白い世界03
「シェタ、行こうか」
オレに言って、それからくしゃみをひとつ。
「だけど、オレ今動けないじゃん。オレの足――タイヤだけどさ、雪に埋もれちゃってるし」
そうそう、今のオレは面白半分で、壊れかけたジープにとり憑いている。オレがミストの代わりに運転しているようなもんだ。
それでも相棒は、深い足跡を残しながらジープに乗り込む。
「行こう。ここは私たちを歓迎してくれるものが何ひとつない」
相棒は、かじかんだ手で何度もキーを回してエンジンを温めようとする。
しょうがないなぁ。
「相棒、この雪が止まらないとオレが動かすのは無理だよ」
オレは、助手席に座って相棒を覗き込む。相棒がキーを回すのに合わせて、かかりそうでかからないエンジン音が車内に響く。
「トランクに携帯用のヒーターと毛布、あっただろ? それつけて、雪が止むまで毛布にでもくるまっておきなよ」
「……」
「とにかく車に乗ってれば、雪と風は避けられるだろ?」
「…………」
オレが提案してるのに、無視してキーをまわし続けてる。
「………………はぁ、こんなに気温が低くて寒くて、相棒は手がかじかじ。こんな中を走ったら、間違いなく崖から落ちるだろうなぁ……
はぁ〜、オレの未来はスクラップで終わるのかぁ……」
「縁起でもない」
そう言ったけど、オレが隣で深いふかぁ〜いため息をつくと、エンジンをかけようとする相棒の手が止まった。
そして、トランクから布を引きずり出す音が聞こえ出す。
急いで運転席に戻って、真っ白になった服の雪を払い落とす相棒。
オレはにこっと笑みがこぼれた。
「きっとすぐ止むよ」
「……だと、いいな」
そう言ったきり、ミストは助手席に一枚毛布をかけ、自分も毛布にくるまって静かに目を閉じた。
あたり一面、どこまでも白だった。