まって鞄をガサゴソやりはじめる。


「おー、ありがと。じゃあさ、悪いんだけど俺の部屋のテーブルに置いといてくれない? 鍵は開いてるから。5号室ね」


 片手にお玉を握り締め、真剣な面持ちで鍋のアクを取り除いていた晶良は、視線を上げることなくそう答えた。


「はいはーい、5号室ですねぇ」


 薫がスリッパをペタペタさせながら廊下を進んでいくと、すぐにドアを開閉する音が聴こえてきた。


 アク取りに熱中していた晶良がふと我に返ると、薫がなかなか戻ってこないことに気が付いた。「あれ? どうしたんだ?」と、不審に思った晶良は、コンロの火を弱火にすると自分の部屋へと向かった。


 すると、部屋のドアは大きく開け放れていて、内側に貼ってあったAC/DCのポスターが見えていた。晶良の部屋のドアは立て付けが悪く、施錠していないと勝手に開くことがよくあった。


 開いたドアから部屋の中を覗いてみると――晶良のベッドでうつ伏せになった薫が、枕に顔をグリグリと押し付けながら脚をバタバタさせて悶えているのが見えた。


 これは……見てはいけなかったのでは――晶良は一瞬迷ってから恐る恐る声をかけてみる。


「――あのぉ……薫ちゃん……?」


 不意に声をかけられた薫は全身をびくっとさせると、ゆるゆると晶良の方へ首を向けた。


「っ! あっ、いや、これは違うんですっ! 別に匂いを嗅いでたとかじゃないんです! ちょ、ちょっとなんです! ホントなんです!」


「…………」


 何が違うのか、薫による予想外の妙な自白に晶良が何も言えないで硬直していると、さらに薫があたふたと続けてきた。


「っいや、なんというか、ほら、ちょっと横になりたいなーとか思っちゃって……そうだっ、疲れてたんですよ!? 疲労です! 疲労っ! ついフラフラと……」


 枕を抱きしめたまま薫は起き上がると、顔を真っ赤にしながら無理筋な理由を力説した。


「ん、あぁ……あるよね!? 横になりたい時っ! そうそう! 疲れてると特にねっ!?」


 なぜだか晶良も赤面しつつ、慌てて誤魔化すように話しを合わせた。


「ですよねー」


「そうそう、あるある」


「…………」


「…………」


 二人共、気まずさと恥ずかしさとで、いろいろと限界が近づいていた。


「そ、そうだ! そろそろルウを鍋に入れないと……いやぁ忘れてたわっ!」


 声を上ずらせながら棒読みの台詞のように晶良はそう言うと、ドアからジリジリと離れはじめた。


「そ、それはマズイですね!? 早く行かないとです! さぁ、アッキーさん、行ってください!」


 ベッドの縁に腰を掛けたまま、薫が両腕をバタバタさせて晶良を促した。


 晶良はキッチンに戻りながら、混乱した頭を整理してみる。あれはいったい何なのだろう。匂いを嗅いでいた? 何のために? 薫ちゃんは匂いフェチなのか? いや、でも、そういうのって無差別にやるもんなのかね? 何だか今日の薫ちゃんは来た時から様子が変だし、何かあったのかな……。


 そんなことを考えながら、鍋の火を一旦止めてカレールウを投入していると、不意に後ろから声をかけられた。


「アッキー、もう出来た?」


 晶良がビクッとしながら振り返ると、階段を上がってきた辰生がキッチンの様子を窺うように首を伸ばしていた。


「もう少しで出来ますよ。あと、ちょうど薫ちゃんが来たんで誘っておきました。いいですよね?」


「薫ちゃん? もちろんOKだけど、最近、女の子がよく此処に来るよね? アッキー、なんかモテモテじゃない? ズルくない!? ヒドくない!?」


 辰生が口を尖らせながら晶良を(なじ)っていると、ちょうど晶良の部屋から薫が出て来た。


「あ、たっちんさん、こんにちはー」


「薫ちゃーん、アッキーはこう見えてもエロいから気をつけた方がいいよぉ? うかつに部屋なんて入ったら襲われちゃうからね? いやなに、実はこの間もね――」


「うわっ! 辰生さんっ!?」


 晶良が慌てて辰生を止めに入る。このまま喋らせていたら、どんな脚色をされるかわかったもんじゃない。そんな晶良の慌てる様子に薫は一瞬きょとんとしていたが、何かを察知したらしく、大きな瞳を怪しく光らせて辰生の話に喰い付いた。


