第参話 人ごみ紛れて
さてさて、ここは三条大橋の手すりの上です。
高杉さんからあずかった手紙を届けるために奮闘中。
「・・・ここからじゃ見えねェか・・・」
橋の手すりの上に乗り、まっすぐと大通りを見据える。
人が多いし、どこにあるかわからない
でも、京都は俺の庭のようなものだ
それこそ、ここに京の都が出来たころから。
何百年も何千年も前から俺のもの。
今更道に迷うなんてことにはなりはしない
ストっ
手すりの上から飛び降り、旗を抱えなおすと百鬼は真っ直ぐと大通りの方へ眼を向けた
「さて、行くか」
手紙を確認し、しっかりとした足取りで前へと進んだ百鬼は次第に人ごみに紛れていき
そして見えなくなった
いつの間にか橋の手すりの上に狐が一匹いて、
そいつが百鬼を見つめるばかりだった
和菓子屋『金文字』
創業125年の歴史を誇る江戸の老舗和菓子店。
品ぞろえはそこまで多くはないが、確かな腕と味を長年保ち続けているために広い世代に愛される。
長らく女性人気が高かったが、最近では男性人気も高くなりつつある
その理由は・・・・・
「奏ちゃーん、お団子三つ。二番テーブルに持って行ってねー」
「はーい。解りました!!!」
「奏ちゃ~ん、また来たよー」
「いつも有難うございます!!!」
「奏ちゃーん」
「はーい!!」
看板娘の『奏』
働き者の大和撫子として有名な町人の人気者。
外からでも聞こえる大量の『奏コール』を全く気にすることなく(というよりボーとしてる)
百鬼は『金文字』の暖簾をくぐった
「あ、いらっしゃいませー」
すぐさま、近場にいた女性がこちらに気付き近づいてくる
「何名様ですか?」
「あ・・・すみません、お客じゃないです。。。いろは四十七隊の高杉さんの使いできました。『奏』さんはいらっしゃいますか・・・・・?」
あまり人の多いところの得意ではない百鬼は少し戸惑いながら届け先の(裏に書いてあった)『奏』さんを探す。
「あ、そうなの!!高杉さんのねー・・・あ、ちょっと待ってて!!!奏ちゃーん、ちょっといいかしらー?」
少し遠いところから「はーい、今行きまーす!!」という声が聞こえてき、すぐに一人の女性が駆け寄ってきた
「なんでしょうか?女将さん」
・・・女将だったんだ
「ふふっ、高杉さんから手紙ですって、この方が届けて下さったわよ?」
「高杉さんから?」
奏さん嬉しそうな顔をしたので、百鬼が手紙を差し出す
「す、すみません!!女将さん、少し開けますね!!!」
奏さんは手紙を受け取ると、女将に一言謝り、奥へと入って行った
「ふふっ・・・ごめんなさいね。あの子、高杉さんからの手紙を毎週楽しみにしてるのよ」
毎週・・・・
そういえば、毎週高杉さんはどこかに出かけていたな・・・・
うっすらと思い出しながら納得する
ああいうのが逢引きっていうのか・・・・
昔、アイツもしてたなー・・・わざわざ下まで降りてって・・・・・
もう昔の話だ、寂しくなるだけ。
踵を返し、店の出口へ向かう
「あら、もう帰ってしまうのですか?」
「・・・すみません、まだ仕事があるもので・・・」
少し微笑を浮かべそう答えると相手もわかってくれたようだった
ふと、出入口に置いてあるお菓子が目に入った
金平糖
しかも、これは・・・・・
「フッ・・・ここのだったのか・・・」
旗を持ち直し、朝の高杉の様子を思い出す。
金平糖美味かったな・・・・・
「また・・・高杉さんに買ってきてもらうとするか」
意地の悪い表情を浮かべ、独り言を呟く
そして、百鬼は店から出、再び人ごみに紛れた
自分にはわからない
人の愛というものが
人は何故、人を愛すのか
人は何故、モノを愛すのか
人は何故、、、
長く傍にいたというだけで
それを愛すことが出来るのか
俺にはわからない