星の宿
「見てごらん。今夜は星がよく見える」
「んー? あ、ホントだ、星だらけっ!!」
寝転がった相棒のミストに言われて、オレ、シェタも空を仰いだ。
「こーゆーのをさ、『マウンテンのホシゾラ』って言うんだろ?」
オレって物知り。
「『満天の星空』」
相棒の方が、まあ、オレより物知りだけど。ちょびっとだけな。
「――なあ、あの星、赤くてすごい目立ってる」
一個だけ、真っ赤な星を見つけたオレは指をさす。
「ああ……あれは――」
ミストは、休ませていた身体を起こす。
ここは小高い丘の上。
丈の低い草がよく茂って、一休みにはちょうどいいって相棒が言ってた場所だ。
今はもう陽は落ちて、星の光だけが頼りの世界に変わっている。
草も。道も。土も。そして、オレとミストも。
「なんであんなに赤いんだ? なあ、ミスト?」
オレは、あの星のことが知りたくて、オレよりちょびっと物知りなミストに訊ねる。
相棒、オレの顔を見てちょっと笑いやがった。
でも、全然嫌じゃないから許す。
「あの星の土が赤いからさ。鉄の錆のようなものが多く含まれている」
「へぇー。
オレはてっきりあの星が燃えているのかと思った」
スゲーな。おもしろいな。
オレたち、あの星の土の色見てるんだ。
でも、ま、手を伸ばしたら届きそうな近さだから土の色がわかって当たり前か。
「そのうちあの星に行って、小瓶に土をいれようぜ、ミスト」
その提案に、ミストのやつ、また笑ったんだ。
オレのこと、やっぱおもしろいだって。
「今のうちによく見ておいたほうがいい。ここまで近づくことは滅多にないから」
「げ!? そなの? じゃあ今からあの星に行こうよ」
「ん……僕はいいよ。ここで見ている方がいい」
「えー、つまんねぇよ。
じゃあさ、次にあの星が近付いたら絶対行こう!」
「次に最接近するのは、確か二百八十四年後」
「うげっ」
気の長い話だなー。
二百八十四年後って――ああダメだ、想像できないや。
「だけど、今夜は運がいい」
「なんでさ?」
「今までで、コレと同じくらいの大きさで見れたのは六万年も前なんだ」
「へえ! そっちのがもっとスゲー! オレたち、六万年前と同じ星を見てるのかあ」
ミストは、また空を見ながらコロンと仰向けに転がる。
「さあ、今夜は星を見ながらの休息だ。なかなか風情があるじゃないか」
少し湿った草の匂いが心地よく風にのる。
オレは少し考えた。
「……単なる無一文なだけじゃん」
「なんとでも言え」
あ、なんか拗ねたみたいだ。
めずらしー。
「まぁ、いっか」
こうやって相棒と、赤い星を眺めながら夜を明かすのも悪くない。
草原の中の、小高い丘の上。
六万年前と同じ赤い星が見れたんだから、二百八十四年後の星だって見れる気がした。
そのときは、またこの丘でこうやって眺めたいなって、オレは思う。