「『この間もね――』ってなんですかぁ!? アッキーさんがエロいって、むっつりの変態ってことですか!? でも、どうていさんなんですよね!?」


「いや、薫ちゃん。むっつりの変態は正解だが、最後のやつは違うかもしれないぞ?」


 辰生はソファにどかっと腰を下ろすと、わざとらしく宙を蹴ってから脚を組んだ。


「……辰生さん。カレー、あげませんよぉ!?」


 晶良が頬を引き攣らせながらお玉を強く握りしめる。


「いやー、ウソウソ! 冗談だってばアッキーっ! 薫ちゃんも今のは忘れて!? 俺、腹ペコなんだって! アッキーの美味しいカレーが食べたいなぁー!?」


 辰生は慌ててソファから立ち上がると、縋りつくように晶良に懇願した。


「そ、そうだ、シーナちゃん来なかった!?」


 なんとか話題を逸そうと辰生が二人に尋ねる。


「シーナですか? いや、来ませんでしたけど……」


 晶良が思い出すように首を捻っていると、薫も首を左右にふるふるとさせた。


「あれ? アイデアスケッチ持ってくるって言ってたんだけどな……」


 辰生の言う『アイデアスケッチ』とは、シーナが曲作りに使っているノートやレコーダー一式の総称だった。


 シーナはアイデアスケッチに曲の断片やギターリフ、歌詞に鼻歌やキーボードなど、思いつくままにすべて詰め込んでいて、それらを元に辰生がマッシュアップしたりアレンジしたりして、熊猫パンチドランカー用の曲に仕上げていた。


 ほとんどの場合、シーナはアイデアの断片ばかりを貯めこんでいるのだが、時々、きっちり譜面に起こしてくることがあった。


 辰生に言わせると、どうもシーナはクラシックの素養があるらしく、アイデアスケッチや譜面からは、その影響が伺えるらしい。しかし、クラシック要素を辰生が全面に押し出そうとすると、シーナはことごとくボツにして採用しなかった。


「アッキーも入ったからさ、そろそろ新しい曲に取り掛かりたいと思ってんだけどなぁ。シーナちゃん、結構テキトーだから――」


「――テキトーが服着てベース弾いてるような、たっちんには言われたくないわっ!」


 すると突然、シーナが階段のところから現れて、辰生のボヤキを鋭く遮った。


「おいでませ! お嬢様っ! お待ちしておりました」


 辰生がものすごい反応速度でうやうやしく(かしず)いてみせる。


 この変り身の早さとテキトーさはある意味尊敬に値するな、と晶良は感心する。


「あれっ!? かおるん!? 来てたんだ」


 それまで辰生の長身に隠れていた薫の存在に気付くと、シーナは少し驚いて声をあげた。


「ど、どーも、シーナさん。こ、こんにちは」


 薫はいたずらが見つかった子どものように、少し取り乱しながら挨拶を返す。


「どうしたの? ちょっと様子が変だけど……こいつになんかされたの?」


「なんもしてないぞっ!」


 シーナに指をさされた晶良が、むくれながら話に割って入る。


「すぐにそういう発想に持ってくのやめろよな、まっく失礼な。それはそうと、シーナもカレー食べる?」


 料理の腕には少し自信のある晶良は、食べてくれるお客が増えることは大歓迎だった。


 夏の夕日に照らされて茜色に染まった共用ダイニングのテーブルに、四人分のスプーンと麦茶を入れたコップが並ぶ。ちなみに麦茶は晶良が毎日沸かしているものだ。


 辰生が持ってきたプレーヤーからPファンクが流れる中、カレーが一皿ずつ給仕されていく。すると、辰生が急に声をあげた。


「あれ? これフツーのカレーじゃん!? 本格インドカレーって言ってなかった!?」


「いや、インドネシア風のつもりだったんですけど、ココナッツミルクを買うの忘れてちゃって……フツーのカレーになりました。すみません、インドネシア風はまた今度ということで」


