第陸話 夜の闇と心の闇 =弐=
「んー・・・ここにはいないな・・・百鬼!!!そっちはどうだー?」
只今、夜の11時55分
「・・・まだいない。」
夜番ということで、寝静まり、少しのネオンや明かりの漏れる道を歩く
「ん~、にしても。最近は物騒で、誰も夜遊びなんざしちゃいないなー」
「ナンパすんなよ、高杉さん」
「敬語かタメか統一しろよ」
「必要ないことは嫌いだ」
「・・・・・」
・・・・・・・。
「てか、高杉。。。お前、自分の組の組員は?」
「あ?・・・あー、桂に任せて抜けて来た」
「・・・・・。」
ガンっ!!!!!
怒鳴り声と共に高杉の頭に大きなこぶができたことは言うまでもない。
「殴ることねェじゃん~、冗談だって、俺は一人でこのあたり見廻ってんの。桂と久坂と坂本も了承済みだ」
「冗談でもいうか、普通」
「・・・冗談もたまには大事だと思うけどな」
「そうだとしても、今の発言は人間的に駄目だろ!!!」
頭抱えだした恭夜の肩をポンポンと叩き慰める
「高杉さんの冗談は今に始まったことでもねェし、気にするだけ損。」
「ひでェな、百鬼。。。」
ピピピッ・・・ピピピピッ
突然、無機質な電子音が耳に入ってきた
この音は・・・・・
「話してるうちに12時だな」
復活し、真面目な顔で恭夜が言う
「本業、始まりにしては色気のない電子音だがな」
高杉さんは口元をニヤリと歪め、楽しそうに発言した
「ここからはいつ、何が来るかわかんねェから気を付けねェと」
百鬼は金色に近い瞳で真っ直ぐ前を見つつ、高杉と恭夜に助言する
「わかってるさ」
恭夜がそう呟くと同時に、サッと鉄クサい匂いが鼻をかすめた
ズル・・・・
ズル・・・
血肉の腐った匂い
そして、何かを引きずるかのような音
「言ってる傍からお出ましだ~」
高杉さんの笑みが狂喜を含む
「呑まれんなよ。俺まで巻き込まれんのは御免蒙りたいからな。」
「誰にモノ言ってんだっての」
恭夜がそう言い、腰の刀の柄に手を掛ける。
高杉さんも大太刀の柄に手を添える。
相変わらず、身長に見合わない刀を持ってんな・・・
そんな風に百鬼が考えると同時にそれは闇から這い出てきた
のっぺらぼう。
正確には、『肉塊』
土葬にされた人の肉が人の念と土地の力を吸って妖怪へと転じたもの。
身体に触れられることはすなわち、肉塊の一部となり死ぬことをあらす。
俺達陰陽系の者達は多少は大丈夫だが、怪我を負おうものなら、瘴気が空の中に入り、気持ち悪くなる。
「今回はまた、面倒な悪鬼だな・・・・・」
のっぺらぼうは、先ほども言った通り、触れたものを自身の肉塊の一部として殺してしまう。
人に害を与える妖怪は悪鬼と呼ばれる。
それはつまり、俺達の懲伐対象ということだ
「俺、こいつブヨブヨしてて嫌いなんだけどなー」
高杉さんが呟く
「馬鹿、俺もだっての・・・」
のっぺらぼうはただの『肉塊』だ。
骨なんかない。霊魂や念だけで芯を持ち、獲物を求めて。身体を求めて動き回る。
腐った血肉の匂いだけでも普通の人間には辛いだろうに・・・・・
こいつを切るなんてことはもう・・・・・無理だろ。
第一・・・・・
「俺も嫌だ。」
好きな奴なんか、相当の死体マニアとかじゃなきゃいないだろ。
それでも、斬らなきゃならない。
殺らなければ、俺達が殺られる。
「さっさと片付けようぜ」
少し笑みが漏れた。
「It's show time♪
お手並み拝見させてもらうぜぇー・・・『誠・いろは四七隊』殿。」
ニヤリ・・・と、少し大きい民家の屋根の上で金色の髪をした男が尻尾をゆらしながら呟いた。