†水面その10
「水夫と人魚」
あなたは溺れる海の上
もがいて誰かの手を乞いている
あなたが好きで乗った船で
あなたが好きで踊った恋で
あなたがどう溺れても私は知らない
誰かがあなたを落としたの
大きい帆のある大きな船から
いい気になって笑っているあなたを
そうして波間で足掻くあなたを
こうして私は静かに眺める
心が満たされてゆく
本当にあなたが私を必要としていること知ってる
本当は私はあなたを要らないことを知ってる
でも忘れることは許されない
あの日 森でつないだ手が
今は誰を探して水面を漂うの
勝手に船に乗ったのよ
勝手に私を道連れにして
勝手にどこかの港に寄って
勝手に私を地下室に閉じ込めて
自分はどこまでも泳げると勘違いして
だから今 心が満たされてゆく
溺れてゆくあなた
何も語らなく助けを求めないことで
私を欲しがっていることがここから見える
甲板は火の海
何処にも岸辺は見えないわ
あなたが好きでこの海原に船を出したの
今さら何を許せというの
本当は何にも大切なことは見ないくせに
自分だけが過酷だと思ったでしょう
自分だけが孤独だと思ったでしょう
一度でもあなたが
私の祈りに応えたかしら
きっと応えたつもりでいるのでしょう
そうして自分にしている甘やかしの言い訳に気づかない
悪気がない分始末が悪い
誰かを傷つけていることを知らない
そして
あなたが勝手に溺れているの
あなたが勝手に波間に落ちたの
心が満たされてゆく