 晶良が笑ってやり過ごそうとするが、辰生は追求の手を緩めない。


「本格インドカレーを喰わせてやんよ! マジでビビるぜ!? とか言ってたくせに、おうちのカレーじゃんかぁ!!  本格的家庭の味ってか!?」


「だからインドネシア――って、そんな言い方してません!」


「インドネシア風ってココナッツミルク使うんですか?」


 薫が興味津々の様子で話題に喰い付いてきた。


「そうそう、エビと玉ねぎでね、ナンプラーが決め手なんだよね」


「美味しそうですねぇ! それはまた今度なんですね? んじゃ、その時はまた呼んでくれますよねっ!? ねっ!?」


 大きな目を見開いて妙に力みながら薫が身を乗り出してくる。


「――アッキー、ソースちょうだい」


 そんな薫の勢いを削ぐように、横から辰生が冷蔵庫を指さす。


「人使いが荒いなぁ」と言いながら、晶良は冷蔵庫から中濃ソースを取り出してテーブルに置いた。


「違うでしょ、アッキー! カレーにはウスターソースでしょ!? 小学校でなに習ってきたのさ!? 義務教育に謝れっ!」


「えっ? 中濃ですよ、カレーは?」


「いえいえ、カレーには醤油ですよ! なに言ってんですか二人とも! 調理実習からやり直してください」


 薫が醤油差しを手にして、本格的家庭の味論争に参戦してきた。


「ま、まさかインスタントコーヒー入れたりしないよな!?」


「わたしはチョコレートなら入れますね!」


「中濃もいいけど、オイスターソースもうまいですよ」


「いいからウスターソースで食べてみなって! ほら!」


「あー! たっちんさん、勝手に入れないでくださいよ! ってか、なんで、いただきますしないで食べてるんですかぁ~! ダメですよぉ! ――いただきます!」


「――ふーん、家のカレー……ね」


 そんな喧騒の中、シーナが独り、ぼそっと呟きながら静かにカレーを口に運んでいた。


「トマト入れても美味しいんだよ、これが」


「わたしのウチでは野菜ジュース使ったりしますね」


「オイスターソースもいいけど、麺つゆもうまいですよ」


「アッキー! おかわりちょーだい!」


「はいはい。あ、薫ちゃんもお皿空きそうだけど、おかわりいる? 少なめに盛ってあったからね、まだ食べられるでしょ?」


「じゃ、少しだけください。なんか完全におうちカレーですねぇ」


「あっ、シーナもおかわりする?」


 晶良に訊かれたシーナは、スプーンを咥えたまま逆に尋ねる。


「――あんた、なんだか嬉しそうね? なんで?」


「んー、そうだなぁ……みんなが楽しいと嬉しくなるんだよね。まぁ、人間が単純なんだよ」


 そう言うと、晶良は屈託のない無防備な笑顔をシーナに向けた。


 その瞬間、シーナの胸の奥で何かがトクンと小さく跳ねた。それはシーナ自身にも、ちょっとした驚きだった。


 自分の心の揺らぎに、シーナは慌てて俯くと「あ、あっそ……」と小声で呟いた。


「ん? どうかしたのか?」


 晶良が俯くシーナを覗き込む。ポニーテールにしたシーナの白いうなじには、薄っすらと少し赤みが差していた。


 すると、シーナは突然、がばっと顔を上げて、


「お、おかわり、早くしなさいよ! 軽くだからねっ!? ホントにトロいんだから!」


 憎まれ口を叩きながら、皿を晶良の方へずいっと突き出してきた。


「可愛くねぇー。んじゃ、大盛りにしてやる! いっぱい喰って大きくなっちまえ!」


 カチンときた晶良はドカっとご飯を盛り付けると、カレーもたっぷりなみなみによそった。


「きゃーっ! あんた、ホントに大盛りにしたわねっ!?」


「ほれ、喰え! ぜんぶ喰ってむちむちになれっ!」


