帰宅部1×2人
田中が拾った人形は、真っ黒だった。
それはとても簡易な作りであり、高等学校の北校舎三階廊下に捨てられているには似つかわしくなかった。どうやら女の子の人形らしい。毛糸の髪が、リボンを使って可愛らしくおさげになっていた。手の先には指もなく、それは確実に小さい子ども向けに製造されたものであろう。少なくとも高校生が学校に持って来てまで愛でる用ではないはずだ。
でも今のこの人形では、子どもはプレゼントされたって絶対に喜ばないだろう。
黒いマジックか何かで塗りつぶされた気味の悪い人形だ。
顔を含めた肌の部分はもちろんのこと、その上に重ねられた服や靴、先述したおさげ頭と小さなリボンまで。隙間なく黒で塗りつぶされた人形だった。
田中はそれを眺めていた。くるりと手首を返して裏側も見てみたが、やっぱり真っ黒に塗られている。しばらくこうして人形を観察しているが、田中が誰かに見とがめられることは無かった。ここ北校舎三階にあるのは音楽室と音楽準備室の二部屋だけで、この階に居るのは田中と、さっきまで彼と一緒にいた音楽教師だけだからだ。
気が済むまで人形を眺めまわしていた田中だが、一部の隙もなく綺麗に塗られているのを確認すると興味は失せたらしかった。その黒い人形を廊下の端の階段まで持っていき、その手すりにちょこんとのせた。
無駄に新しいらしい、ほつれの無い人形は、真っ黒いだけの顔で階段を見つめていた。
人形が落ちないようにバランスのとれた状態であることを確認して、田中は階段を下りていった。