 シーナの前にドンっと音を立てて皿が置かれる。


「――アッキーはむちむちが好きなんだなぁ、やっぱり」


 辰生が三杯目のカレーを食べながら、うんうんと頷きながら独りごちる。すると、麦茶を一気に飲み干した薫が、空になったコップをテーブルにガンっと勢い良く叩きつける。


「やっぱりって、どーいうことですか!? たっちんさん、何かご存知ですね!?」


「えっ? いや、ほら、例のアッキーの元カノ。むちむちだったじゃん? おっぱいがこう、けしからん感じで、こう、こう……ん? あー、いや、だからさぁ、ああいうのタイプなのかなーと。この間も泊まっていったし……」


 卑猥な手つきで説明をしていた辰生が、はっとして口をつぐんだ時にはもう遅かった。薫とシーナが同時に晶良の方へものすごい勢いで顔を向けた。


「ア、アッキーさん! むちむち元カノとよろしく現在進行形なんですか!? っていうか、誰ですかそれ!?」


「あの発情おっぱいタヌキ、やっぱり元カノだったのか!? 脱どうていっ!? 脱どうていなのっ!?」


 二人に猛然と詰め寄られた晶良は、テーブルの下で辰生の脚をぎゅっと踏み付けた。


「っあた! いや、そーだ、元カノじゃなかった……間違えた。泊まりも……不可抗力ってかなんてゆーか、誤解? ……うんうん」


 目を泳がせて辰生がしどろもどろになりながら訂正をすると、


「本当ですかアッキーさんっ!?」と、薫が身を乗り出してきた。


「ホントだって。そもそも仙波とは付き合ってないし、この間だっていろいろ事情があってのことで、やましいことなんてないから!」


 なんで俺がこんな言い訳しなきゃいけないんだろ、と思いながら晶良は必死になって弁解をした。


「――なんだ、そうですかぁ」


 晶良の説明を聴くと、薫は安堵の様子で椅子に座り直した。


 一方、隣のシーナはテーブルに頬杖をつくと、


「どーだか。怪しいもんよね」


 晶良を半眼で睨みながら、ふんっと鼻を軽く鳴らす。


「ビ、ビールでも飲もうかなぁ……」


 自分で招いた不穏な空気に耐え切れず、辰生がそろそろと立ち上がり冷蔵庫へ向う。


「――シーナちゃんも、飲む?」


「もらうわ」


 一度飲みはじめると、辰生とシーナは驚異的なペースで空き缶を積み上げていった。


「アッキーっ! お前も飲むんだ! アッキーだって悪いんだからなっ!?」


「そうよ! あんたが、だらしないのが悪いっ! どうていのくせにっ!」


 だいぶ酔いの回った辰生とシーナに無理矢理飲まされる晶良。


「いや、ちょっと、俺はそんなに飲めないですよ!?」


「飲めっ! そして歌えっ!」


 辰生が、いつの間にか持ち出してきたアコギを掻き鳴らすと、シーナがポリバケツの底を叩いてリズムを取りはじめる。


「苦情が来ちゃいますって!」


 晶良が二人の対応に苦慮していると、唐突に横から薫に抱きつかれた。


「アッキーしゃぁんっ! うらってくらさいよぉー」


「ちょっ、薫ちゃ――うわぁ、酒臭い!」


「飲むんだぁぁぁ、アッキーぃぃぃっ!」


 日も暮れてすっかり夜になると、開け放った窓からは、少しだけ涼しい風と虫の音が入ってくる。遊鳴荘の共用キッチンには、小さな寝息に混じって時折、大きないびきが鳴り響いていた。


 大いびきをかいている辰生は、晶良ともつれるようにそのまま床に寝転がり、薫はビール缶を片手にテーブルに突っ伏している。そして、シーナは薄い笑みを浮かべながら、幸せそうにソファの上で丸くなっていた。


 ――遊鳴荘の蒸し暑い夏の夜は、こうして更けていった。

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